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ー花嵐の章 2- 天下への道程

 ひのもとの国は、稲刈りの季節も終わり、毎年恒例の略奪シーズンへと突入していた。


「ひゃっはあああ!農作物を出せや、おらああ!」


尾張おわりの国は肥えてて、収奪が楽しみだったんだぜえ!」


「今年は奴隷が何人、できるかなあ!」


 ここは、尾張おわりと三河の国境沿い。今川の兵100が、尾張おわりの村の収穫物を略奪しに来ていたのだ。


「お前たちにやる米なんか、一粒もねえんだよ!」


「にわちゃんは、民をまもるのです」


 佐久間信盛さくまのぶもりと、丹羽長秀にわながひでが、それぞれ兵100づつ率い、鳴海なるみ城から進発し、国境沿いの村を警護していた。その警護の網に、今川の兵が引っ掛かったのである。


「しっかし、毎年よく飽きねえな。こいつら」


「にわちゃんは、敵兵を捕らえて拷問する企画をおもいついたのです」


 今川の兵と言っても、従属を強いられている、松平元康が率いる三河の兵である。今川からなにか食糧援助がでるわけでもなく、彼らが食いつなぐには、尾張おわりでの略奪をしなければならない。ただし、ここ2年は、尾張おわりは安定してきており、尾張おわり兵の精強さもましてきて、村への奇襲的な略奪行為でもしない限り、成功率は右肩下がりであった。


「よーし、鉄砲かまええ」


「にわちゃんは発砲を許可しますのです」


 ダダダーンと、50の鉄砲足軽たちによる発砲により、今川もとい、三河兵10数名に死傷者がでた。残りは蜘蛛の子を散らすように退散していく。けが人数名は、置いて行かれ、そのまま織田軍の捕虜となった。この捕虜は後日、三河の家族が釈放金を払うことによって、三河に帰ることになるだろう。そうでない場合は、奴隷市にながされる。


「略奪しにきて、逆に身代金とられるんだ、こいつら、生き詰まってるな」


「にわちゃんは思うのです。略奪者に慈悲を行う企画は存在しないのです」


丹羽にわよ。なにかこいつらが震えあがって、二度と略奪に来たくありませーんって企画は、ないわけ?」


「にわちゃん、三河の兵は我慢強いので、あまり過激な企画をすると返って略奪行為に火がともるので、ほどほどにと、信長さまから言われているのです」


 まあ、確かになと信盛のぶもりは思う。三河の兵は今川の奴隷と言って過言でもない。圧政には慣れている。少しくらい痛い目を見せても、火に油をそそぐものだ、対して効果はでないであろう。

 それにこちらとしても、いくら村々を警護をしているからと言っても、野戦上手な三河兵だ。奇襲で来られては、人命を守ることはできても、収穫物の被害は出る。収穫物に被害がでれば、その代価にこちらも向こうの兵を捕まえて、売る。売ってはいるが


「さて、次は、南の村を警護しにいくか」


「にわちゃんは、そろそろ休憩をはさみたいのです」


「それは敵さんに言ってくれ」


「にわちゃんは、特別ボーナスを信長さまからもらいたいのです」


 しかし、毎年ながら、これではいつ終わると知れない、いたちごっこだ。殿との、なにかいい案はないのか?




「なるほどッス。尾張おわりが肥えるってことは、周りの国はじり貧になるってことッスね」


「はい、そうです。周りから見たら、織田家は宝の山に見えるでしょね」


「そして、織田家うちだけ景気がいいから、他国はどんどん不景気になるッスね」


「その通り。じり貧になればなるほど、彼らは盗賊よろしく、国境沿いで収奪に走ります」


 前田利家まえだとしいえと織田信長は、ふたりそろって、渋い顔をしている。


「大名といってもやることは、せせこましいッスね」


「それが至って普通の行為です。織田家が狂ってるくらい景気がいいだけですので」


 それにと、信長は続ける


「金がなければ、大規模な戦争はできません。織田家のように商売繁盛しているか、もしくは甲斐の武田のように大規模な金山を掘り当てることでしょうかね」


 上杉謙信はカラムシという、衣服の原材料になる草を大量生産、大量販売し、佐渡の鶴見銀山と相まって、軍資金を稼いでいた。その軍資金により、1961年現在、稲刈りがおわった、たった今、第4回目となる川中島合戦を行っている。


「金があるとつかってしまいたくなるのが人間ですからね」


「ところで、武田信玄と、上杉謙信もこりずに、延々戦ってるッスねえ。そろそろ10年ッスか?」


「そうですね、正確には開始から8年ほど経っています。謙信はアレですかね」


「軍神というよりは、戦争狂ッスね。勝ったところで、謙信には得なんかないはずッスもん」


 そもそもの川中島合戦の起こりは、武田信玄が信濃の豪族、村上吉清むらかみよしきよを追い出して、信濃を手に入れたまでは良かったのだが、その村上吉清むらかみよしきよが上杉謙信に泣きついたところ


「武田信玄に正義は無し。正義は我にある。皆の者、正義の名の下、信玄を倒して、村上の地を取り戻せ」


 と言い出し、始まったものである。それが、今年に入って、早、8年目の4回目の戦いを行っているのである。


「最強の騎馬軍団と名高い、武田信玄」


 信長は一呼吸置き


「それに対抗しうる軍神もとい、正義狂いの上杉謙信」


「つぶしあってくれるのが一番ッスね」


「先生、この2国とあまり戦争したくないですねえ」


「お互い、死ぬまで一生、川中島、やっててくれないッスかね」


 利家としいえと信長は遠い目をしながら、感慨深げになっている。



「で、話を戻して、殿とのは、どうするつもりッスか?この今川との小競り合い」


「まあ、今川だけじゃなくて、美濃みのの斉藤、北伊勢きたいせの関氏の3方向からなんですがね」


 信長は右手の扇子の先で、頭をかく。


「この乱世を終わらせるためには、天下を手中に入れなくてはなりません。そのためには帝のおわす、京の都を抑えることが早道です」


 利家としいえはふむふむと頷く。信長は、左手のひとさし指と中指を立て


「ここ尾張おわりから京の都に至る経路は二つあります。美濃みのを通って、びわこのふち、近江南部を通るルート」


「も、もうひとつは、伊勢を通って、い、伊賀を経由するルートが、あ、あります」


 秀吉が下座から話に割り込んだ。


「はい、そのとおりですね。伊勢のほうは、伊勢出身の滝川一益たきがわかずます以下数名を充てています」


「さすが、信長さまッス。すでに手を打っているッスね」


「今はまだ、伊勢のルートには本格的には戦力を動員できませんが、一益かずますのことです。調略などで切り崩してくれるでしょう」


 北伊勢きたいせには、一益かずます山内一豊やまうちかずとよなどが担当していた。伊勢長島の海賊もおり、切り崩しの作業には難攻しそうなのは、確実である。だが、やってくれると信長は2人を信じていた。



「次に斉藤ですが、こちらは今は亡きしゅうとの道三の書状より、国ゆずりの書を預かっております」


 信長は、傍らより、おもむろにその書を会合の場の家臣たちに見せる。


「こ、こんなもの、ど、どこで手にいれたのですか、信長さま」


 秀吉は猿のような顔を赤くして大層、驚いている。この書状が信長の手元にあるということは、美濃みのの正式な当主として主張してもなんら問題ないということである。


「斉藤道三の傍流の孫に送られたものを先日、斉藤義龍さいとうよしたつが亡くなり、斉藤龍興さいとうたつおきに代替わりした際、傍流の孫がこの書状を携えて、美濃みのから尾張おわりに逃げてきたところを保護したのです」


「とんでもないもの、隠し持ってたッスね、そいつ」


 利家としいえも驚きを隠せない


「そもそも天下の交通の要である美濃みのを手に入れなければ、織田家うちには天下取りという未来はありません。これだけは断言できます」


 そしてと、信長は続ける


「これ以上、東の三河、遠江のために戦力を割く意味もありません」


「で、では、今川と和睦を結ぶのですか?」


 織田信長は、今川現当主、今川氏真いまがわうじざねの父を討った仇だ。そんな和睦など、到底、まかりとおるはずがない。現に、いま現在、三河の兵により、収奪を繰り返されてるのだ。


「今川とは和睦は結びません」


 そらそうッスよねと、利家としいえは嘆息する


「松平と和睦を結びます」


 会合に集まった、家臣一同、えええといつまでも長く、声をあげていた。


 一方、勝家かついえは、ひとり


「ガハハ!さすが殿とのでござるな。我輩にはそんな考え、できないでもうす!」


 と、米俵を両手に1俵づつもち、上下に動かしながら、日課の鍛錬をこなしていたのであった。

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