襲撃
数日の船旅を経て久しぶりにスカラレイへと戻ってきた
アンとサーラは未だに追いついて来ていないがあの2人に万が一はあり得ないので余り気にしていない
港には沢山の船が停泊し荷物を移動させる船員達の賑やかな声が響いていた
船に満載された荷物を騒がしく下す船員達を横目に
船に架けられた橋を渡り
船旅も悪くは無いんだけどやっぱり地面が一番だな
そんな事を考えながら地面を踏み鳴らしていると
「アー君、パパの為に市場に買い物に行くから先に宿を探しておいてくれない?」
母ちゃんの言葉に頷きポチを連れて歩き出そうとする俺に
「ちょーっとまって!」
母ちゃんが近づいてきて耳のピアスに触れる
何かゴニョゴニョと呟き笑顔で頷いている
「これで目を離した隙に邪魔者が来る心配も無くなったわ」
「母ちゃん?何したの?」
「ん?あぁピアスの機能を一時停止したのよ!」
ふふん!とドヤ顔で胸を張る母ちゃんに呆れて大きなため息を吐きながらポチを呼び宿を探しに行く
少し歩いた所でお金を少しも持っていない事に気づいた
普段の旅だと全てアンに任せていたからそれこそ硬貨一枚も持っていない
「ポチごめん、母ちゃんを追いかけないと俺お金持って無いや」
「オレモモッテナイゾ」
毛が無くなった尻尾をふりふり応えるポチに期待は最初からしていない
まだ、分かれて5分ほどしか経っていないから走れば追いつくだろう
ポチに声を掛けて回れ右して走り出す
そんなに急いでもいないが行先を聞いていなかったので迷うと面倒だ
300メートルほど走った所で三人の後ろ姿が遠くに見えてきた
後ろ姿に声を掛けようとしたその時
母ちゃん達を背後から見下ろすように浮かんでいる1人の女の人に気付く
あれ?急に女の人が現れた
後ろ姿でも女の人と解るほどの華奢な身体と足元まで伸ばされた長い水色の髪の毛
母ちゃん達は女の人に気付いていないようだ
女の人は背後から母ちゃん達に向かって右腕を上げた
その瞬間走っていた俺の身体中に悪寒が突き刺さり走り続ける事が出来なくなる
それと同時に、母ちゃんが女の人を振り返る。
今まで、見た事が無いほどの驚愕の表情を作る母ちゃんに、危ない!と声を掛けようとする前に
女の人の右手が振り下ろされる
ドガァーンと耳をつん裂く音と共に地面わ地震のように揺れ道沿いに建つ建物は爆風に壊れていく
爆風に飛ばされた俺をポチが大きくなった体で受け止め土煙から身を挺して守っている
飛ばされた影響で思考が上手く回らない中、母ちゃんがいた場所に目を凝らす
舞い上がった土煙が少しずつ収まり視界が元に戻ると、そこには、道があった場所に大きなクレーターが出来ていた
母ちゃんの姿を探すが見当たらない。
横を並んで歩いていた父ちゃんの姿も見えない
左の建物に叩きつけられたミストの父親が立ち上がり女に向かって炎を飛ばしている
この時初めて母ちゃんと父ちゃんが攻撃されたのだと気付く
考えが纏まる前に走り出す俺
腰に下げた斧を手に持ち女の元へと向かう
女はいつの間にか右手に鳥籠を持っていた
目の前に辿り着き声を掛けようとした時
鳥籠の中に、小鳥ほどの大きさにされた母ちゃんと父ちゃんが捕まっているのに気づいた
考えるより先に
「母ちゃんを返せ!」
言葉と共に斧を投げつける
「面妖な」
投げつけた斧を指一本で止め倍の速度で投げ返して来る
「坊ちゃん!危ねえっ!」
ミストの父親に抱えられギリギリな所で斧を躱す
地面深くまで刺さった斧
「呪われし子よ、今何と言った?」
鈴の音のように軽やかで透き通る声が女から聞こえてくる
「お前がその籠に閉じ込めているのは俺の母ちゃんと父ちゃんだよ!早くそこから出せ!!」
女は眠たげな瞳を少しだけ開き鳥籠に向かって小さな声で話をしている
小さくなった母ちゃんからはまるで小鳥のようにピーピーと甲高い声が聞こえている
女は何度か頷き左腕を曲げひじを前に突き出しながらこぶしを握り何もない空間を殴る
まるでガラスが砕ける音が響き何も無いはずの空に穴が開く
「呪われし子よ母親に会いたければ我を探すが良い」
透き通る声を響かせて告げる言葉に女の顔をしっかりと見つめる
水色の長い髪、白磁のように透き通った白い肌
頬は赤く、眠たげな瞳は少し虚に見えた
「では、また会う事もあろう」
そう言って女は空中に空いた穴へとその身を翻す
女が消えた後何事も無かったかのように穴は消え辺りは静寂に包まれる
地面に残されたクレーターがまるで悪い夢のように口を開けていた
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