閑話[龍王国にて]
龍王国の王フリッドに報告が齎される
「間も無く冒険者が王城へと到着する模様です」
王は懐かしい顔を思い出し謁見の間へと足を運ぶ
龍王国王都[ムーンシーロ]
海龍討伐のパレードが行われ
冒険者が討ち取った海龍が街を練り歩く
冒険者は一足早く王城へと向かい
民衆への顔見せは後日行われる予定だ
王城の謁見の間には
王都の重臣が集まり冒険者を待ち受けていた
「フリッド様、冒険者が到着致しました」
「通せ」
不機嫌そうに短く答える王、口数の少なさはいつもの事なので近衛の一人が扉へと向かう
現れた冒険者は二人
王にとっては懐かしい顔ぶれ
「久しいなランフォード」
王は笑顔で冒険者に語りかける
「やめてくれフリッドその名は捨てたんだ」
冒険者は顰めっ面で横柄に答える
二人の関係を知るこの間の重臣は何も言わず
旧知を温める主人を見つめている
「ふふ、ケビンまだ父親とは仲直りしていないのか困ったものだな」
少し困り顔で語りかける
「あっちが謝らない限り俺からは折れる事は無い」
「ドノバンの気持ちも考えてお前から謝ってやれんのか?我らと違い人族は寿命が短い。我はドノバンとも友人だからな」
王は優しい顔で語りかける
「考えとくよ」
「トリンシァ、久しぶりだな」
王の顔は少し険しくなり語りかける
射抜くような鋭い瞳は普通の人ならばそれだけで気を失うほど他人を圧倒する
「久しぶりね、フリッドちゃん」
周りの重臣達がその無礼に騒めく
「ふ、貴様だけだ我をちゃんなどとふざけて呼ぶのは」
「あら?気に入らない?ここでリベンジマッチしても良いわよ?」
室内の空気が変わりピリピリと張り詰めていく
「相変わらずだな」
王は玉座から立ち上がる
側近達が腰の剣に手を掛ける
「やめろ、二人とも」
ケビンは呆れたように呟く
「だってぱぱフリッドが意地悪言うんだもん」
「な!じ、自分から我に喧嘩吹っ掛けてきたくせに相変わらずの我儘!」
室内の空気は元の柔らかな物に変わり
側近達は大きなため息を吐く
この場にいる冒険者を知らないものは居ない
自分達の王と共に世界を旅した男と
王と男が協力して倒したはずの災惡の魔女
この城で三人が暴れたら甚大な被害は城だけで収まらず街をも破壊の対象とするだろう
「で、トリンシァ、その頭はなんだ?いつから大道芸人になったんだ?」
「あ!ほら!馬鹿にする!ねぇーぱぱ?フリッドが意地悪するぅ」
「あぁ、生まれてくる子供が虐めに遭わないように自分でやったんだ、俺は大丈夫だって言ったんだがな」
「そうか、トリンシァの水色の髪の毛は絵本にも描かれているからなその方が良いかもしれんな」
「で?二人で田舎に引っ込んだはずのお前達がなぜまた表舞台に?」
「ああ、一人息子がトリンシァと喧嘩して家出したから探してたんだ」
「喧嘩なんかしてないもん!」
「ふむ、息子を探して海龍をついでに討伐か相変わらず桁外れだな」
「まぁ龍の方は成り行きでやった事だ余り大袈裟にしないでくれ俺達は静かに暮らしたい」
「相変わらず無茶ばかり言うな」
「ふふ」
「ふふふ」
二人はニヒルに笑いながら見つめ合う
それで全てが通じるように
「せっかく来たんだゆっくりしていけ」
「ああ、そうさせてもらう」
「此度はご苦労であった」
王はそう言い残し部屋を後にする
二人は一礼して部屋を出ていく
廊下を歩きながら変わらない友に思い出し笑い
王国王都は厳かな雰囲気のなか
秩序が守られたこの世界で一番安全な国
国の守備警備を担う龍人は悪には容赦なく善人には暖かな笑顔で接し民衆からの支持を集める
王城門前に一匹の犬が飼い主を待ち望んでいた
周りを龍人に囲まれて震えている
「ポチー♩」
その少し高い声に尻尾が反応し千切れんばかりに振られている伏せていた耳は立ち声の方向へと走り出す
飼い主は勢い良く飛び込んでくる犬を両手で受け一回転して頭上へと勢い良く投げる
「きゃぃぃぃぃぃんんんんんん」
真っ白な犬は真っ青な空高く飛んで行く
飼い主は愛情表現が上手くない
周りにいた兵士達は少し哀れな犬を眺めていた
気絶した犬を背中に背負い街へと向かう
「ぱぱこれからどうするの?」
「少しゆっくりして武王国にでも行ってみるかな後エルフの里にも一度顔出しときたいしな」
「そうだねぇ」
その時(バリンッ!)
何か砕けるような音がする
「きゃあ!」
「どうした?!」
「た、大変だ!ぱぱ!大変!!アー君が!アー君が大人になっちゃった!」
「え?」
とても慌てながらあたふたしている
「アー君が生まれた時に私が掛けた呪..加護が破られた見たい!」
「おい、...呪いって息子に何やってんだ」
ジト目で見つめる
「で?どんな呪いが破られたんだ?」
「私以外の女が触れないような?」
鬼か!何て呪いかけてんだ
「それで、アレックスが大人になった理由は?」
「解呪の方法が愛する人とのキスって呪いなの!」
ああ、それで大人になったわけか
「アー君のPTって男の子じゃなかったの?」
困惑して聞いてくるが
「いや、誰とは言ってなかった筈だ」
「探すわよ!アー君を探して泥棒猫から取り返さなきゃ!呪いの反動で欲望のリミットが切れてる筈だから下手したら犯罪者になっちゃう」
ストーカーの復活の瞬間である
「もう一度言おう何て呪い息子に掛けてんだ!」
王都で五日ほど宿を取り冒険の準備を始める
あーぁゆっくりと温泉にでも行きたいなぁ
◆◆◆
粛々と佇む王都の深夜
街中を駆ける一頭の影
満月にその本能を現し身体中から溢れる
力に自分を抑える事が出来ずに静寂の中駆ける
「ふはははは!俺は今宵王になる!この俺を止めれるものなら止めてみろ!」
俺は街中を駆け手当たり次第獲物に手を掛ける
一晩中そう一晩中、翌朝なぜか俺は辺りを大勢の敵に囲まれていた
「おい!てめぇ!うちのかあちゃんにてぇだしやがったな?」一番大柄なヤツが吠える
「ふざけんな!うちのかあちゃんにもてぇだしやがって!!」彼方此方から唸り声や吠えが聞こえる
「タダじゃおかねぇから覚悟しやがれ!」
「ふん!単なる犬如きが我が月狼に楯突くとは笑止」脚は震えているがこれは武者震い
「なにを!てめぇもちょっと大きい犬じゃねえか!みんな!やっちまえ!!」
「いや、ちょっとまって、はなし、話し合おう、きゃいんきゃいーん」
◆◆◆
「あら?ポチどうしたのボロボロじゃない?野良犬にやられたのかしら??」
その数年後に王国にて月狼の大量発生という不思議な事件が起こるが原因は謎のまま
短いですが如何でしょうか
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