火山の男
自由連合国の遥か南の海上にぽつんと位置する名もなき火山島
大きな噴火の影響で小さな島が出来火口からは煙が今ももくもくとのぼる
島の中央には今も噴火を繰り返す火山があり
島には生き物はおろか植物さえも存在しない
そんな火山の火口
真っ赤に煮えたぎるマグマの脇にひとりの男が反射熱で焼けた石に腰掛けて自分の指でマグマを掬い口へと運ぶ
鍛えあげたかのような肉体に焔のような真っ赤な髪の毛とお揃いの髭
「相変わらず、不味い。こんなに美味しそうに見えるのに何故不味いのか?」
常軌を逸したこの行動を咎めるものなど此処には存在しない
男は人ではなく焔の精霊であり、この火山の管理人
火山の噴火を抑え環境を整え生物や植物が生息できる島へと変化させるのが仕事である
「うーむ、暇なのだ」
煮えたぎるマグマに石を投げひとり愚痴る
その昔、余りの退屈に耐えきれずこの場所を少し、ほんの少〜しの間離れ他の精霊の所へと遊びに行った事がある
その時はまだ海面から少しだけ出ていた火山が大噴火を引き起こし見事な島へと変化した
その事が妻にバレ往復ビンタを喰らい150年間正座プラスお小言を頂戴する羽目になった
決して妻が怖くて離れる事が出来ない訳では無い
管理人としての職務を遂行しているのだと自分に言い聞かす
「しかし、あの時は怖かったな」
思い出し背筋が凍る
そんな事を考えながら煮えたぎるマグマを眺める
そんな、彼の元に危急を報せる娘からのメッセージが届く
長女が得意とする精霊獣の小さな鳥が運んできた報せは
(妹を誑かして攫ったエルフが自分の所にも来ている、至急応援を頼む)という切迫詰まった物だった
男は考える
娘達は女だが、たかだかエルフに遅れを取ることはそうそう無いはずだ
しかし長女から応援を要請するメッセージが届くという事は只ならぬ相手
一刻を争う事態に男は慌てふためく
娘の召喚魔術と同じものを男も勿論使う事が出来るが男が召喚出来る精霊は何故かゴリラのみ
しかも、召喚されたゴリラは男の言う事を全く聞かず暴れ回る。その昔友人がこの島に訪ねた折に度が強い酒をしこたま飲み前後不覚の状態でゴリラを召喚し、妻が苦労して植えた森の木を一つ残らず海へと投げ捨てると言う事件を起こしている
あの時は往復ビンタからの頭突き頭を抑え蹲った所にバックドロップと見事なコンボを喰らい怒った妻は未だに口を聞いてくれない
「美人には棘があると言うが..はぁ。おっと急がないと」過去の過ちの記憶に頭を振り娘の召喚獣へと魔術をかける
「すまんな、フォレスの所まで連れて行ってくれ」魔術で手のひらサイズから横幅3メートルの大きな鳥に姿を変えた精霊獣へと話しかける
「........」
話しかけられた鳥は聞こえないフリを決め込み横を向き知らん顔している
当然召喚者でない者の言う事など聞く必要もないのだが、そこは一刻を争う事態、知らん顔を決め込む鳥の背中に飛び乗る男
「よし!行くぞ!!」大きな声で出発を告げるが鳥は一向に動こうとはしない
背中で飛び立つ動きに備えている男は中々動こうとしない鳥に対して
「そうか、俺を乗せるのは嫌なのか、はぁ、なんだか催してきたなぁ、このまま背中でしてもいいんだが?」鳥にゆっくりと話しかけながらズボンのベルトに手を掛ける
驚愕の表情で振り返った鳥はとても悔しげに一声鳴き翼を広げて大空へと飛び立つ
「ふふふ、最初からそうやって素直に言う事を聞けば良いものを」まるで時代劇の悪代官の様なセリフを吐きながら空高く飛ぶ鳥の首を優しく叩く
男には見えていない。とても悪い顔でニヤリと笑う鳥の表情が
「フォレスの家に降ろしてくれ」
男は慣れたのか背中の上で胡座をかき鳥に指示を出す
メンドくさそうに一声鳴き応える鳥
そろそろ目的地か?と思いながらも中々高度を下げない鳥
召喚獣なので道に迷う事など考えられない
安心して背中で寛いでいると
急に鳥は空中で反転する
「え?」
当然背中から落ちる男
「うわっーーーーーー!!」
男は両手を広げ自分の今置かれている状況を考える
「なんでじゃーーー!」
かなりの上空で落とされたので用意していたら対応出来たかも知れないがあまりに突然の事に対応できずに地面にぶつかる
普通は即死の状況ながら男は鍛えあげた肉体で冗談の様な穴を地面にあけ声を振り絞り助けを呼ぶ
「た、助けて〜」
◆◆◆◆
突然上空から落ちて来た男
穴の中から微かに助けを呼ぶ声が聞こえてくる
「どうする?多分厄介事だと思うけど」
アンに尋ねると
「そうですわね、あの高さから落ちて来て生きているのは普通の人間では考えられませんから、放置するというのも一つの手かもしれませんわ?」
「ワン」
一応声を掛けて見よう
「大丈夫ですか?」
「いえ、駄目みたいです」
すぐに返事が返ってくる所から見ると心配なさそうだ
「大丈夫みたいだから関わらずに町へと帰ろうか?」
「そうですわね、エデン様も心配なされているかも」
「ワン」
俺たちの言葉を聞き砂煙をあげながら穴の中からおっさんが飛び出してくる
「ちょっと待てぇぇぇぇい!貴様らはそれでも人間かぁぁぁっ!!」
「いえ、ハーフエルフです」
「ゴーレムですわ?」
「ワン?」
三人でこのおじさん何言ってんだ?みたいに返えす
「あ、いや。ごめんおじさんが悪かった。いや、でもさぁ?こういう場合?なんか、ほら?助けない?ね?ほら、分かるでしょ??見たことない?本とかじゃ助けるじゃん?ね?言ってる事わかるよね??」
微妙にウザいおっさんが絡んでくる
このおっさん見た目はまるでラグビー選手の様だ
日本代表のク○髭ゴリラによく似ている
「いえ、ちょっと何言ってるか分からないんでもう行きますね約束があるんで」
「行きましょう坊っちゃま」
「ワン」
「あ、なんだかごめんね?いきなり引き止めちゃって。おじさんの事気にせず行って。って!待てぇぇぇい!!」
おっさんが先に進み始める俺たちの前へと回り込む
「もう、なんなんですか?」
「坊っちゃま、余り関わらない方が良いのでわ?」
「ワン!」
「私の可愛い娘を誑かして攫ったエルフは貴様だろう!逃す訳なかろう!」
「いえ、人違いです」
キッパリと言い切りおっさんを避けて進む
「え?あ、何度もごめんねぇぇぇぇ!何て言うかぁぁぁ!」ウザいウザすぎる
「坊っちゃま、ミストの事かと?」
「え?、あ、ミストの事か」
「それっ!ミストだ!ミスト!!知ってるじゃないか!ほらやっぱり!!」
「いえ、知りません」
俺はおっさんの相手をする気は無い
「え?なんで?なんで?どおしてそんな嘘つくの?ねぇ?なんでかなぁ?」おっさんは縋り付く勢いでおれ達に近寄ってくる
「いや、だから知りませんって」
「キーサーマー!やはり!極悪なエルフだなぁぁぁ」
「いえ、ハーフエルフです」
「あ、ごめんね。キーサーマー極悪なハーフエルフだなぁぁぁ!」このおっさんいつまで付いて来るつもりなのだろう?
如何でしょうか?
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