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ー虎牙の章11- 後ろを見せれば襲い掛かりたくなる

 信玄は山県やまがたの言いにうん?と言った表情になる。


山県やまがたよ、今、お主、なんと言ったのだわい?」


「え?ですから、遠江とおとうみ、三河を攻略してから進軍せざるをえないと言ったのでそうろう


「いや、そうではないのだわい。その前に言ったことだわい」


 信玄の言いに山県やまがたのほうがうん?と言った表情になる。


「徳川家を無視して先を向かうのなら、武田家うちの背を家康が追ってくるのことでそうろうか?」


「うむ。そうなのだわい。うはははははっげふっげふううううう!」


「笑うか咳き込むかどちらかにするでそうろう。大体、そんなわかり切ったことを何故、わざわざ確認する必要があるのでそうろう?」


 山県やまがたがやれやれと言った表情をする。だが、信玄は咳き込むのを無理やり抑え、にやりと顔を歪ませる。


「普通の将、いや、あの北条氏康ほうじょううじやすですら、わしらが背を向ければ、好機と見て襲い掛かってくるのだわい」


「そんなのは当たり前でそうろう。ついに、殿とのは咳で頭がやられてしまったのでそうろう?」


「そう、そこなのだわい。背を向ければ、誰でも襲いかかってくることが当たり前だと言うことだわい。何故、こんな単純なことに気付かなかったのだわい。わしも老いたものだわい!」


「おい、馬場。お前が殿とのを甘やかすから、手遅れになってしまったのでそうろう。責任を取って、腹を切れでそうろう


「何を言っているのでござる。殿とのの頭がおかしいのはいつものことでござる。拙者の所為にするなでござる!」


 山県やまがたは馬場の怒りの言葉を無視し、はああああと深いため息をつく。


「大体、京の都を目指すと言いながら、その途上の徳川家と遠江とおとうみの領有権争いで仲たがいすること自体が間違いでそうろう。馬場が殿とのの側にいながら、何故、こんなことを許したのでござるか?」


「そんなこと言われても知らないでござる。ちょっと脅せば、家康くらいの奴など、ちびって遠江とおとうみから逃げると言い出したのは、そもそも、内藤殿でござるぞ?拙者に問いただすこと自体が間違っているのでござる!」


 馬場の反論を聞き、山県やまがたがジロリと内藤昌豊ないとうまさとよを見る。睨まれた内藤はぎくぅっと言った顔付きになり、しどろもどろになりながら


「いやあ。ぼくちん、信濃の城代しろだいにしてもらったのはいいのでごじゃるが、あそこは元々よりの豪族の支配地が多いのでごじゃる。それに、真田の新参者まで領地を寄越せと言ってきている始末でごじゃる。なら、新天地として遠江とおとうみに引っ越ししてもらうのがいいかもと思ったでごじゃる」


 内藤は言いながら、段々、声が尻すぼみとなって行く。馬場は、はああああと深いため息をつき


「何を言っているのでそうろう。豪族は元より、真田も自分の昔からの領地を捨てて、新天地に行くわけがないでそうろう。高坂くらいでそうろう。わーい、やったあ、駿河をもらえて嬉しいなあああなんて、手放しで喜んでいる奴は」


「え?皆さん、新しい土地に行くのはワクワクしないのでございますか?僕、山生まれの山育ちだったんで、毎日、海が見れて最高の気分でございますよ?」


 山県やまがたの嫌味も気付かずに高坂は底抜けの明るさで受け答えする。山県やまがたはまたしても、はああああと深いため息をつくのであった。


「大体、土地が増えたところで、配下の者たちが昔からの土地を手放すことなんてないのでそうろう。甲斐と駿河の一部の地を我輩はもらったでそうろうが、家臣どもに言うことを聞かせることはできなくて、ひとり寂しく赴任しているのでそうろう


「それって、山県やまがたさまに人望が無いだけじゃないでございますか?僕の家臣たちは嬉し涙を流して、ついてきてくれましたよ?やっぱり、家族のひとりやふたりを見せしめに斬り殺すくらいが功を奏したのでございます」


「ちょっと、それは嬉し涙でないでござるよ。絶対に悔し涙でござる。高坂、お前、ひととしてやっていいことと悪いことがあるでござるよ?」


「ええ?でも、信長は、引っ越しをしぶる家臣の家に火祭じゃああああって、松明を両手に持って、踊りながら襲撃するって聞いているのでございますよ?僕は身軽になるように、その者の親を斬り殺した程度でございます。信長殿みたいに一家丸焼けにして、夕飯のオカズにしないだけ、ましだと思うのでございますよ?」


「いや、比叡山を焼いた信長殿と言えども、夕飯のオカズを増やすためにその家臣の家を焼いたわけではないと思うでござるよ?家は焼いても、家臣も一緒に焼いたら、戦力ダウンになるでござるし。うーん?」


 馬場は自信なさげにそう答えるのである。実際に信長の所業を見たわけでもないので、何とも、信長の肩を持つには自信がない。


「あの護国鎮護の比叡山を焼いてしまうひとでございますよ?きっと、自分たちの家臣を丸焼けにしただけでは喰い足らぬと、坊主の焼肉を堪能したかったのに決まっているのでございます!」




「はっくしょおおおおん!ああ、またくしゃみが出てしまいましたよ。今度こそ、美男子か、美女子が噂をしているんでしょうね?」


「なんで、そこは疑問形なんだよ。てか、美男子はいいとして、美女子って何?そんな分類あったっけ?」


「のぶもりもりはわかっていませんね?良いですか?美男子は14歳前の眉目秀麗な男の子のことを言います。美女子って言うのは14歳前の眉目秀麗な女の子を言います。おわかりですか?」


「ガハハッ。殿との、それは美女子とは言わないでもうす。美少女と言うのでもうす。本当は風邪を引いているのではないかでもうす。言っていることがおかしいのでもうす」


「あれ?勝家かついえくんが普通のことを言ってますよ?誰ですか?プロティンの代わりに曲直瀬まなせくんの薬を勝家かついえくんに飲ませたのは。先生、怒らないから、出てきてください?」


「何を馬鹿なことを言っているのじゃ。曲直瀬まなせ殿に作ってもらった洗脳薬は、義昭よしあきに飲ませているのじゃ。危険なものを勝家かついえ殿に飲ませるわけがないのじゃ」


「あっれー?俺って耳がおかしくなった?なんか、貞勝さだかつ殿が義昭よしあきに洗脳薬を飲ませてるって聞こえるんだけど?それって人道的にやばくない?」


「人道的って一体、この戦乱の世で意味がある言葉なんですかね?先生、たまに思うんですけど、織田家うちの兵士たちって、お金でいくさに出るじゃないですか?よくもまあ、お金のために命を張れるなあってたまに感心する時があるんですよね」


「ガハハッ。無給で働かせられるより、よっぽどマシでもうすよ。殿とのが金で兵士を雇うのが当たり前だと思っているからそう勘違いするだけでもうす。それ以上に一向宗どもは顕如けんにょに金を払って命を捨てているでもうすよ?もう、狂っているとしか言いようがないでもうす」


「じゃあ、先生、とっても人道的じゃないですかあ。まったく、のぶもりもりが変なことを言うから、つい考え込んでしまいましたよ?」


「ええ?俺の所為になるわけ?まあ、義昭よしあきに洗脳薬を飲ませるのは眼をつむるとして、殿とのはよっぽど人道的だよなあ」


「うっほん。金はとても良いものじゃ。喰う物も買えるし、住む場所も買えるし、衣服も買えるのじゃ。だが、嫁だけは金で買えないのじゃがな」


「あはははははっ。そうですね。確かに嫁は金では買えませんね。貞勝さだかつくんにしては面白いことをたまには言うではないですか!」


「たまにはは余計なのじゃ。まあ、元々が根無し草であっても、金があれば、なんとかこの世は生きていけるのじゃ。殿とのは良いことをしているのじゃ」


 信長、貞勝さだかつ信盛のぶもり勝家かついえがうんうんと頷く。


「お主ら、何を良い話をしたと言う感じでしめる気でいるのだ。今は軍議の最中だと言っているのだ。本気でケツ罰刀ばっとを喰らわせてやろうかなのだ」


「うおっと、やべえ!河尻かわじり殿がマジでキレる5秒前だぜ。おい、殿との。ここは大人しく、軍議の話に戻ろうぜ」


「大体、誰ですか。毎度、話の腰を折るひとは。先生、怒らないんで挙手してください!」


 信長がそう言うと、信盛のぶもり勝家かついえ貞勝さだかつ河尻かわじりが一斉に、信長に向かって右腕をまっすぐ信長のほうに向け、その右手の人差し指で信長の顔を指すのであった。




「とにかく、信長といえども焼肉目当てに比叡山を焼いたとは思えないでござるぞ?困窮でもしてないのに人肉を食すのはさすがに狂っているのでござる」


「うーん、僕の思い過ごしなのでございましょうか?寺の坊主たちは油が乗っていて、良い味してそうなのでございます。信玄さま、ひとりくらい食べちゃってもいいのでございますか?」


「高坂、やめるのだわい。武田家うちは寺社を手厚く保護して寺社の利権を守っているのだわい。信長のように弾圧をする気はないのだわい。まったく、せっかく武田家うちが築きあげてきた寺社との信頼を崩す気なのかだわい」


 信玄が高坂に注意をする。注意をされたほうの高坂は、えへへっ!と言った顔で自分の頭を軽くこつんと右手で叩いてる。


「そんなことより話を戻すのだわい。人間、背中を見せた奴を後ろから襲いかかりたくなるのは当然なのだわい。まるで高坂がわしに尻を向けている如くだわい」


「その例えはわかるようなわからないようなでそうろう。まあ、熟女が尻を我輩に向けていれば、確かに襲いかかりたくなるのでそうろう


山県やまがた、いい加減、熟女好きなのはやめるのでごじゃる。家臣の者たちが山県やまがたのうちの嫁に向けてくる視線がマジもマジだと心配しているのでごじゃる。特に人妻の尻をじっくり見るのはやめるのでごじゃる」


 内藤がふうううとため息をつきながら、山県やまがたに注意をする。たいして山県やまがたがふんっと鼻をならすのみである。


「うははははっげふっげふぅううう。まあ、黙って話の続きを聞けなのだわい。例えば、尻をこちらにつき出している若い男を後ろから襲って、肩をグイッと捕まえ、こちらの方を向けさせたとしようなのだわい。その時、肝心のいちもつがなくて、胸にたわわにおっぱいが実っていたら、どう思うのだわい」

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