船上にて2
海上穏やかな中、船は連合国を目指す
デッキ先端部で太陽にお腹を晒して眠る犬1匹
7匹の雌犬から命からがら逃げおおせたポチの姿はこの世の春の幸せを噛み締めながら心地よい海風にうたた寝を満喫していた
連合国へと向かうアーザル商会の貨物船
足止めを食らった分を取り返す為今回はいつも以上に貨物を積んで出航していた
船の見張り台には水夫が二人
長らく報告はされていないが万が一海賊や魔物の襲撃に備えて海上四方へと警備の目を向けていた
ふとデッキへと目をやるとエデン坊ちゃんのお知り合いの客人が目に入る
黄緑色の髪の毛の女の子に赤い髪の毛の中年、紺色の髪の毛の青年の3人1人はこの船に乗り込むときは頭からローブを被っていたはずなのに?
そんなどうでも良い事に心を動かしているともう1人の見張り員がおかしな声を上げる
「おい?今のなんだ?」
「ん?」
「今、海面が黒く動かなかったか?」
「なに?海面が黒く動いた??なんだお前酒でも飲んでるのか??」
「いや、何でもないちょっと疲れてるのかもしれん」
目を閉じて頭を振る仲間を心配そうに見つめ
「疲れてるんじゃないのか?久し振りの海上だし誰かに代わってもらえよ」
仲間に声を掛け頷きながらそうだなと呟く仲間を見ている視界に紫色の何かが映る
「え??」
目の前に現れたものに驚きを通り越して現実味を感じない
アーザル商会の所有するこのガレオン船は約50メートル、その船よりも大きな何かが海面へと姿を現す
「「ク!クラーケン!!」」
2人の声が重なり瞬時に絶望を悟る
化け物鮫にこの海域より締め出された餌に釣られて普段居着いているもっと深い海域より上がってきたクラーケン
2人の水夫はなすすべなく姿を見せた化け物に腰を抜かし見張り台に身を屈めるように隠れる他なかった
デッキでは蜂の巣を突いた騒ぎ
もう2度と会う事が叶わない娘の名を呼びながら見張り台で神へと祈る男の頭上にクラーケンがその大きな体を晒す
信じられない大きさは船の何倍もあった
同じく腰を抜かしてへたり込んだ仲間が気の抜けた声で呟く
「クラーケンって空を飛ぶんだな」
恐怖のあまり仲間は気が触れたのかと思ったが、確かに全ての足を伸ばした状態で空を飛んでいた
「あぁ、そうだな生きて帰れたら娘に話してやろう」涙をながしながら答える
次の瞬間
クラーケンの脚が次々と5メートル間隔程に切れて行く
とうとう、自分も頭がおかしくなったのかと考えていると切られた脚が次々炎に包まれて船へと近づいていく
何故かクラーケンからは怒りとも泣き声とも取れる声が出ていた
八本あった脚は全て無くなり胴体部も綺麗に賽の目に分かれた時その異常さに気がつく
「お、おい。一体何が起こってるんだ?」
「夢だ、悪い夢。」
仲間の問いかけに夢だと現実逃避する
夢にしては魚介の焼けたとても良い匂いがする
恐る恐る見張り台にしがみつきデッキを除くと
黄緑色の少女が赤毛の中年に指示しながらクラーケンを炎で炙っていた
夢にしては良い匂い
デッキの先端では小さな白い犬が腹を見せて眠っている
「もう、何がなにやら」
空は晴れ海上は穏やか船は連合国を目指す
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