初めて体験する環境
母ちゃんの夢を見た
何故か母ちゃんは泣いてた
母ちゃんどうしたんだよ?と声を掛けても
全く聞こえていないように
母ちゃんの肩に手を置こうとして
身体をすり抜ける
母ちゃんは
ずっと泣き続けていた
少し残酷な表現が有ります苦手な方はご遠慮下さい
夢から覚めて辺りを見回すと
真っ暗な中、手と足には枷が嵌められていた
俺は裸で寝転がされていた
口にも枷が嵌っていて喋る事さえ出来ない
気を失う前の記憶を呼び起こす
船の待合室で会った猿の獣人に騙されたようだ
悔しくて泣きそうになるが
今の状況を把握する事に全力を尽くす
暗さにも目が慣れてきた
周りには同じ様に沢山の人が転がされていた
皆んな生きてはいる様だ
大きな檻に入れられてどこかに運ばれているみたいだ、最悪の状況のようだ
大きな檻には分厚い布が掛けられていて外の様子が分からない
ここはどこなんだ?不安に胸が押しつぶされそうになるが、冷静さを失うと危険度が増すので
静かに様子を伺う。
外から人の声がする
「おい!奴隷達の様子を確認してこい」
布が少し開き外の様子が見える
晴れた空に帆が見えるここは海の上の様だ
猿の獣人が覗き込む
「大丈夫でさぁ大人しく寝てますぜ」
もう一人の声が
「大事な商品だ!しっかり見張れ!」
偉そうに叫ぶと
「わかってますって」と答える
どうやら、奴隷として捕まった様だ
どうやって、この状況から脱出するかを考える
逃げるにしても助けてを求めるにしても
ここは海の上だからどうにもならない
とりあえず陸に上がるまでは大人しくしておこうと冷静に判断する
その後あちこちからうめき声と泣き声と怒鳴り声が聞こえてくる
急に布が上げられて獣人が叫ぶ
「うるせぇっ!海に投げ込むぞっ!」
周りの状況が明るくなって確認出来た
殆どが子供しかも女の子が多い
男は俺と犬獣人の二人だけだ
全員が手足と口に枷が嵌めてある
無理矢理拉致されたのが丸わかり
犯罪に巻き込まれたのだろう
助けてあげたいが無理は出来ない
まずは自分が助かる為に静かに成り行きを見守る
ある程度沖に出たのだろう口の枷が外され
水と食べ物を与えられる
手足が使えないので犬の様に這い蹲って食べる
情けなく悔しさから涙が出てくるが
必ず無事に帰ると約束したのでひたすらに耐える
排泄物も垂れ流しの劣悪な環境のせいで数日も経つと皆生きる気力を失いつつある
そんな中俺は絶対に諦めずに逃げ出す方法を考えて陸に着くのをじっと待つ
2週間ほど経った頃船が港に近づく
また口に枷をされて分厚い布に覆われて
檻ごと船から降ろされる
檻ごと馬車に乗せられて何処かに運ばれていく
着いた先で布が外されて、下卑た笑いを作る
男達の前に鎖で繋がれて連れて行かれる
殆どの子供が活力の消え失せた瞳に
希望もなく促されるままに諦めた様に歩く
裸のまま並べられ売り物の様に男達が品定めして行く、その姿に怒りが沸き起こり
殴りかかろうとするも後ろに立っていた獣人に
取り押さえられて殴られ蹴られる
覚えてろよと顔を覚えるようと睨みつけると
腹を殴られて息が止まる
子供達が次々と売られて行き
俺の番がくる、金貨8枚で落札される
エルフは需要があると下卑た笑いの仲買人が
喜んでいた。
俺は同じく競り落とされた子供と共に檻の付いた馬車に乗せられる
「帰ってから奴隷契約をする!そうすればお前達は逆らう事も出来なくなる」笑いながら話す
男に反吐がでる
いよいよ、危なくなってきたがどうやって脱出するのか未だに思いつかない
「母ちゃんごめん」と諦め掛けたその時
馬車が急に街中で止まる
「危ねぇじゃねぇか!何してやがる!!」
馬車を操りながら男が叫ぶ
馬車の前に全身黒尽くめの男が立ち塞がる
「おい、少し聞きたいことがある」
周囲の温度が下がるような感覚に見舞われる
「そこにいる少年はなぜ貴様に連れて行かれようとしている?」男は声を荒げる事なく淡々と聞く
「あぁ?な、なぜってど、奴隷だからに決まってるでしょうが」
「その子供はエルフそれを分かって連れて行こうとしているのか?」どこか怒りを含みながら話す
「エ、エルフは需要があるんで高く売れるんですよ」まるで何かに怯えるように男は答える
「そうか」男はおもむろに深くかぶっていた帽子を取る
流れるような水色の髪と尖った耳紛れもなく
エルフの中のエルフそんな姿に男は絶句する
「た、たとえあ、アンタがエルフでもコイツは俺が金貨8枚で買ったんだ欲しけりゃ金貨10枚払って貰わないとむ、むりだぜ」
男は見るからに強がって凄む
エルフは右手を顔より上に挙げてその手に特大の焔を顕現させる
「お前は俺がエルフだと分かってそんな事を言っているんだな?エルフの絆を軽く見た償いをその身をもって償うといい、この俺様が貴様如きの命に価値を見出すとでも思ったか?」
笑いながらエルフは淡々と呟く
「ちょ!ちょっとまってくれ!!わかった俺が悪かった!殺さないでくれ!」男はエルフの前に土下座しながら許しを乞う
直ぐに俺は手枷と足枷を外されて解放される
怒りが沸々と湧いているが長い間の疲れから
気を失う、エルフの男は俺を抱きとめてため息を洩らす
「厄介ごとになりそうだなぁ」
そんなつぶやきを耳に遠くなる意識を手放す