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ー猛虎の章 9- ひのもとの国の養子制度

「信長さまがうらやましい、です。私なんて、ねねが(めかけ)だけは作るなと言って、きます。やはり、子供が未だに産まれないのが心配の元なの、でしょうか?」


「あれ?秀吉。口調が元に戻ってるけど、酔いが冷めたのか?お前が泥酔してる時に性格が豹変するのも、また面白いと思って、飲ませたってのに」


 信盛(のぶもり)が不思議そうな顔で、秀吉にそう尋ねると、代わりに光秀が応えることになる。


「ふひっ。あの状態の秀吉殿はおそろしいので、頭から水をぶっかけて、熱いお茶を口にねじ込んだのでございます。被害を最小限に抑えるのも僕の役目なのでございます」


「あーあ、他の机で座っているやつらがことごとく酔い潰れているのは、秀吉が暴れまわった痕跡なのかあ。って、どこも被害が最小限に抑えられている気がしないぞ?」


 死屍累々と化している周りの机を見渡しながら、信盛(のぶもり)がそう感想を述べるのである。


「信長さまに累が及ばなければ、被害はないのと同じなのでございます。大将が(いくさ)で討ち取られれば、いっかんの終わりと一緒なのでございます」


 それにしても、佐々(さっさ)貞勝(さだかつ)丹羽(にわ)と言った織田家の諸将たちだけでなく、さらには義昭(よしあき)までもが、秀吉の被害にあっているが、これはこれで大損害なのではないのだろうかと思うが、酔わせたのは自分なので、見なかったことにする信盛(のぶもり)である。


「本当、秀吉ちゃんがおらおら、飲めよ!俺の酒が飲めないのかって言いだして、義昭(よしあき)ちゃんまで酔い潰されるとは思っていなかったよー。しゃべる相手もいないから、こちらの席で飲ませてもらうねー?」


「あらら、お竹さん。お竹さんは秀吉くんの被害にはあわなかったのですか?さすが秀吉くんですね。泥酔しているからと言って、妊婦さんに強引に酒を勧めなかったのは、先生、好感がもてますよ」


「秀吉ちゃんは、女性には優しいよー?酔い潰れているのは男性陣だけだねー。何か日頃の恨みつらみでも溜まってたんじゃないー?」


「うっぷんが溜まってるなんて、そんなことはありま、せんよ?た、多分」


 しどろもどろになりながら秀吉が否定をするが、信長、信盛(のぶもり)勝家(かついえ)利家(としいえ)は疑わしい目つきで秀吉を見るのである。そして、4人でひそひそと


「先生、秀吉くんに何かしてませんよね?ちゃんと功績に合わせて、俸禄も渡していますし」


「俺も秀吉に関しては、褒めることはあれ、けなすことはしてないはずだぜ?」


「うーむ。しかし、猿でもうすからなあ。人間とはまた違った感性で、思わぬことに腹を立てている部分があるかも知れぬでもうす。現に丹羽(にわ)が秀吉に酔い潰される原因がわからないのでもうす」


「わかったッスよ!秀吉は猿と言われた回数をこっそりどこかに記帳しているッス。丹羽(にわ)は良く秀吉のことを猿って言ってるッス。それが原因だと思うッス」


「何?では、なんで我輩は無事でもうすか?常日頃から、猿、猿と言ってしまっているでもうすよ?」


「そりゃあ、勝家(かついえ)さまを酔い潰そうとするのは不可能ッスからね。猿も自然界の掟「力こそが全て」なのを本能でわかっているんッスよ」


「あのー。皆さん。ひそひそと話してるつもりかも知れませんが、聞こえて、いますよ?」


 秀吉がじと眼で4人を睨むのである。


「ふひっ。秀吉殿。落ち着くのでございます。宴席なのでおおめに見るのでございます」


「は、はい。でも猿と言われた分はちゃんと記帳しておき、ます。それで、水に流しま、しょう」


 どこを水で流したのだろうと不思議がる信長たちであるが、謀反攻めをされては厄介とばかりに、つっこみを入れることは無しにする。


「って、あれ?光秀殿。なんで、声だけは光秀殿なのに、顔が女性に変わっているん、ですか?」


「ふひっ。秀吉殿は泥酔していて、記憶が飛んでいるのでございますね。これは曲直瀬(まなせ)殿の毛生え薬の副作用なのでございます。今だけは、みつ子と呼んでくださいでございます」


「それは面白そうな薬、ですね。私も1錠、もらえ、ますか?」


「ちょっと待て、秀吉。これはあまり、男に飲ませてはいけない薬なんだ。いちもつが起き上がらなくなるんだ、そうだよな、勝家(かついえ)殿!」


「う、うむ。そうでもうす。猿は、ねね殿と子づくりに励まなければならぬでもうすから、いちもつの起ち具合が悪くなっては大変なのでもうす」


 皆は覚えている。さきほど、秀吉にこの薬の効果が全くなかったことをだ。今は正気を取り戻している秀吉に、その事実を教えるのは酷であると、皆が判断し、秀吉が薬に手を出すことを苦しい言い訳で必死に止めるのであった。


「うっほん。話を戻しまして、まあ、秀吉くん?もし、ねねさんとの子供が中々できないのであれば、先生の末っ子を養子としてもらう気はありませんか?」


「信長さまの息子を養子に、ですか?それはとてもありがたい話なの、です!ねねと今度、相談させてもらい、ますね」


「おお、殿(との)が自分の子を家臣に与えるなんて、氏郷(うじざと)以来の話じゃねえの?しかも、男の子だろ?おいおい、秀吉。お前、この先、殿(との)に死ぬまでこき使われるのが確定じゃねえか!」


「ガハハッ!これは城をひとつもらうよりも遥かに素晴らしい褒美でもうすな。これは、ますます飲んで歌って食べなければいけないのでもうす」


「んー?でも、養子と言っても、信長さまの子供なんだよねー?それって、将来、秀吉ちゃんの家は、信長さまに吸収されちゃうってことにならないのー?」


 お竹がふとした疑問を信長たちに聞くのである。


「そうではありませんよ?お竹さん。結婚したときに男性が女性の家に迎え入れられる場合は婿養子って言うじゃありませんか。あれと原理は同じなのですよ。子供を養子に出した場合は、確かに出した側の家とは繋がりはできますが、基本、だされた側の家の子供として扱われることになるのです」


「そうそう。もうひとつ例をあげるとしたら、殿(との)は信玄に自分の娘を勝頼(かつより)の嫁に出したんだけど、あれって、実は殿(との)が家臣から娘を養子でもらって、自分の家の娘にしたわけなんだ。養子に出された子供ってのは、過去の出自はなかったことにされるわけ」


「あれれー?それって、信玄ちゃんは怒らなかったわけー?だって、信長さまの本当の娘じゃないってことでしょー?」


「ガハハッ。怒りようがないのでもうす。これは昔からひのもとの国に伝わってきた養子制度と言っていいのでもうす」


「ふーん?じゃあ、もし義昭(よしあき)ちゃんがどこかから養子をもらってきた場合は、私はその養子の出自を気にしちゃだめってことになるのかなー?」


「そうッス。義昭(よしあき)さまが養子をもらってきたら、その子は立派な将軍家の子供ってことになるッス。まあ、お竹さんが立派な男の子を産めば、気にする必要はないッスけどね」


「ふひっ。実は僕、この前、女の子の養子をもらったのでございます。愛娘のおたま同様、我が子のようにかわいがっているのでございます」


 光秀の一言に同じ席の一同が、えええええええ!と驚きの声を上げる。


「ちょっと、どう言うことですか!先生、その話、まったく聞かされていないんですけど。光秀くん、そう言うことはちゃんと言ってくださいよ。宴の席を用意したのに」


「そうだぞ、光秀。俺たちはいつでも酒を飲む機会を探しているんだ。そんなめでたいことは、皆で分かち合おうと思わないのか?で、その娘はかわいいのか?」


「ふひっ、信盛のぶもりさま。おたまほどではないでございますが、中々の器量をもつ娘に育ちそうなのでございます。ああ、僕は2人もの娘を育てられて、幸せ者でございます」


「ガハハッ。そう言えば、我輩も3年ほど前に、男の養子を2人もらったでもうすなあ。やはり、男の子と、女の子では全然、変わってくるものでもうすか?」


「んー。うちの小春は男の子と女の子の両方を産んで、エレナが女の子を産んでくれたんだが、片方はまだ小さいとしても、やっぱり小春から言わせれば、男の子はやんちゃだって言ってるな。なあ、小春?」


「そうねえ。おっぱいをあげてる時にも感じたけど、男の子は吸いついてくる力というか、おっぱいの扱いが雑だったわねえ。それに3歳くらいには、もう屋敷中のどこでも跳ねまわるから、ほんと手がかかって大変だわ。信盛のぶもりだけでもこっちは手いっぱいなのにねえ」


「そこで俺を引き合いに出す必要はないだろうに。まあ、いいか。勝家かついえ殿。男の子を育てるのは大変だってのが女性たちの共通認識だと思うぜ?」


「ふむ。やはりそうでもうすか。いやあ、どちらもそろそろ12歳を迎える時期だと言うのに兄弟仲が悪くてなあでもうす。どちらの子も、親戚筋からもらったから、それほど赤の他人と言うわけではないでもうすに、いやはや不思議なものでもうす」


「そうですか?先生のところの信忠のぶただ信孝のぶたか信雄のぶかつも表面上は仲良くつきあっているように見えますが、信雄のぶかつくんは嫉妬深いようで、正月に兄弟で顔を見せ合っても挨拶してませんよ?彼ら。男兄弟と言うものは親からの期待の違いを敏感に察しているのかも知れませんねえ?」


殿とのの言い方から察するに、我輩のところの兄弟仲が悪いのは、将来の跡目争いのことも考えてのことでもうすか?」


「そうですね。それが仲が悪い原因のひとつと言っていいでしょう。早い内にどちらかに家を継がせるか決めておいたほうがいいですよ?香奈さんの容態を聞く限りでは、あまり子供を期待できないようですし」


「そうでもうすなあ。香奈も容態もアレだが、歳ももう40近くでもうす。子供を産むには少々、むずかしい歳になってきたでもうすし。近いうちに、あの2人の中で跡継ぎを決めておくでもうすか」


「家を保つって言うのは大変だなあ。その点、利家としいえのところは男3人に女2人だろ?将来の心配なんて全くないって良いことだよなあ」


「そうッスね。うちの松はもう4人ほど産んでも大丈夫って言ってたッスね。俺をどれだけ絞り取るつもりか、わからないッス」


 利家としいえが、はあああと長いため息をつく。だが、他の皆はニヤニヤとした顔つきで


「まあ、12歳の小娘を娶った罰ですよね、これ。引っこ抜かれるまでいちもつを搾り取られたらいいんじゃないですか?」


利家としいえ殿。もし引っこ抜かれたとしても、曲直瀬まなせ殿の薬で、また生やしてもらえるようにしま、しょうよ?」


「ふひっ。曲直瀬まなせ殿の薬だと、1本どころか、2本、いちもつが生えてきそうなのでございます。2本、生えたら松殿もさすがに、ひいひい言わざる得ないのでございます」


「待つッス。引っこ抜かれるのはまだいいッスけど、曲直瀬まなせ殿の薬を使うのは嫌ッス。今のうちに言っておくッスけど、曲直瀬まなせ殿にそんな薬、作るように頼むのはやめておくッスよ?」

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