第一話
一年に渡って続いたこのシリーズも今回で最終回。6月の水無月さんから始まり、ついに12の月の物語もここで終わることとなるのです。
ああ、自分でもよく続いたなと思います。こんなまとまりのない連中を相手に散々振り回されながら、愚痴を聞かされながら、時には豆知識を、時には勝手な想像を交え、擬人化して女性となった月たちを紹介してきたつもりですが・・・・・。
「そういうあとがきみたいなのは終わった後でもいいんじゃない?」
僕が感傷はいつものように中断させられた。振り返るとそこにいたのは水無月さん。6月の擬人化した女性である。スタートが彼女だったから、何故かこうやっていつも登場する。
「分かりました。それではいつものように解説をさせていただきましょう。5月の擬人化した女性は皐月さん。ええ、皐月は早苗月とも言って稲の苗を作る月との意。さわやかな新緑の候、他の神様を奉じて田植えをする季節でもある。また、かつては物忌月と言って禁欲の期間としたこともあったらしい・・・ということです」
「そうか、昔の人の感覚だと田植えが重要ということなのね。でも、それでは満足しないでしょうね。何しろ皐月さんはこのシリーズの大トリに当たるのだから」
水無月さんは主人公登場前にかなりプレッシャーをかけているようだ。確かに最終回となると何事においてもついつい期待を抱いてしまう。どんな名作であっても最終回が締まらないと駄作で終わることもあるだろうし、その作品自体の黒歴史のようになってしまうことにも、・・・いかん、つい、僕までプレッシャーを与えるような書き方をしてしまった。別に皐月さん、そんなに緊張しないでもいいですよ。僕らは別に大したことをしているわけではないのですから、自然体で登場してくださいな、そんな風に思いながら、僕らは皐月さんの登場を待つことに・・・・・。
「待たせたわね。みなさんっ!」
タイミングが少しずれたが皐月さんの登場である。声が少し自信に満ち溢れているのは、五月という月がそれだけ恵まれた月だと言うことだ。
「満を持してこのシリーズに有終の美を飾るべく登場させていただきました。私は皐月でございます」
プレッシャーどころか、大トリということを自分の名誉だと言わんばかりに、皐月さんは自信満々に胸を張った。確かに彼女は恵まれている。完璧とも言っていいかもしれない。何しろ、月の初めからゴールデンウィークがある。さらに第二日曜日は母の日というイベントもある。気候も暖かく、五月晴れという言葉があるように好天のイメージがある。学校行事で運動会や修学旅行があるところも多いだろう。確かに彼女は完璧と言えるかもしれない。
「そう、その通り、私はまさに完璧。非の打ちどころがない才色兼備の乙女」
才色兼備は関係ないのではと思うのだが、それだけ自信に満ち溢れているのかもしれない。確かに皐月さんは美しかった。自信の顕れは容姿にも影響も与えるということだろうか?背は高くスタイルは抜群で、髪は長く艶があり、瞳は大きく、その声はいささか強気であるものの澄んだよく通るものだった。僕は思わず、水無月さんの方を振り向いた。
「おい、何、こっちを見ているのよ?どうせ、私は陰気で湿っぽくてさえないわよ」
水無月さんは僕が何も言っていないのに勝手にすねた。いや、心の中でそう思ったことは事実だから、否定はできないかもしれないが。
「でも、あなたはまだ彼女の本当の姿を知らないわ。彼女が持つ深い闇を・・・・」
そう言うと、水無月さんは何か悪いことを企んでいるかのような微笑を浮かべた。