化物
俺はアレから1年、妄想の限りを尽くした。
それなら超ウルトラ最強なチート勇者な使徒様になってるだろう?って?いやー、全てはうまく行かなかったんだよ。俺もさ、もう少し強くなりたかったけど、それも潮時みたいなんだわ。
俺の家来共が深手を負ったようでな、今看病してんだよ。敵がもう目前に見えちまってるしな!
え?家来ってなにか?そりゃ、狼3匹共に決まってんだろ?テイムしたおかげで意思疎通も出来るからな、敵さんの全容がほぼ明らかになった。勝てる見込みは無いな!反対側に逃げられれば良かったんだがな……。妄想疲れで寝込んでる合間に周囲を全て破壊されてしまったよ。
うん?話が飛躍し過ぎてる?あー!そっかそっか!何も説明してなかったな、そういえば。いや~すまない!1年間本気でやってたから、ステータスに表示されないこの能力の事も忘れてたぜ。
「ステータスオープン!」
ほらよ、コレが今の俺の能力だ。
名前:豊神鋼牙
種族:神族
種族Lv:1
性別:男
年齢:19歳
職業:使徒
基礎能力↓
体力:100(500)
魔力:200(1000)
筋力:100(500)
敏捷:100(500)
器用:100(500)
精神:200(1000)
魔攻:300(1500)
魔防:300(1500)
スキル↓
妄想
神眼《鑑定・偽装・千里眼・魔力感知・言語解読・状態異常付与(任意)》
人工知能(神の使徒用ヘルプ機能) 食物作成 並列思考 クローン作成
全属性魔法LvMAX《火・水・土・風・光・闇・毒・呪・爆・雷・氷・時・重・泥・影・聖魔(種族限定)》
武闘(使用不可) 隠密Lv5 テイムLv10
鍛冶(使用不可) 裁縫(使用不可)
料理Lv1(Lv固定) 家事(使用不可)
全武器使用(使用不可) 飛行LvMAX(制限有) 召喚術(ユニーク・使用不可)
手刀 足刀
特殊能力↓
創造神の祝福
創造神の加護
創造神の誓約
称号↓
創造神の使徒
妄想神《初心者》
神になれる者
妄想勇者
破壊の衝動
パッと見は、とんでもないチートスキルのオンパレードだと思うんだ。そう、俺もそう思う。使えればの話だがな!
この世界の住民にはな神にすらも適正ってのが備わってる。創造神様は全てに適応してるみたいだがな。
さて、俺には武器や武闘関係と生産系には適正ってのが無いみたいなんだ。つまり、何が言いたいかというとな、折角作ったのに時間の無駄だったんだよ!
あとな魔法関係のスキル、まあ全属性のヤツなんだが、それに掛かった所要時間はなんと…!!
1時間!どーだ?短いだろ?あんなに大量の属性があるのにも関わらず、妄想したのは1年間のうちの1時間だけだ!
では、何故1年も消費したのにこれしかスキルが無いのか。適正の問題が大きく関わってくる。
魔法の適性がずば抜けて良かった俺は少しの時間の消費で済んだ訳だが、適性の無い物には1つあたり1ヶ月と半月程掛かっている。
先程、というか寝る前にようやく召喚術を作り終わったところだ。妄想中は集中を途切れさせてはいけないからな、寝てはいけないんだ。とても辛かった!辛かったんだよ!なのに、なのに!使用不可を宣告されたスキル達を見る度に、心の中で何かが抜け落ちて行った……。
まあ、並列思考のおかげで、寝る以外の行動をしても妄想は途切れなかったんだがな、それに精神を分けて交互に妄想すれば同時に2つのスキルを妄想できたな。そのおかげもあってか、狼達をテイムできた。名前は順番に「ワン」「ツー」「フォー」だ。後悔はしてない!
と、話がズレ過ぎてしまったので戻ろうか。
目の前には森を破壊し尽くした化物が居る。幸いなのはセーフティゾーンに入ってこれない事。最悪なのは俺の種族Lvが上がってないことと、相手の種族Lvやスキルがチートな事。どう思う?勝てるかな?うん、知ってる、無理だよな!
でもまぁ、やるしか無いかな。
「さあ、神の使徒に挑む事を後悔するがいい!聖戦を始めよう、か?」
――――グァルゥゥゥッギィヤァァァアアアア
目の前の化物は叫びながら、突進をしてくる。その迫力に少し腰が引けてしまうが、セーフティゾーン内に居るという意識を保つ事でなんとか、精神を落ち着ける。
―――ピキッ
――――――ピキピキッ
―――――――――――――バギンッ
化物が大きな口を開き、そして閉じた瞬間、セーフティゾーンの壁の欠片、いや粒子が無残に天へと昇っていく…。
その化物はとても禍々しいオーラを体から放出していた。鑑定の結果分かった名前は「闇王」、スキルは不死身。
黒い狼。
体の周囲には禍々しいオーラが迸る。黒い靄が掛かった様なオーラを身に纏う。目は紅く爛々と輝きを放ち、側頭部から伸びている曲がりに曲がった、太くて艷やかな角が存在感を圧倒的なものにしている。
四肢は金箔を敷き詰めたかのように光り輝いている。しかしそれは、鈍く本来の光を失った金色だ。いや、オーラが入り交じるこの色は灰色なのかもしれない。爪は伸び鉤爪の様に痛々しく鋭利な物となり、土を抉りながら此方に進んで来る。
全てがスローな世界で俺はまた、死を覚悟する。次は女神様から何の特典が貰えるのだろうか、次は何に昇格してくれるのだろうか、次こそは人間かな…?そんな逃避した思考が頭の中を埋め尽くす。濃厚な死を体全体に浴び、恐怖から目を逸らしたくなってくる。女神様からヤられたあんなものは足元にすら及ばない程の死の予感。
鎌の様な湾曲した牙が、すぐ目の前に現れ、そして消える。
下には血溜まり、身体中に激痛が走る。後方の方で爆発音が聞こえる、瞬時にそれは闇王が木を薙ぎ倒した音だと理解した。
どうやったのかは分からないが、今の俺には両腕が消え失せている。肩から先が何もない。
「ハハッ」
乾いた笑いが口の中から漏れ出す。が気にする余裕は無い、両腕が無くなりバランスが保てなくなった俺の体は赤い水溜りに身を投じる。瞬間。
視界の端、俺の身体の真上を闇王が飛び越えていく、否、喰おうとしたのが分かると、俺は逃げ場の無い恐怖に対抗する気力すら失ってしまった。
目を閉じようか、そんな考えが頭の中に浮かび上がった瞬間には俺の視界が青空を見渡していた。
何が起きた……。
目線を下に向け、膝から下が抉り取られ奥に紅い光が見えた。理解する時間すら闇王は与えない。次に見たのは自分の身体。首から下の部分が空に舞う。だがソレは地に着く前に闇王の右手に振り払われる。
紅い光からは餌を狙う、いや痛み付けようとする心が視えた。
死にたくない、死にたくない!死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない………。
そして俺の意識はきえt
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我の目の前の輝くゴミから恐怖の念が感じられる。とても甘美な、我が今までに味わった事のない、至福の味。
さあ直接味わせてくれ。人間と言う名のゴミよ!
我、闇王に喰われた事を誇りと思え!
輪廻にさえ組み込まれず、魂を我の一部の糧とする事を喜ぶがいい!
死ねッ
そして我は頭を咥え、噛み砕くべく口を大きく大きく開く。
この口を閉じれば、甘美な味が味わえる。そう思った瞬間、身体が一瞬止まってしまった、涎が地面へと落ちる瞬間
顎が消失していた。
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「チェックメイトだ、闇王」
俺は振り下ろす。
クローンの頭を喰らおうとした闇王へ、顎が無くなり戸惑う闇王へ、ただのデカい狼へと。
手刀を1振り。
スパッ、と良い音をたて俺の手が化物の首を両断する。次の瞬間、目の前が真っ赤に染まる。
ドスン。首を無くしたデカブツが地面に倒れる音が森中に木霊する。
疲れた俺は、後ろに倒れながら眠る。
「起きなさい、ゴミクズ!」
いや、まだ起きてなければならないようだ。
次の話は別視点です!