ー猛虎の章16- 3人寄らば野獣の交わり
「うははははっ、ごふっごふっ。氏康の奴、やっと逝きおったのだわい。しかも、遺言で武田家と同盟を結べとは、これまた愉快な話なのだわい!」
甲斐の国は甲府にある屋敷で信玄はおおいに笑うのである。1571年12月、長年、ライバルでもあり同盟も結んだこともある北条氏康が病で亡くなったのである。
しかも、信玄にとって一番の幸運は氏康が上杉謙信を見限って、武田家と同盟を結び直せと遺言を残したのである。
「まさに僥倖なのだわい。天は、わしに使命を果たせと言わんばかりなのだわい!ごふっごふっ」
「信玄さま、落ち着いてくださいでござる。そんなに興奮されては、咳が止まらなくなってしまうのでござる」
馬場が信玄の状態を見かねて、諫言を行う。
「いやあ、すまないのだわい、ごふっごふっ。こんなに都合よく武田家にとって北条家との決着がつくとは夢にも思っていなかったのだわい。つい、嬉しさの余りに、裸になって庭中を駆け回りたい気分なのだわい」
「信玄さま、何かおかしな薬を飲んだのではござらぬか?いつもの信玄さまらしくないのでござる」
「いやあ、咳がひどかったので、信長殿から送られてきた京の名医の薬を少しばかり、飲みすぎたのだわい。しかし、3包みほど飲んだところ、まるで、身体が羽毛かのような軽さであるかのように気分が昂るのだわい!」
信玄さまが少しおかしいのは薬の飲みすぎであることがわかる馬場である。
「信玄さま、薬の処方量はしっかり守るでござる。薬も酒も過ぎれば毒になるでござるぞ」
「なあにを言っているのだわい。こんな気持ちよくなる薬なのに、使わないのはもったいなのだわい。うはははっ、今まで生きてきた中で最高の気分なのだわい。嫁どもと夜のまぐわいをするよりも気持ちが良いのだわい!」
馬場の眼から見ても明らかに信玄の様子がおかしい。これは、もしや、信長が薬と言いながら、偽って、毒を混ぜているのではないのかさえ思えてくるのである。
「親父いいいいいいい。親父から分けてもらった風邪薬だけど、これは最高にハイってやつだぜえええええ!今なら、処女を3人同時に相手できる気分なんだぜええええ」
「な、なんでござる。勝頼さままで一体、どうしたのでござる!」
「ああ?馬場か。お前も京の名医の薬を飲んでみると良いんだぜ。どうにもこうにも、副作用のせいか、いちもつが起ちっぱなしなんだぜえええ!」
「そんなことより、服を着るでござる。他の者たちがなんと思うか、考えるでござる。勝頼さまは武田家を継ぐお方でござる。無体なことをしてはいけないのでござる!」
馬場が怒気を込めて、顔を真っ赤に染めながら、勝頼を怒鳴りつける。
「うっ。馬場、すまねえ」
「わかってくれたら良いのでござる。さあ、服を着てくれでござる」
「お前の尻がぷりんとしてて、欲情してしまったんだぜ。なあ、親父もそう思わないか?」
勝頼の言いに馬場が驚きの表情を作る。
「な、何を言っているのでござるか。拙者の尻はぷりんとはしていないでござる!」
「ほっほう。勝頼、良い眼をしているのだわい。わしも前々から馬場の尻を掘ってみたいと思っていたところだわい。1番は当然、わしとして、2番手はお前でいいのかだわい?」
「おう、いいぜ。親父。初物は親父に譲るのが武田家の習わしだからな!その代り、よくほぐしておいてくれなのだぜ」
この親子は一体全体、何を血迷ったことを言っているのかと思う馬場である。馬場は2人の顔をよくよくみると、まるで腹を空かせた虎がさも獲物を品定めしているような表情になっていることに気付く。
しかもだ。勝頼だけではなく、信玄まで、着物を脱ぎ捨て、すっぽんぽんになるではないか。
「うはははは、ごふっごふっ。さあ。馬場よ。観念したのかだわい。なあに、高坂も最初は痛がっていたが、3発もしたあとには自分から腰を振るようになったのだわい。極楽往生に連れていってやるのだわい」
「親父!一発ずつ交代だからな。続けて3発されたんじゃ、俺のいちもつが我慢しきれなくなって暴発しちまうんだぜ」
「わかっておるんだわい。さあ、勝頼、馬場が逃げないように上半身を抑えるんだわい」
素っ裸の信玄と勝頼がじりじりと馬場に近づいていく。馬場は主君である信玄に密かに抱かれたいと言う気持ちは持っていた。だが、こんな乱暴に扱われるのは嫌である。
「ま、待つでござる。乱暴にされるのは嫌なのでござる。せめて、優しく頼むのでござる!」
信玄と勝頼はいちもつをびっきびきにしながら、ほう?と言う。
「勝頼よ。何か、馬場が乙女ちっくなことを言っているのだわい。わしとしては、あーれーお代官様、ご無体な攻めをしたいのだわい」
「親父、俺としては借金の方に連れられて行かれる攻めをしたいんだぜ!馬場にはもっと、良い声で鳴いてほしいところなんだぜ」
「では、決まったのだわい。馬場には無残に散ってもらうことにするのだわい。うっほ。高坂が駿河に行ってから、ご無沙汰だったから興奮するのだわい!」
「へへっ。じゃあ、親父。俺が馬場の服を脱がせるのを手伝ってやるんだぜ。やはり、無理やり着物をはがせるのが一番、興奮するんだぜ!」
信玄と勝頼は、ぐへへ、ぐへへと口から卑下な笑いをこぼしながら、馬場にじりじりと近づいていくのであった。
「いやああああでござるううう。初めては夕日が見える丘で信玄さまとイチャイチャしながらがよかったのでござるうううう」
そのあと、信玄と勝頼は馬場とめちゃめちゃイチャイチャしたのであった。
「ふう、気持ちよかったのだわい?」
「ううっ。けがされちゃったでござる。拙者、けがされちゃったのでござる」
馬場は布団を涙で濡らしながら、嗚咽の声をあげる。
「しっかし、親父は5回もするなんて、さすがなんだぜ。俺なんて3回で打ち止めだったんだぜ!」
「うははははっ。まだまだ、若い者には負けてられないのだわい。さて、仕事の話に戻るのだわい。馬場、いい加減、鳴きやむのだわい」
馬場は信玄にそう言われ、乱れた着物をそのままに、身を起こし、あぐらをかく。
「優しくしてほしいと言っていたのにひどいのでござる。でも、そんな荒々しい信玄さまも好きなのでござる」
馬場は頬を紅く染め、そう言うのである。
「今度、信玄さまに謀反攻めをするのでござる。次は信玄さまにかわいい声で鳴かせてみせるのでござる」
馬場が両手の人差し指と中指をこすり合わせながら、もじもじとしている。信玄は、やれやれと言った顔つきで
「仕事の話が終われば、また鳴かせてやるのだわい。それよりも今後のことをどうするのか決めるのだわい」
「わかりましたのでござる。現状の話をするのでござる。武田家の領地より東の北条家とは同盟を結ぶ話が進んでいるのでござる。まあ、氏政さまは聡明な方でござる。今川家が滅んだ今となっては、わざわざ武田家と争う必要性がないと考えているのでござろう」
「こちらとしても敵がひとり減ったのは良いことなのだわい。氏政殿と祝いの席でもひとつ、設けようなのかだわい」
「それがいいかもしれないでござるな。長年の不仲を解消するためにも正月には一席、設けていいのかもしれないでござる。して、次に北の上杉家でござるが」
「何か問題があるのかだわい?」
言い渋る馬場に何事だとばかりに質問をする信玄である。
「織田殿が武田家と上杉家との停戦延長の話をのらりくらしとかわしている状態なのでござる。どうやら、大きくなりすぎた武田家を警戒しているようなのでござる」
「うーむ。実際、武田家は南の徳川家に圧力を強めているのだわい。警戒するのも仕方のないことだわい。ここは、何かひとつ、手を打たなければならないのだわい」
「幸い、松姫が信長さまのご子息・信忠殿の元へ無事、送ることができたのでござる。まあ、怪我の功名と言ったところでござるが。さて、一体、誰が松姫を自由にしたのでござるかなあ」
馬場の言いに勝頼は、うっとつい言ってします。
「う、うるせえな。松が勝手に信忠の奴のもとへ行きたいって言っていたから、ちょっと手伝いをしただけじゃねえか。まあ、岐阜に向かう途中で路銀がきれたなど言い出したときは、こいつ何やってんだと思ったんだけどだぜ」
「勝頼。いくら妹だからと言って少々、路銀を出し過ぎたのではないのかだわい。金塊を5,6個も送ってどうするのかだわい」
「しょうがねえだろ。最初に持たせた金塊3個を1カ月もしないうちに使いきりやがったんだぜ、あいつは。念のために多めに渡しておくほうがこっちとしても気が楽なんだぜ!」
勝頼の言いに信玄と馬場は、はああああと深いため息をつく。
「まあ、勝頼さまの財布から出すのは一向にかまわないのでござる」
「えっ?馬場の給料の半年分からさっぴいただけなんだぜ。いくら親父の息子と言っても、そんなにお小遣いをもらっているわけじゃないんだぜ」
「ちょ、ちょっと待つでござる。そんな話、聞いてないでござる。先月より、信玄さまからお給料をもらえない理由はそういうことでござったのか!」
「あれ?親父。馬場には言ってなかったのかだぜ?俺はてっきり、親父殿が松姫のことは暗黙の了解をしていてくれたと思っていたのだぜ」
信玄は、あっ!と言う顔付きになり、ごほんとひとつ咳払いをする。
「わしの娘は馬場の娘と言って過言ではないのだわい。可愛い娘のために親が金を送るのは当然のことだわい。そういうわけだから、馬場よ。半年ほど無給だが、我慢するのだわい」
ごまかしやがったでござると思う馬場であるが、その分、夜の営みで返してもらえばいいかとも思うのであった。
「お給金に関しては、他のことで返してもらうでござる。さて、松姫の件もあり、織田殿も多少は恩を我らから感じていると思うのでござる。ここで、さらに一手、改めて武田家から同盟維持の意思を示しておくのが良いと思うのでござる」
「なるほどなのだわい。それに合わせて、徳川との不仲を解消するとでも書状に書いておくのだわい。そうすれば、武田家と上杉家との停戦についても譲歩を引き出せることだわい」
 




