現実とは冷たくつらいもの
自由連合国は王族と貴族の統治により
広大な領地を管理している
貴族は代々続く名家から当主本人が取り立てられた成り上がりまで様々である
男爵のワーレ・シーバクーゾ
曽祖父が戦いで戦功を挙げ貴族となった
歴史ある名家、当主のワーレは気性が荒く部下には鉄拳制裁を基本とする教育をしている
しかし一人娘のオノレーモにはとてもとても甘くその全ての我儘を許し側仕えを大変困らせていた
15歳を過ぎたオノレーモにはある夢があった
絵本に描かれているような
高貴な姫君と名もなき勇者の許されない恋
父の反対を押し切り二人は駆け落ち同然で
真実の愛に生きる
そんな腐妄想がひとりの少女の運命を捻じ曲げ
突飛な行動を起こさせる
男爵家の大きな館、生まれてひとりでこの館から出た事は当然無い、いつも執事やメイドが付き従う。今回は生まれて初めての一人で外出
家出を実行する
世の中の厳しさを知る事になるトラウマと
生涯忘れることの無い旅へと
何も考えず、何の用意も無く家を飛び出した
オノレーモ、実家からは直ぐに捜索隊が出された
この世の中を何も知らない、蝶よ花よと育てられた
貴族の馬鹿娘は、何もかもが上手く行くと何の根拠も無く信じていた
追っ手に気付いて、怖さを知らない森に逃げ込む。
捜索隊は森の怖さを知っているので、まさか森の中へ貴族の姫君が入って行くとは思わず、王都への街道を騎馬で進みながら道ゆく人々に尋ね歩く
見つけられなければ、まず命の保証は無い。そんな事を考えながら、必死の形相で無事五体満足な状態で、発見される事を神に祈って馬を走らせる
森から過ぎ去る騎馬を見送り、ひとりほくそ笑み
オノレーモは旅を続ける。森に飛び込んだせいで服の一部が破け気分は下がっていたが、これから起こるであろう後世に残るラブロマンスに
正常な思考は停止して、腐った妄想に囚われていた
少しお腹が空いたので、街道の脇で休む男に声をかける。
「おい平民、わらわはお腹が空いている、食事を用意せよ!」いつもなら執事は言わないでも用意する。
しかし今は旅の途中、気が利かないのも仕方ないと思い自分から態々平民如きに声をかける。
平民は高貴なわらわに声をかけて貰い
驚いて行動を起こさないまぁ仕方のない事
もう一度声をかけてみる
「おい平民!聞いているのか?食事を用意せよ」
見た目は汚らしく、普通ならわらわに声などかけてもらえるはずのない男3人は、顔を見合わせて何か小声で話している
行動が遅い、注意しようとした時。
「申し訳ございません姫君様」と気持ちの悪いニヤケ顔で一人が答える
「ここでは満足な食事を提供できませんので、場所を移動したいと思います。少し付いて来て頂けますか?」やっと理解出来たようだ
平民は行動が遅いなと呆れながら
「早うせよ、わらわを待たせるでない」
「申し訳ございませんこちらでございます」
と森の中へ、馬車でも止めているのか?と考えていると、後ろについて来た男達がわらわに抱きついてくる!
「はっはなせ!何をする!くさっ臭い!」
「煩いこの馬鹿娘黙ってろ!」
猿轡をかまされて、とても臭い荷物に包まれて何処かに運ばれていく
地面に投げつけられ、オノレーモは声を上げる。
痛さに呻きながら猿轡のせいで喋ることは出来ない、匂いの元の包まれていた荷物を解かれ
新鮮な空気を胸一杯に流し込む。
少し落ち着いて辺りを見渡す
汚らしい男達が、無礼な眼差しで此方を伺っている。
中でも偉そうな男が
「おい!この娘の服についてる紋章は!!あの気狂い男爵の紋章じゃねえか!まっまさか一人娘を攫ってきたのか!!」
お父様に対する口の聞き方を知らない男が、やっとわらわの身分に気づく、まぁもう許す気はないけど
「かしら、ど..どうしやしょう??」
男達が近寄りコソコソと何か話ていた
直ぐにでもわらわを解放なさい!
とモゴモゴ言っていたら
「おい、あんたの家に身代金を持って来させる、
その金と交換で解放してやる」
そんなくだらない事はどうでも良いから、この猿轡を外せ!と喋ることが出来ないが命令する
「身代金?どうでも良いわそんなことそれよりわらわはお腹が空いているの!早く食事の用意をしなさい!」
わらわの癇癪に、男達は慌てて食事の用意をする。
目の前に並べられたのは、犬さえ避けて通るような
残飯とも言えない酷い物
「こっ!こんな物が食べられるか!」
わらわのイライラは頂点に達していた
一流のシェフを用意して直ぐに作り直せ!と叫び続ける、自慢では無いが声の大きさは父親譲りで何時間でも叫び続ける事が出来る
「か、かしら、何とかしてください!あ、あたまがおかしくなりそうだ」
叫び出して早1時間以上そのうち収まると思っていたが手がつけられない
猿轡をしようにも暴れてどうにもならん
身代金のためとは言え我慢の限界だ
しかし、相手は気狂い男爵、もし愛娘を傷物にでもしようものなら世界の果てまで追いかけてくるだろう
困り果てて手下に「おい、街まで行って料理のできる人間を攫ってこい!」と命じる
命じられた手下は喜びながらアジトから出ていく
頭が狂いそうな叫び声から少しでも離れたくて
◆◆◆
快晴の中、駅馬車は陽気な音を立てて田舎道を行く、俺はアンに膝枕されながら真剣に編み物をするアンを眺める
「なぁアン、昨日の魔術の事なんだけどさ」
アンは編み物を傍らに置いて
「どうしました?坊っちゃま」
首を傾けながら続きを待っている
「いつもは、詠唱なんてして無かったのに昨日は呪文唱えてたのはなんでだ?」
疑問を素直にぶつけてみる
すると、笑顔で
「あぁ!あれは魔術に方向性を持たせるためですわ」うふふと楽しそうに答える
「方向性?」
「つまり...」
魔術とは基本があり火の魔法なら玉になって敵に飛んでいく。そこに方向性をつけるため詠唱が必要になってくるらしい、例えば火の玉を槍のような形に変え相手を貫く、色や形威力などをカスタマイズする為に詠唱が必要との事
「じゃあ昨日の地獄絵図はワザとなのか」
「ええ!もちろんあの者共には死ぬよりも辛い経験をさせてあげようと考えましたの」うふふと
笑顔で言う事ではないと思う
「だって坊っちゃまにあんな事するなんて!死んでも許しませんわ」
アンはなぜか母ちゃんと同じ匂いがする
それからアンに魔術の説明を聞きながら、馬車に揺られ特にトラブルも無く今日のキャンプ地に到着する
昨日の事もあり、少しルートを変更して小さな村の側に馬車を停める、せっかくの旅だが
アンの柔らかさを堪能する為に、宿屋を取る。
俺は悪くない!悪魔の如き双丘の逃れる事の出来ない柔らかさが悪いのだ!そう多分そうだ!
そんな事のために宿屋なんて
何気に小金持ちになったような気がする
アンは夕御飯の準備の為、宿屋の庭を借りいつものように調理を開始していく。
宿屋といっても少し広い普通の家だ
庭も低い石垣のため、外からは丸見えになっている
道を通る人々が、物珍しげに此方を眺めている。
そんな中アンの作る料理は、次々とテーブルに並んでいく。一通り並びアンも席に着き、さあ食べようとしていたところ目の前の道から声が掛かる
「す、すまねぇ!少し聞いてほしい話があるんだっ!」見た目がまんま山賊です!というオッサンが懇願しながら此方に近づいてくる
「俺の娘が不治の病に罹り、最後に豪華な飯を食いたいって、どうしても叶えてやりたいんだ。あんたの腕を貸してくれないか?」と明らかな嘘泣きをしながら泣き落としを繰り出している
誰が信じるねん!と突っ込む前に大声で泣きながらアンが「坊っちゃま!娘さんの願い叶えてあげましょう!」と俺の手を両手で掴みおーいおいおいと泣いていた
少し呆れながらイヤ、これ嘘じゃね?と言い出す事が出来ずに食事をアンがポーチに仕舞い準備をしてオッサンに付いて行く
で、
こうなっている訳だ
俺とアンは武器を構えた大勢のオッサンに取り囲まれている
アンは騙されたとまだ気づいていないようで
「娘さんはどこにいますの?」などとオッサンに聞いている
奥から偉そうなオッサンが出てきた
「おい!シェフは居たのか?」
「かしら、このメイドが凄え料理を作る所を見ましたんで大丈夫でさぁ!」
「おい!メイド何してやがる早く準備しやがれ!」オッサンがアンのお尻を蹴る
ほんの軽く、そうほんの軽く
「あら?何を致しますの?レディの扱い方も知らないのかしら?」とオッサンの足を持ち、ハンマー投げの様にオッサン投げを披露する。
クルクル回って20メートルほどオッサンが飛んで行く、それを皆唖然とした顔で見ていた
アンは「で、娘さんはどちらですの?」
とまだ気づいていない
オッサンが奥から猿轡をされた女の子?を連れてくる「これが、娘です」いや、苦し過ぎる嘘!!
それでもアンは
「あなたが!不治の病に侵されながら懸命に生きている?む?す?め??随分太ってらっしゃるわね?顔色も随分良いようだけど?」
と、まだトンチンカンな事を言っている
「アン!騙されたんだよ!気づけよ!病気の娘に猿轡するわけないだろ!」
女の子?はなぜか騒ぐ事なく俺を凝視していた
何故か目が怖いんだが?
激おこになっているアンは、気持ちの良いぐらい暴れる皆んな軒並みボッコボコのバッキバキだ。
散々気が晴れるまで暴れて、最後に魔術で魅了状態にして全員自首させるため街へと向かわせた。
裸で
鬼かっ!
助けた娘?が何故かうわ言を呟いている?
「貴方がわらわの王子様?」
「助けてくれてありがとう!」と言いながら
俺に抱きつこうとする、うわ!と避けようとする前にアンが割り込み
「わたくしの坊っちゃまに触れるな!盛りのついた牝豚!」と罵りながら伸ばした手を払う
ちょっと言い過ぎじゃない?と思うもややこしくなりそうなのでそのまま知らん顔で帰ろうとすると
「わらわは一人じゃ帰れません助けて下さいわらわの王子様!」
とかとても大きな声で叫んでいる
「いえ、間に合ってます。じゃ」
と素っ気なく歩き出す
ついて来ようとする娘?をアンが
「あなたのではなくわたくしの坊っちゃまですわ!」と舌をだしあっかんべーしている
そこが、気に障ったらしい
アンと腕を組みながら、元いた村へと帰る。
途中で娘?はいなくなった、あれ?と思ったが家に帰ったんだろうとあまり気にせず宿屋に戻り
少し遅くなった晩御飯を食べ、久し振りにお風呂があったので宿屋の小さなお風呂に入った。
アンがどうしても入ろうとしていたが、そこは断った、我慢出来なくなるからな!何も出来ないけど
狭いベッドで、至高で極上な究極の柔らかさを堪能して眠る。
村のすぐ近くの、溝に落ちた豚?ではなく娘?が助け出されたのは、犬の散歩をしていたお年寄りが見つける早朝であった。
その後、この領地にて極悪非道、領民を人とも思わない政治を敷き、男爵位を剥奪される元凶になる
豚?いや娘は、生まれて初めて自分は可愛く無いのでは?と自問自答する。
世間の冷たさと現実を知る
いかがでしたでしょうか?
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