表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/415

ー花嵐の章 9- 斎藤家の急襲

 犬山城は、清州きよすから北東15キロメートルに位置する、美濃みの攻略の要となる尾張おわり丹羽にわ郡にある城である。織田信長の従兄弟である織田信清は、そこに城代しろだいとしてあてがわれていたが、城主の池田恒興いけだつねおきが不在の際に乗っ取ってしまったのである。


「やれやれ、もうしばらくおとなしくしていると思っていたのですが、勘がはずれてしまいましたねえ」


「信長殿!俺に何かできることはござらぬか?」


 家康が手伝いを申し出てきている。それを右手で静止する形をとり


「家康くん。おぼえておきなさい。家中の内乱においては絶対に他家に介入されてはいけません。これはお家を守るための鉄則なのでよくおぼえておいてください」


 家康がまだ何か言いたげなところを後にし、信長は村井貞勝むらいさだかつに命を飛ばす


佐々(さっさ)成政と前田利家まえだとしいえに兵300ずつ。中詰に河尻秀隆かわじりひでたかに500、後詰めに佐久間信盛1千を率いさせ、犬山城を奪い返しなさい」


 矢継ぎ早に信長が命じる


「兵はなるべく殺さぬよう、投降をよびかけなさい。城代の信清は生死は問いません。逃がさぬように」


 数時間後、謀反を誅するする軍隊が、清州きよすから出立したのであった



「なるべく殺さないようにって言われたけど無理があるッスね」


「ん…。信長さまは優しいから」


 犬山城から南西に、佐々(さっさ)の300とその後ろに河尻かわじりの500。すこし離れて犬山城から南に前田の300と後詰の信盛のぶもりの1千が詰めていた。それぞれの隊の将は、部下に待機の命令を出し、展開した軍の後方中央に陣幕を張り、そこでどう攻めるか相談していたのである。


「犬山城を守る兵は300から500と推測される。おそらく信清殿の領地から無理やりかりだされた者たちだろう」


 河尻かわじりがそういうと、信盛のぶもりはあごを右手でさすりながら


「その程度なら包囲してれば、長く持っても1週間かそこらで投降してくるだろ」


「なんでこんな時期に謀反なんか起こしたッスかね。信清さまは」


 利家としいえが不思議がる。尾張おわりの情勢定まらぬ、3年前ならまだわかる。いまや尾張おわりは、ほぼ信長に統一されているのだ。今更、謀反を起こしたところで、何にもならない。


「意地なのだろう。そして、松平と組むのがいやだったのだろう」


 そう、河尻かわじりは結論付ける。佐々(さっさ)は別のことで不思議がる。


「ん…。なんで、こんなに大軍で犬山城を囲む必要があるんだろう」


「んー?もしかしたら斎藤が裏で糸を引いてるとかで、用心のために2千もださせたのかなあ」


 信盛のぶもりは信長の思考を読もうとする。だがやめた。殿とのの直観かもしれないし、考えるだけ無駄ってもんだ。


「まあ、斎藤側から動きがあったら、利家としいえの300を佐々(さっさ)河尻かわじり殿の後詰にして、俺の本隊1千で犬山城にあたるさ」


 河尻かわじりは、うむと頷き、いくさ前の打ち合わせをこうしめる。


「犬山城攻略は難しくないとはいえ、いくさ場では何が起こるかはわからぬ。ゆえに気を抜かぬよう、注意しよう」


 おうッスと、利家としいえは応え、佐々(さっさ)


「ん…。わかった」


 と返す。まあ、こいつらなら、なにかあっても対応するだろうと、信盛のぶもりは彼らを信頼していた。



 事態は犬山城を包囲して3日後の朝に起きた。犬山城からは脱走する兵がちらほら出ているようだが、その数はまだ少ないようだった。士気は低いと思っていたが、信清の領地から駆り出された旧来からの私兵みたいなもんで、予想がはずれて、士気は高い。でも、そうはいっても、信清の手勢は多くて500だ。こちらの包囲軍は2100。どうあがいても、信清側に勝ち目はない


 包囲してから4日目の朝、木曽川の対岸、北側に狼煙のろしが上がった。その色は赤色で明らかに人工の煙だ。何かの合図だろう。狼煙のろしがあがった数分後に、犬山城の城門が大きく開いた。籠城していた兵のうち300が一斉に飛び出し、佐々(さっさ)の300に躍りかかる。


「ん…。敵襲!迎え撃て!」


 通常、籠城戦では、城に籠った兵が外にでてくることは、ほとんどない。じっと耐え、敵がなにかしらの理由で撤退するまで持ちこたえるのだ。その城の兵のほぼ8割が、城の防御を捨てて、佐々(さっさ)の隊に襲い掛かる。


佐々(さっさ)の隊を支援せよ。北に移動し、川沿いから敵を囲え!」


 佐々(さっさ)の隊は、最初、敵の勢いに戸惑い、少しの後退を余儀なくされた。だが、後詰めの河尻かわじりの隊が支えることにより、敵の勢いを受け止め、反撃にでようとした。まさにそのときである。



「んっんー。騎馬隊50、前へ。木曽川を突っ切り、回り込もうとしている相手後詰の横腹を喰らいなさい」


 木曽川対岸より軍配を振るうものがいる。


「んっんー。騎馬隊により混乱したところを、後続の槍隊300で掃討します。準備よろしくです」


 突如、現れた対岸の敵の1軍が河尻かわじりの軍勢へと横から襲い掛かる。河尻かわじりは面喰い


「くっ、斉藤龍興さいとうたつおきの軍か!皆の者、急速転身!」


挿絵(By みてみん)


 だが転身する速度は遅く、やわらかい横腹を騎馬隊が食い破っていく。河尻かわじりの軍は混乱をきたし、馬に乗っていた者たちは次々と落馬していったのだった。河尻かわじり自身も落馬し、左腕を強く打ち地面をしばらくのたうち回っていた。


 そこにさらに敵軍の足軽が突っ込んできており、河尻かわじりの軍は一気に追い込まれていく。指揮官の河尻かわじりが落馬のため行動不能におちいったため、どんどん食い破られていく。指揮官が不在の軍はもろくなりやすい。


「全員、せいれーーーつ!密集体勢をとり、槍を前に突き出せえええええ!!」


 河尻かわじりは痛む左腕に構わず、地面につっぷしたまま、号令をかける。


「騎馬隊は全員、馬を放棄し、刀、槍をもち、応戦せよ!」


 混乱した馬は制御が効かなくなる。制御に時間を取られるなら、いっそ、馬を放棄すれば身は軽くなる。


「ここを食い破られれば、次は佐々(さっさ)がやられる番ぞ、もちこたえよおおお!」


 河尻かわじりは身体から鈍い汗を流しながら、部下たちに号令をかけ続ける。いまや、500の内、3分の1が斎藤の軍により喰われていた。



 佐々(さっさ)は、まずいと思った。河尻かわじりの軍勢が急襲をうけたのはわかっている。だが犬山城から出てきた敵の勢いが強く、ここで河尻かわじりの軍勢を助けに転身すれば、佐々(さっさ)の軍がやられてしまう。ここからは動けない。


「ん…。今は動けない。犬山城からの猛攻を耐えよ」


 佐々(さっさ)は動揺して崩れそうな味方を叱咤し、守りを固くさせる。しかし、河尻かわじりがやられてしまえば、犬山城からの300と、対岸からの軍により佐々(さっさ)は囲まれてしまい、全滅を余儀なくされてしまう。佐々(さっさ)は大きなジレンマを抱えることになった。



「まずいッスね、いやな予感がぷんぷんするッス!」


 利家としいえの位置からは佐々(さっさ)の軍が犬山城からの敵勢に襲われているのは見える。だが河尻かわじりの軍勢がその向こうなので見えない。しかし、川の対岸から赤い狼煙のろしが上がっているのがわかる。今すぐに救援に向かうべきだと利家としいえの直観がそうつぶやく。


信盛のぶもりさんに伝令ッス!今から、利家としいえの軍は河尻かわじりさんの後詰に入るッス!この場は信盛のぶもりさんに任すッス!」


 利家としいえは犬山城からのさらなる急襲の危険があるが、転身を急ぎ、犬山城に横っ腹を見せながら移動を開始する。襲われないことを天に祈りつつの移動であった。



 信盛のぶもりいくさ場の空気が変わっていくのを感じていた。信盛のぶもりの本陣は小高い丘の上に陣取っており、いくさ場の戦況が一目でわかる位置にあった。木曽川の対岸から赤い狼煙のろしが上がるのが見える。そして、佐々(さっさ)の軍が犬山城からの兵に襲われている。河尻かわじりの軍が奇襲を受けている。利家としいえの軍が転身を開始した。


「さて、俺はどうしようか」


 そして、次に動かねばならないのは信盛のぶもり自身だ。利家としいえが動いた穴を埋めるように北上し、犬山城の包囲をしつつ、かつ、佐々(さっさ)の支援に向かいやすいように配慮しよう。そこに伝令がちょうど来る。利家としいえからのものだ。後詰めをよろしく頼むッスとのことだ。了解。信盛のぶもりは配を振るう。


「我が軍はこれより、北へ移動し、利家としいえの後ろを守りつつ、犬山城を包囲する。一部は佐々(さっさ)の援軍に向かわせるから、そのつもりで頼む!」


 佐々(さっさ)河尻かわじり殿、持ちこたえてくれよと思いつつ、信盛のぶもりは軍を急がせるのであった。



「んっんー。ここまでは上出来。あとは敵の動き次第ですねえ」


「竹中さま、いかがなされましょうか」


 軍配をいじりながら、斎藤の将、竹中半兵衛は次の策について、思案するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ