ー巨星の章 4- 援軍の将
「あのー?貞勝くん?今の話、本当ですか?」
「本当も本当なのじゃ。岩村城の城主である、殿の叔母が敵将に籠絡されて、城を明け渡してしまったのじゃ!しかも、私たち、幸せになります、探さないでくださいと言う書状まで届いているのじゃ」
信長は貞勝からその書状を受け取ると、書状の端と端を持ち、ビリビリビリッ!と真っ二つに割いてしまうのである。
「貞勝くん?彼女ら2人にはどのような祝福が良いと思います?八つ裂き?はりつけ?水攻め?」
信長が眉間に青筋を2本、浮かべながらニコニコとした顔つきで貞勝に問いかける。貞勝は背中にゾゾゾゾゾッと寒気と冷や汗を感じながら
「殿が全部、したいと思う祝福の仕方をしたらいいと思うのじゃ。裏切り者には制裁をなのじゃ」
「そうですよね、そうですよね。では、なるべく、苦しんで死んでもらうことにしましょうか。まず、水攻めにするでしょう?そして、はりつけにします。最後に八つ裂きにして畑の肥やしにでもしましょうか。ああ、あのひとは全く。昔から自由奔放なところがありましたが、結婚してからは落ち着いたとばかり思っていたのが失敗でしたね」
「殿の親族はしっかり者もいれば、ちゃらんぽらんな者まで勢ぞろいで困るのじゃ。少し、殿は親族に甘い対応をしすぎなのが原因なのかもしれないのじゃ」
「そうは言われましてもねえ。さすがに、敵方に裏切って、さらに、その敵将と結婚するようなひとは、あの叔母だけですよ。信治、信興は死ぬまで抗った兄弟たちです。あの叔母が例外中の例外ですよ」
信長は、ふうやれやれと嘆息する。
「これは、先生の親族たちの配置転換を本格的に考えなければならないのでしょうか?織田家と武田家との関係が悪化した今、信濃との国境沿いには、信頼に足る将を置かねばいけませんねえ」
「池田恒興殿などを岩村城の西の城に動かすと言うのはどうなのじゃ?あとは、森可成殿の息子の森長可にも機会を与えてみると良いのじゃ」
「ふむ。貞勝くんにしては、良い案ですね。長可くんも今年で14歳ですし、城の守りのひとつでもやらせてみるのが良いんでしょうね。でも、池田くんを犬山城から動かすのですかあ。うーん、どうしたものですかねえ?」
「何か、池田殿には心配事でもあるのか?なのじゃ。今、自由に動かせる者など、彼の他には、安藤守就殿と、稲葉一鉄殿くらいなのじゃ」
「池田くんと安藤くんの共通する点なのですが、彼らは大軍を率いる才能が無いのです」
「大軍を率いる才能がない?なのかじゃ。わしにはそう言う風には見えないのじゃ。安藤殿は元・美濃3人衆のひとりであるし、池田殿は殿が旗揚げ時からの将なのじゃ。とても、軍才が無いとは思えないのじゃ」
貞勝が不可思議な感じで、殿に質問するのである。
「彼ら2人は、1000から2000くらいの兵数なら、先生を満足させるほどの軍才はあります。でも、それ以上の数となると、一気に馬脚を現すのですよ。残念ながら、彼らの限界は2000人までの指揮です」
「2000も指揮できれば、城を守るには充分ではないのかじゃ?わしに城の守りを任せるよりはよっぽど頼りになるのじゃ」
「わかってませんねえ、貞勝くんは。今、池田くんと安藤くんにはそれぞれ、2000弱の兵を任せています。でも、彼らが功をあげた場合、先生がどう彼らに対処しなければならないか、想像できないのですか?」
「功をあげたら、それに見合った地位や、所領を与えねばならぬのじゃ。そんなこと、当然なのじゃ。何を出し渋っているのじゃって、ああああああ!」
貞勝が、得心が行ったと言った感じで、声をあげる。
「そうなのじゃ。殿は、あの2人に2000より上の兵を預けたくないのじゃ。彼らが槍働きをすれば、殿が嫌でも、彼らに兵を預けねばならなくなるのじゃ」
「そう言うことです。それに兵を預ける数が増えれば、当然、土地も与えねばなりません。2年前の浅井長政くんの反乱から、織田家の領地は増えていません。それどころか、松永久秀くんが裏切ったせいで、奈良の土地も失ってしまいました。むしろ、減っていますね、これ」
「ううむ。織田家の兵士は年々増えているのに、義昭を将軍職に就けて以降は、減っているのじゃ。土地を与えようにも、そもそもの土地がないのじゃ」
「彼ら2人の才能に見合う土地は、犬山城と岐阜城の支城で、いっぱいいっぱいなのです。ですが、彼ら2人の困った共通点がもうひとつあります」
「まだ、あるのかなのじゃ?」
「彼らは、自分たちが大きな戦に使われないことに不平不満を持っています。池田くんの場合は奥さんがいつも、食事中にグチグチうるさいから、一度、しかりつけてくださいと書状がきてます。これはまだ可愛いほうです。ですが、安藤くんに至っては、同僚の一鉄くんに愚痴をこぼしているんですよね。一鉄くんが、お悩み相談に来てましたよ、この前」
貞勝は額に手を当て、頭痛を感じるのである。
「池田くんは、まだ、家庭内の愚痴で収まっているので、感状でも与えておけば、ある程度は満足してくれるでしょう。でも、安藤くんはダメです。先生、武田家の侵攻がなければ、いっそのこと、安藤くんを織田家から追放しようかとさえ思ってしまいます」
「殿の心労、察するのじゃ。安藤殿の所領は、岐阜城の支えとなる北部なのじゃ。もし、信玄が岐阜城まで到達すれば、安藤殿に頼る他、なくなるのじゃ」
「本当、困った話ですよ。でも、今はそんなこと出来ません。信玄くんには困ったものですよ。岐阜に来たら、安藤くんの命だけ奪っていってくれませんかね?」
「憎まれっ子、世にはばかると言うのじゃ。安藤殿なら、きっと生き延びると思うのじゃ。中々、上手く行かない世の中なのじゃ」
「まあ、長々と説明しましたが、先生、池田くんと安藤くんに期待するところはありません。今の地位で満足してくれることを切に望んでいます」
「と、なれば、岩村城の西の守りはどうするなのじゃ?長可は未だ14歳ゆえ、過度な期待はできぬなのじゃ」
「うーん、氏家卜全くんのせがれに期待してみましょうか?父親に似合わず、こちらも期待度が低いんですけど」
「いっそ、蒲生氏郷を使うのはどうなのじゃ?殿が手塩に育てた将なのじゃ。あやつなら、殿の期待に充分に応えてくれるのじゃ」
貞勝の言いに、信長がうーーーんと唸る。
「氏郷くんは息子の信忠くんか、もしくは一益くんの副官に任命したいのですよねえ。プランとしては、一益くんに策略のイロハを叩きこんでもらって、それから、信忠くんの右腕へと考えているのですよ。実践に勝る経験は無いと言いますが、うーーーん?」
信長が腕を身体の前で組みながら、頭を右に傾けて悩む。
「だれかいないですかねえ?支城を任せれて、なおかつ籠城に強い将が。あたまには引っかかるのですが、名前が想いだせないんですよねえ?」
「殿が名前を思い出せないと言うのはめずらしい話なのじゃ。奥方たちの世話係の女子たちまでの名前まで記憶しているような殿なのじゃ。一体、どんな奴なのじゃ?」
「影がとことん薄い人物なんですよねえ。うーん、誰でしたっけ?やまー、やまー、やま?」
「もしかして、山内一豊のことかじゃ?あいつ、今、どこで何をしているのかじゃ?わしですら、名前を忘れていたなのじゃ」
「そうです、そうです。一豊くんですよ!いやあ、先生としたことがすっかり忘れていましたよ。あまりにも攻め下手なので、存在を半ば無視していたのですが、どこに配属してましったっけ?彼」
「うーん?わからんのじゃ。失せモノ探しの達人にでも探してもらうかなのじゃ?」
「そんなの得意な人材って、織田家にいましったっけ?その彼でも、一豊くんを探し出すのは難しいのではないのですか?」
信長と貞勝が仲良く、頭を右に捻っているところに訪問者がやってくる。
「ふひっ。そろそろ出番だと思い、参上したのでございます。信長さま、貞勝さま、僕を岩村城方面へと派遣をお願いしたいのでございます」
「あっれ?光秀くん。宇佐山城の防衛はどうしたのですか?しかも、光秀くんの家臣団まで連れてきて」
信長たちの前に現れたのは、光秀とその重臣である、斉藤利三、他3人の将であった。
「ふひっ。岩村城のかつての城主、遠山景任殿は、昔、世話になったのでございます。あそこの地を奪還して、遠山殿に恩返しをしたいのでございます」
遠山景任。彼は岩村城周辺の豪族であった。信長が美濃を手に入れた時に、降伏し、所領の一部を安堵され、そのまま、岩村城の城主となったのである。彼が裏切らないよう、信長は自分の叔母を娶らせたわけなのだが、この叔母が遠山景任が死んだあと、岩村城の城主となったのである。
その叔母を籠絡したのが、武田家の秋山信友である。
「そうですか。そんないきさつが光秀くんにあったのですね。恩義に報いる気持ちはわかります。でも、宇佐山城の守備は誰に任せるつもりなんですか?」
「ふひっ。信長さまが手塩に育てた蒲生氏郷がいるじゃないかでございます」
「氏郷くんは大人気ですねえ。先生も氏郷くんのような人望が欲しいですよ。近頃、皆さんから袖にされている気がしてならないですから」
「それは、殿の日頃の行いが災いしている部分が大きいのじゃ。ちょっと神域に達する御業に改良を加えたから試しに喰らってみてくれと頼むからなのじゃ。あんなの人間に喰らわせれば、3日は床に臥せることになるのじゃ」




