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ー虎牙の章 4- 苦情・お問合せは信長まで

「ほう、そうですか。では、義昭(よしあき)さまが(みかど)や朝廷に頭を下げるつもりは一切ないと言いたいのですね?わかりました。(みかど)にはそう伝えさせていただきます。説得の甲斐なしですね。いいでしょう。将軍さまは将軍さまのやりたいようにされれば良いですよ」


 信長の言いに、義昭(よしあき)がふんっ!と鼻をならし、ぷいっと横を向くのであった。


「ついでに言っておきますけど、将軍さまが(みかど)や朝廷との行事をこなしてないことは市井の民たちも知っていることです。京の都の民たちは、将軍さまの不遜な態度に怒りを持っています。それでも、(みかど)をないがしろにしたいと言うのであれば、ご自由に」


「知ったことかでおじゃる。大体、民草どもに政治の本質が理解できるわけがないのでおじゃる。何故、このひのもとの国に将軍職が必要なのか理解していない者ばかりでおじゃる!」


「あれー?そういえば、あたしも、将軍と言う職に対して、あんまり理解がないなー。将軍って武家の頂点で、(みかど)からこのひのもとの国の政治を任せられてることくらいしか知らないなー?この国で(みかど)に次いで偉いひとってくらいしか思ってなかったー」


 お竹の言いに義昭(よしあき)は、所詮、一般人の理解などその程度でおじゃると思うのである。


「まあ、その辺、話をし始めると長くなるので、お竹さんには今度、解説させていただきますよ。で、それよりも今は京の都の民たちが、義昭(よしあき)さまに怒りの眼を向けていることのほうが大事ですからね?」


 信長がお竹にそう言い、話の続きをする。


「まあ、早い話が義昭(よしあき)さまが政務に励むことなく、酒や女に溺れていることが京の都の民たちに知れ渡っていることがそもそもの原因なんですよ。将軍さま。お竹さんと言う女性がいながら、他の女性とイチャイチャするのは如何なものなのですか?」


「し、仕方ないのでおじゃる。お竹ちゃんは今、妊娠中なのでおじゃる。まろの溢れんばかりの性欲をどこで発散しろと言うのでおじゃる!」


「うっほん。口でも手でも性欲の発散はできるのじゃ。そんなことも知らないのかじゃ。まあ、そんなことより、為政者が嫌われる要因のひとつは、民たちの苦しみも理解せずに、豪奢に暮らしている場合においてなのじゃ。将軍さまの日々の暮らしで放蕩の限りを尽くしていると言う噂は今や、赤子でも知っていることなのじゃ」


 村井貞勝(むらいさだかつ)義昭(よしあき)に対して諫言をする。


「何を言っているのでおじゃる。ひのもとの国の主たる、まろがどんな暮らしをしようが、民たちには関係ない話なのでおじゃる。貞勝(さだかつ)殿、何か?民たちが質素にあわひえを食べているのなら、まろもそれに合わせて同じものを喰えというのでおじゃるか?」


「別にあわひえを喰えとは民たちも思わないのじゃ。やりすぎがダメなのじゃ。毎晩のように遊女を屋敷に招き、宴会を開いているようなところがダメなのじゃ。酒と女を慎むくらいの清廉潔白な為政者を民は好むのじゃ」


「どこの国の思想でおじゃるか。あの比叡山でも、酒と女をかっくらっているくらいにグダグダなのでおじゃる。まろが豪奢な暮らしをするのは、まろが将軍であるからなのでおじゃる。悔しかったら、その文句を言っている民たちも将軍を目指せばいいのでおじゃる」


 義昭よしあきはふんぞり返り、右手に持った扇子をはためかせる。貞勝さだかつはこれ以上、言うのは無駄だと考え、口を閉じるのであった。


「ところで光秀くんは何を一生懸命、書いているのー?てか、達筆だねー」


「ふひっ。お竹殿。僕は時間さえあれば、古今東西の書物を写本しているのでございます。この写本が中々にして金になるのでございます。あっ、秀吉殿には内緒でございますぞ?秀吉殿も写本を売りさばいて、小銭稼ぎをしているのでございます。僕が同じことをしていると知れば、安売り競争で、僕の事業が潰されてしまうのでございます」


「あっれーーー?光秀くんって城主じゃなかったっけー?信長さまからお給金がたくさん出てるんでしょー?そんなことをしなくても暮らす分には問題ないんじゃないのー?」


「ふひっ。もらっている分など、家臣の給与や娘の養育費でほとんど飛んでいってしまうのでございます。織田家うちは自分の家臣団は自分で養うことになっているのでございます」


「それでも写本を光秀くん自らがするほどには暮らしには困っているとは思えないんだけどー?信長さまが出し渋りしているのー?」


「ちょっと待ってください。まるで光秀くんを先生がイジメているような言い方ですね?そうではありませんよ?光秀くんの功績に見合った分だけ、ちゃんとお給金や領地は分け与えていますからね?」


 信長が堪らず、お竹に弁明をする。


「うっほん。織田家うちの給金の配分に関しては、わしがしっかり帳面をつけているのじゃ。だが、光秀殿は少々、私兵を雇いすぎなのじゃ。光秀と同じく出世頭の秀吉が兵2000を直接雇っているわけなのじゃが、光秀はライバル心からか、兵3000を雇っているのじゃ」


「あー、なるほどー。光秀くんと秀吉くんは同じほどしか給金をもらってないのに、光秀くんは秀吉くんより5割も兵を多く雇っているんだねー?それは、生活が困窮してもおかしくないよー」


「ふひっ。雇ってしまった以上、無碍に解雇もできないのでございます。信長さま、僕のお給金を増やしてほしいのでございます」


「そこは、光秀くんが勝家かついえくん並に働いてくれるようになれば、今の3倍、お給金を出しますよ?先生、光秀くんには期待していますからね?」


「ふひっ。これからも僕の活躍に期待してほしいのでございます。では、僕は写本の続きをしますので、皆さんは話の続きをしてくださいなのでございます」


 しかし、この時、光秀は写本をしているわけではなかった。信長たちと義昭よしあきとの会話を詳細に記載していたのである。写本をしている姿はフェイクなのだ。そのことに、お竹と義昭よしあきは全く気付いてなかったのである。


「さて、内職に励んでいる光秀くんは放っておいて、話の続きをいたしましょうか」


「まだ何かあるのでおじゃるか?説教はもう聞きあきたのでおじゃる」


 義昭よしあきは、さぞうっとおしそうな顔つきで信長の顔を見る。


「将軍さま。次は、先生からの苦情です。殿中御掟でんちゅうおんおきてとその追加の5条の内容について覚えていますか?まあ、忘れたとしらを切られるかもしれないので、まとめたものを貞勝さだかつくんに用意させましたけど」


 信長はそう言い、貞勝さだかつに将軍から判をもらった殿中御掟でんちゅうおんおきての書状を机に広げさせる。


「うわー。ずらずらと色々、書かれてるねー。でも、読んだ限り、義昭よしあきちゃんがまともに守っているものなんて、あるの、これー?」


 お竹がそう感想をもらす。


「ちょっと、お竹ちゃん、何を要らぬことを言っているのでおじゃる!まろはまろなりにできることをしているのでおじゃる」


 義昭よしあきが慌てふためいて、お竹にそう弁明するのである。


「そう、お竹さん、まさにそこなんですよ。将軍さまときたら、先生との約束を守る気がまったく見られないんですよ。今日だって、将軍さまの幕臣を二条の城に呼ぶのなら、先生に一言、言わなければならないという約束だったのですよ。貞勝さだかつくん、今日、京極くんが将軍さまに謁見すると言う話は聞いていましたか?」


「いや。京極殿が義昭よしあきさまに尋ねてくるという申請書の類は、こちらには届いていないのじゃ。一体、どこから、京極殿はここにやってきたのじゃ?」


 義昭よしあきはうぐっとつい口からこぼしてしまう。いくらかの賄賂を二条の城の警護の者に渡して、京極高吉きょうごくたかよしが二条の城に入り込めるように画策していたのである。


 だが、貞勝さだかつ貞勝さだかつで、警護の者が賄賂を受け取ったことは知っているのである。大体、賄賂を受け取った警護の者自身が貞勝さだかつに報告しているのである。要はわざと泳がせていたのだ。


「いけませんねえ?非常にいけないことですよ。将軍さまは先生との約束を守ると言って、判を押してくれたのですよね?それとも何ですか?先生との約束なんて守る気なんて、最初からなかったんですか?」


 義昭よしあきは信長から問い詰められて、鈍い汗を額に垂らす。


「たまたま、京極の奴めが城門を通り抜けたときに警護の者がいなかっただけなのでおじゃる。非難をすべきなのは、警護をさぼった門番なのでおじゃる!」


「ほおう?それはいけない警護の者もいましたね。それは先生側の落ち度ですね。貞勝(さだかつ)くん、その警護の者の名を調べておいてください。じっくりたっぷり説教をしておかなければいけませんね?」


「うっほん。まあ、警護と言えども小便くらいしたくなるのじゃ。京極殿はたまたま、その時に城門をくぐったのかも知れないのじゃ。警護に隙ができないように、交代をしっかりするように言うだけで良いのじゃ」


貞勝(さだかつ)くんがそう言うのであれば、その警護の者の処罰はよしておきましょうかね。でもダメですよ?もし、京極くんじゃなくて、浅井家や朝倉家の間者が忍び込んでしまうかもしれませんので、その辺、ちゃんとしっかりしておいてくださいね?」


「わかったのじゃ。おおめに見て頂けること感謝するのじゃ。殿(との)の手を煩わせないよう、わしから注意しておくのじゃ」


 信長はやれやれと言いながら、話を続ける。


「さて、話は続きまして、将軍さま?いまだに諸国の大名に手紙を出しているでしょ?謙信くんが困っていましたよ?将軍さまに土地を差し出せというような内容の手紙が送られてきたと。いつも言ってるでしょ?諸国の大名に出す手紙は先生が内容を精査してから送ってくださいと?」


 義昭(よしあき)はぐぬぬと唸る。いつもなら、まろの手紙を握りつぶすくせに、なぜ、謙信に宛てた手紙はそのまま素通りさせるのでおじゃるのかと。


「謙信に宛てた手紙は御父(おんちち)・信長殿も一緒に読んだはずでおじゃる。信玄と謙信の停戦を結ばせた時に、御父(おんちち)・信長殿が謙信に何かおねだりしてみては?と言っていたのでおじゃる。だから、まろは、土地がほしいのでおじゃると、付け加えただけでおじゃる!」


「確かに、先生は将軍さまの功を認めて、謙信くんに何かもらえば良いとは言いました。でも、それは感謝の言葉をもらえってことです。誰が土地をもらえって言いますか。そんなの言われた謙信くんからしたら困惑するのは当たり前じゃないですか」


 信長の言いに返す言葉も見つからない義昭(よしあき)である。

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