穏やかな日
船室にて、新たな身体を手に入れ窮屈な場所から甲板に行こうと妻の勧めのまま甲板へと向かう
狭い階段を登り陽光に照らされた甲板へと
愉しげで騒がしく船を操舵する水夫達を横目に
甲板を移動する
妻は片耳を押さえながら満面の笑みで息子と会話を楽しんでいた
その時不意に現れたクラーケン
会話を遮られた事に腹を立てた妻に空へと張り付けられる
まるで冗談のように全ての脚を細切れにし手下のように付き従うオヤジに炙る様に指示を出している
余りの出来事に呆然としている水夫達をよそに炙ったタコで昼食の準備に取り掛かる妻
甲板の空いたスペース、海に向かって出された調理台で炙りタコのフルコースを手際よく作る妻
同じく出されたテーブルと椅子に腰掛け料理の出来上がりを待つ
何時の間にか甲板先端で寝ていたポチも匂いに釣られてテーブルの下に
我妻の魔術は相変わらず規格外ではある
俺も良く勝てたもんだな
母ちゃん達と別れた後
かなりの速度で沖へと走る船を見送った後、港を歩きながら指輪の依頼をしていた店へと向かう
「いらっしゃい」
「どうも〜指輪の依頼してた者ですけど」
「あぁ、エデン坊ちゃんのお知り合いの方だったな、化け物鮫が退治されたから直ぐにでも漁が解禁されるだろう。珊瑚が手に入るまでもう少しだけ待っててくれんかね」
あっ!そうか、直ぐに珊瑚が手に入るわけ無いもんな我ながら考えが浅かった
直ぐに追いかける予定だったので少し困った顔をしていると
「私採ってこようか?」
左腕に抱きついていたサーラが訊ねる
「馬鹿言っちゃいけねぇよお嬢ちゃん?宝石珊瑚なんて只人なんかに採れるシロモノじゃねえよ。その辺の砂浜に落ちてる珊瑚じゃねぇんだから」
どうやら、海のかなり深い場所に稀にあるらしい
広く深い海の中で探すのは至難の業なのだろう
だがしかし...
「行けるよ?」
サーラは無表情のまま店のオヤジへと言い放つ
「ええ?!」
「魔術があるから」
「お嬢、アンタ魔法使いなのかい!コイツはたまげたなぁ!」
大袈裟に驚いているオヤジに珊瑚の説明を促すサーラ
「つまり、桃色から赤へと色が濃ゆくなるほど価値が高くなるのさ。後は亜種として偶に紫やら緑やらが採れるが其れこそ何年に一度あるか無いかなんで、まぁ桃色珊瑚が手に入れば御の字だな」
ガハハと笑いながら話すオヤジの話に頷きながら
「じゃぁ、お兄ちゃんちょっと行って来る」
まるで直ぐそこの店にお使いに行くようなテンションで歩き出すサーラ
サーラと母ちゃん達を見送った港へと戻って来た
「直ぐに帰って来るから」
俺の首に腕を回し抱きついて来るサーラ
「あぁ、気を付けて」
「もう!サーラ様!」
俺とサーラの間に身体を割り込ませながらアンがサーラを引き離す
恨めしげな目線でアンを睨みながら一言二言恨み言を口にして海へと向かう
スタスタと何も気にする事なく歩きそのまま海の中へ、よくよく見ているとサーラの身体の周りが球状な円を描いて海水が避けている
ドン!と言う音を残し海の中へと消えて行くサーラ
港を囲む船着場に腰を下ろしアンの膝枕でノンビリとサーラを待つ
そう言えば気になっていた事が
「母ちゃん」
『な〜に??』
左の耳から少し嬉しげな声が聞こえる
「叔母さんって戦う技術も無いのに危険な塔か洞窟にどうやって住んでんの?」
『あぁ、それはねぇ〜昔、母ちゃんとお姉ちゃんの2人で飼ってたペットを連れて行ったからだと思うのよ』
ペット?
「ペットって??」
『昔、母ちゃんが捕まえたペットよ?』
「うちで言うとポチみたいな?」
『そうそう、母ちゃんが捕まえたのに3匹共連れて行っちゃったのよ?酷く無い??』
「犬を3匹も??」
『犬1匹と猿と鳥の3匹よ!あっ、ちょっと待ってて』
犬と猿と鳥?桃太郎か?
何かあったのか少しの時間を置いて
『で?何だっけ??』
「ペットの話だけど、母ちゃんのペットって、まだ生きてるの?危険な場所なんでしょ?強いの?」
『う〜ん、生きてるのは生きてるのよね。掛けた加護がまだ切れて無いから。強くは無いのよね〜私の加護とお姉ちゃんの回復でほぼ無敵だからその辺のドラゴンぐらいじゃ負けないけどね』
「なぁアン?ドラゴンに負けないペットってどう思う??」
「坊っちゃま....化け物ですわ」
まるで、常識の無い人を可哀想な目で見るのはやめて欲しい
アンの膝枕の柔らかな感覚にウトウトとしながらサーラを待つ
最近色々あったからこんな日があっても良いよね
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