ー楽土の章33- 甲州征伐の論功行賞 さらに次に狙うモノ
「おおお。これがひのもといちの名山ですかあああ!ちょっと、河尻くん。あそこに咲くという、不死の薬の材料となる花を取って来てくれませんかね?」
「嫌である。そんなに不死になりたければ、自分で取りに行くのである」
河尻はまだ雪が残る富士の山に登ることを拒否するのであった。信長はえええ!と非難の声をあげるが、河尻はガン無視を決め込むことにする。
信長が産まれて初めての富士山見物を堪能したあと、甲州征伐における論功行賞を行うのであった。
滝川一益:上野一国、小県郡・佐久郡
河尻秀隆:穴山信君の本貫地を除く甲斐一国、諏訪郡
徳川家康:駿河一国の安堵・武田家の旧臣の召し抱え許可
木曾義昌:木曾谷安堵、筑摩郡・安曇郡
森可成:信濃の高井郡・水内郡・更科郡・埴科郡
毛利長秀:伊那郡
穴山信君:甲斐河内安堵、嫡子・勝千代に武田氏の名跡を継がせ、武田氏当主とすることが認められる
森成利:美濃兼山城(長可の旧居城)
団忠正:美濃岩村城(秀隆の旧居城)
織田・徳川に参加し、活躍を果たしたモノ全てに恩賞が与えられることが決定したのだ。だが、この論功行賞を視てもわかるように、参戦した北条家には何も与えなかったのだ。これを北条家は恨みに恨むことになる。
信長が当初から考えていたように、織田家と北条家の仲は一気に冷却されるのであった。
滝川一益はこの後、関東方面指揮官に任命される。上野の国に本拠地を移し、未来への対北条家の先鋒隊となるのであった。
さらには、河尻秀隆は一益の支えとなるように甲斐国に配属となったのだ。
武田家が滅びたことにより、上杉家も滅亡の危機を迎えることとなる。4月に差し迫り、信濃の3割近くを手にした森長可に南から上杉家に圧力をかけるようにと、信長から通達される。
そして、雪解けを待ち、柴田勝家率いる北陸方面軍は越中の西半分から東へ侵攻を再開することになったのだ。
時間は進む。1582年5月に入ると、織田家は東は上杉家が滅亡に向かって行き、西は羽柴秀吉の快進撃により、次々と毛利家の要所は落とされていくのであった。
羽柴秀吉は4月に淡路国を手に入れたあと、その城主を長年付き従ってきた飯村彦助を城主として任命し、今現在、清水宗治が守る備中高松城を包囲していた。
「彦助の奴、上手いこと、ひでよしさまにとりいったものだぶひい。あいつが1番最初の国持ち城主になるとは想わなかったんだぶひい」
「オウ、ノウ!あの国は弥助が欲しがっていたというのに、本当にひどい話なのデスヨ!」
「まあまあ、二人とも落ち着くやで?毛利家の土地は広大なんや。なんぼでも1国1城の主になれるんやで?」
「四さんは播磨半国の城主だからまだ良いんだぶひい。僕は備前を仲良く弥助と半分ずつだから、実質、彦助と変わらないほどの領地しかもらえなかったんだぶひい」
「美作は黒田官兵衛くんがまるまる1国もらえたというのに、昔からひでよしくんに付き従ってきた、わいらにはちょっと冷たい待遇やなあ。まあ、文句を言っていても仕方ないんやで?この備中の高松城を落とせば、田中くんも配置換えになるやろ。頑張って、目の前の城を落とすやで?」
ひでよしの配下には古くから付き従う4人の家臣が居た。そのモノたちの名は田中太郎、飯村彦助、楮四十郎、弥助である。その中でも飯村彦助が1国まるまる手に入れて、他の3名は不満たらたらだったわけである。
「す、すいません。本当なら田中さんを淡路国の城主としたかったの、ですが、田中さんを今、手放すことが惜しかったの、です」
「本当ぶひい?その言葉はそのまま称賛と受け取ってくれて良いんだぶひい?」
田中が疑わしい視線でひでよしを視るのであった。ひでよしは困ったなあという感じで頭を右手でぽりぽりとかくのであった。
「ここ、備中を手に入れたら、田中さんには1国1城の主となってもらいますので、もう少し、辛抱してくだ、さいね?」
「言質を取ったぶひいよ?絶対に、僕を1国1城の主にしてくれぶひいよ?」
田中はひでよしが裏切らないように念書をさせるのであった。
さて、備中高松城攻めと言えば忘れてはいけないことがある。そう、城がすっぽり水で囲まれるほどの水攻めだ。この策については黒田官兵衛が秀吉に進言し、秀吉もまた、これは面白そうだということで採用となる。秀吉隊は川の進路を捻じ曲げ、堤防を築き上げていく。備中高松城が水に沈む日も間近と迫っていくのであった。
時を少し戻そう。1582年5月初旬。信長は甲州征伐を終えて、安土城へと舞い戻る。各将たちの配置換えを命じ、6月に入れば、ひのもとの国統一への最終段階に入ろうとしていたのだった。
だが、ここで信長にとって予想外のことが起きる。それは四国の地において、長宗我部元親が躍進したことだった。彼の軍の勢いは強く、放っておけば、四国全土を席巻するほどだったのだ。
これには信長も自分の過去に行動を悔やむことになる。
「失敗しました。これは大失敗ですよ!まさか、長宗我部元親くんが、四国全土を手にいれるほどの勢力に育つなんて想っても居ませんでしたよ!」
「ううむ。自分もまさか、このようなことになるなんて想っていなかったのじゃ。殿が元親殿に四国を切り取り放題と許したことを諫めるべきだったのじゃ」
村井貞勝もまた、唸りながら信長と悩むことになる。何故、信長がここまで悩むことになるかと言うと、丹波国方面の攻略を終えた明智光秀に次に与えた任務が四国の長宗我部元親との折衝だったのだ。
「元親くんにいちゃもんをつけて攻めるのは簡単です。ですが、それだと、光秀くんをないがしろにしたということになるんですよねえ?」
「光秀は信盛殿が引退したあと、畿内においては織田家の重鎮となったのじゃ。そんな光秀をないがしろにするのは危険極まりないのじゃ。いくら温厚な光秀でも気を悪くする可能性が大なのじゃ」
「そうなんですよねえ。光秀くんをどうするかが問題なのです。うーーーん、ここは光秀くんに素直に謝り、畿内におけるの織田家の総大将となってもらいますかあ?」
「それが一番かも知れぬのじゃ。丹波、京の都、北近江、大坂、奈良の4か国の支配を任せれば、光秀も納得してくれるかもなのじゃ」
「ああ、信盛が現役バリバリだったら、こんな苦労はないんですがねえ?織田家は少し、大きくなりすぎたのかも知れません。織田家の心臓とも言える畿内を光秀くんに任せるのは、もったいないんですが」
「愚痴っても仕方ないのじゃ。それよりも、四国をどうにかするほうが先決なのじゃ。光秀を動かせなくなった今、誰を四国に向かわせるのじゃ?信忠さまを総大将にするのかじゃ?」
「そこは甲州征伐と同じようにしたいと想います。先生の3男・信孝くんを総大将とし、その補佐を丹羽くんに任せます。丹羽くんもそろそろ若狭1国に収めておいては、彼も不満でしょうしね」
織田家において、柴田勝家、滝川一益、羽柴秀吉には多大なる領地が与えられていた。光秀もまた近いうちに畿内の総大将となる予定となる。そうなれば、やはり、それに不満を覚えるのは丹羽長秀であろう。彼は信長の企画する事業のことごとくをプロデュースしてきた手腕がある。
だが、丹羽の不幸は信長に重用されすぎたことだ。武田勝頼との一大決戦であった長篠の戦いでは参戦したモノの、圧勝しすぎたこと。それとその時は領土を手に入れたわけでもなく、丹羽の領地が増えることはなかったのだ。
というわけで、丹羽の領地を増やすためにも信長が次に攻め込む場所となれば
「四国ですね。光秀くんには申し訳ありませんが、丹羽くんの出世のためにも四国を攻めねばなりません。信忠くんは充分に甲州征伐で活躍してもらった以上、信孝くんに次は頑張ってもらいましょう。その総大将である信孝くんの補佐として丹羽くんをつける。ほら、完璧な作戦です」
「ううむ。信孝殿は3男じゃぞ?次男の信雄殿をないがしろにするのはどうかと想うのじゃ」
「ああ、無理無理。信雄くんを総大将にしたら、連戦連敗確実ですよ。四国を席巻するほどの長宗我部元親くんを相手にするのです。信雄くんじゃ逆立ちしても勝てるわけがありません」
「なんともひどい話じゃな。その点については反論をする術がないのじゃ。順当に次に役に立ちそうな信孝殿の出番というわけじゃな?」
「そうですね。この四国戦線で信孝くんが狙い通りに功をあげれれば、四国1国。丹羽くんには四国2国といったところでしょう。あと1国は長宗我部くんを押し込めておくくらいでいいんじゃないですかね。さすがに切り取り放題をこちらから出しておいて、滅ぼすのはやりすぎですし」
「わかったのじゃ。では、信孝殿に兵をまとめて京の都に上がってくるように指示を出しておくのじゃ」
「あっ。ついでに家康くんにも京の都へ上ってくるように伝令をお願いしていいですかね?甲州征伐のねぎらいのために一席設けたいと想っていましたので。貞勝くん。お願いしますね?」




