ー虎牙の章12- 信玄の策
「まあ、それは金を返せと思わず言ってしまうので候。男を抱きたい気分の時に、おなごだったら、いちもつがしなびれてしまうので候」
「僕は驚いて、がくがくぶるぶると震えあがってしまうのでございます。もし、信玄さまを後ろから襲って、そんなたわわなおっぱいが実っていたら、1年は立ち直れなくなってしまうのでございます」
内藤はこいつら何を言っているのでごじゃると思うのである。
「あのお。そこは尻を向けていたのがおなごで、こっちを振り向かせたら、男だったと言うほうが正しい表現だと思うのでごじゃる。殿、例えが逆でござる」
「はあ?内藤、お前は何を言っているのだわい。おなごだと思って、男だったらいちもつがびきっびきいいいい!ってなるのだわい。お前は美的感覚が狂っているのでないのかだわい!」
何故か信玄に叱責を喰らう内藤である。内藤は仕えるべき主君をもしかして間違えたのではないかとこの時、思うのであった。しかし、めげずにうっほんとひとつ、内藤は咳払いし
「100歩ゆずって、男だと思ったらおなごだったので、いちもつがしなびれてしまうことにするのでごじゃる。で、それが今までの話にどうつながるのでおじゃる?」
「うははははっげふっげふううう。わしら武田家が遠江・三河に侵攻するのだわい。そしたら、家康はわしらとの野戦を嫌って城に籠るのは必須なのだわい」
「それは当然でござるな。何せ、武田家は戦国最強と謳われた騎馬軍団がいるのでござる。北条氏康ですら、小田原に引きこもって出てこなかったのでござる」
馬場がうんうんと頷く。2年ほど前、武田家が今川家を滅ぼさんと、駿河攻めをした際に、今川の援軍としてやってきた、北条氏康に反撃を喰らった武田家である。武田家はこの時、今川家を滅ぼすどころか、逆に武田家が滅びに面していたのである。
だが、信玄の要請を聞いた信長が将軍と帝を動かし、武田家は上杉家との停戦に成功したのである。その翌年、倍返しだとばかりに、駿河を経由し、一気に北条氏康の拠点である小田原に攻め込んだという経緯がある。
その時、北条氏康は小田原周辺の村々を焼かれたが、決して、野戦で決着をつけようとせず、小田原城にひたすら籠り続けたのである。
「あの時は火をつけられて、逃げ惑う小田原の民たちに興奮を覚えたのでございます。信玄さまは遠江・三河でも同じことをしようというのでございますか?僕は楽しみで仕方がないのでございます」
高坂が恍惚の表情を顔に浮かべる。だが、山県は
「高坂、お前は殿の話を聞いてなかったで候。殿は春先までには岐阜には到達したいと言っているので候。此度は略奪をせずに、一気に城を落とすつもりなので候」
と言うのである。高坂はええええと驚きの表情に変え
「それは残念なのでございます。ああ、民たちの泣き叫ぶ声を聞きたかったのでございます。彼らの悲鳴だけで僕はご飯を三杯、軽くおかわりができるというのにでございます」
山県はやれやれと言った表情である。こんな男に駿河の統治を任せていいものかと思うが、殿のお気に入りの男でもあり、とやかく言うことをやめて、次へと話を進めるのである。
「で、殿、まあ、家康が籠ると言えば、浜松城となるで候が、あちらとしても1万は兵を揃えていると思えるので候。いくら、こちらが、2万以上の兵力を有していると言えども、力攻めを行っても3か月以上はかかると思うので候」
「ううむ。今は11月に入ろうという時期であるから、浜松城を落とす頃には翌年2月でござるな。さらに西の三河の岡崎城で時間を喰えば、5月になってしまうのでござる。このままでは、岡崎城を落とすか落とさぬかの間際には、1度、本拠地の甲斐に戻らなければならなくなるでござるなあ」
山県の言いに馬場が応える。武田家は織田家と違い、農民を徴収し、兵として活用している。まあ、このひのもとの国で1年中戦える兵士を持っているのは織田家と徳川家だけなのであるが。その織田家と徳川家以外の大名家は、農民を兵として使っているため、4月の初めには、本拠地に戻って、苗作りと田植えをおこなわければならない。
「あれ?ぼくちん、思ったのでございますが、徳川家と戦っているだけで武田家は時間切れになるんじゃないでごじゃる?そもそも、岐阜にすら到着できないのではないかでごじゃる?」
内藤が皆にそう疑問を呈す。
「内藤、お前、賢いで候。見直したので候。女の尻ばかり追いかけている軟弱者とばかり思っていたので候」
「あれ?普通、女の尻を追いかけるものでないのかでごじゃる。男の尻を追いかけてもおもしろくもなんともないでごじゃる」
内藤の疑問に山県が、はああああと深いため息をつく。
「内藤。女は確かに良いので候。特に熟女のたるんだ尻なんかは最高で候。だが、男を愛でることも忘れてはいけないので候。加齢臭のする身体は何とも言い難いもので候」
内藤は本気で山県は何をとち狂っているのかと思うのである。
「で、殿。徳川を攻めるのは京の都までの道を拓くためには致し方ないことで候。でも、3か月も浜松城で釘づけになっていたのでは、そもそもとしての上洛計画に狂いが生じるので候」
「うははははっげふっげふうううう。確かに、まともに城に籠る家康を相手にすればそうなるのだわい。だが、わしには秘策があるのだわい」
「秘策?秘策で候か?それが先ほどまでの尻を差し出す云々の話につながるので候か?」
「山県よ。その通りだわい。まさに、家康に対して、わしらは尻を向けるのだわい!」
山県は、はあと生返事をする。
「では、家康に尻を貸しだす者たちを見繕っておけばいいので候?おい、馬場、高坂、出番で候。殿のために家康に掘られてこいで候」
「何を言っているのでござる。我輩の尻を掘っていいのは、殿ひとりでござる。何故、家康に尻を貸さねばならぬでござるか!」
「僕のお尻だって、信玄さま専用なのでございます!あっでも、僕は信玄さまのお尻を掘るのも好きなのでございますよ?家康に尻を貸したあと、僕が家康の尻を掘ればいいのでございますね?」
「うおおおおおおお。今、急に寒気がしたのでござる。誰かに尻を掘られる悪寒がしたのでござるううううう!」
「でゅふ。家康さまの悪寒は間違ってないのでもうす。本多忠勝が、じっくりねっとり、家康さまのお尻を視姦しているのでもうす」
本多正信がそう家康に言うのである。
「ふひひっ!家康さまの尻は柔らかそうなのだ。僕の腰に装着した蜻蛉切で千回、突きたいなのだ」
忠勝がうへへ、うへへとよだれを垂らしながら、家康の尻を見ているのである。
「やめるのでござる。殿の尻穴は忠勝の蜻蛉切で千回も突かれれば、四六時中、赤味噌を垂れ流す尻に生まれ変わるでござる。できるなら100回までで抑えておくのでござる」
「えええええ?酒井忠次さま。お言葉なのだが、据え膳喰わぬは男の恥なのだ。おいらの蜻蛉切が100回程度の突きでは、達することができないなのだ!」
「うーむ、では、200回までにするのでござる。200回までならぎりぎり、殿のお尻はもつのでござる。殿、寝所の用意はしてあるので、そっちに移動するのでござる」
「待つのでござる!なんで、俺は忠勝の蜻蛉切でめった刺しにされることが前提になっているのでござる!お前ら、少しはこの状況がおかしいと思わないでござるか!」
しかし、家康の前に座る面々はうん?とハテナマークを頭に浮かべて
「おい、正信。お前、殿に何かおかしなことでも言ったのでござるか?謝るなら今の内でござるぞ?」
「でゅふ。僕はただ、忠勝が家康さまのお尻を視姦していると述べただけでもうす。おかしなことを言った覚えはないでもうすよ?」
「では、忠勝。お前が殿におかしなことを言ったのでござるか?謝るなら今の内でござるぞ?」
「うへへ?おいらはただ、家康さまの尻穴を蜻蛉切の錆にしたいと言っただけなのだ。忠次さまの方こそ、こころ当たりがないのかなのだ」
「うーむ。拙者でござるか?殿に寝所に布団をしいてあるから、そっちで忠勝に掘られてきたらどうかと勧めただけでござるぞ?このどこがおかしいと言うのでござる」
頭を悩ます3人に向かって、榊原康政が応える。
「そもそもが、こんな真昼間から殿の尻を掘ることが間違っているのだぎゃ」
「ほっ。徳川家の家臣団の中にもまともな奴がいたでござる。俺は榊原が家臣に居てくれて嬉しくて涙がでる想いでござる」
家康は、熱くなっためがしらを手ぬぐいで抑えながら、うんうんと頷くのである。
「忠勝、殿の尻を掘りたければ、夜にするのだぎゃ。真昼間から仕事をせずに寝所に籠る奴がどこにいるのだぎゃ!」
「おお、そうであったでござるな。これは忠次、一世一代の失敗でござる。殿、榊原の進言通り、忠勝とイチャイチャするのは夜にするのでござる」
「でゅふ。一件落着でもうす。この時期になると、日が傾くのも早くなるのでもうす。忠勝、もう2時間ほど、我慢するでもうす」
「わかったなのだ。それまで、自慢の蜻蛉切を磨いておくのなのだ。おいらとしては今すぐでも良かったなのだが、やはり、イチャイチャするなら夜に限るなのだ!」
「だから、お前らはなんで、忠勝に俺の尻を掘らせる話になっているでござるか!榊原を少しは見直したのが間違いだったのでござる。俺の嬉し涙を返せでござる」