ー猛虎の章 8- 結婚式2次会編
将軍・足利義昭と、お竹の結婚式が北野天満宮で執り行われて、それから1週間近く、京の都中では飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎが行われていたのである。
「おいおい、殿。飲んでいるか?飲めないって言うなら、尻の穴からでも俺が酒を注ぎこんでやるからよおおおおお!」
「ガハハッ。信盛殿、よっぱらいすぎでもうすぞ。そもそも殿は受け専ではなくて、掘り専でもうすぞ!」
「あの、小春サン?受け専とか掘り専と言うのは何デスカ?エレナは、ひのもとの国の言葉には少々、疎いのデス」
「ああ、エレナ?信盛たちの馬鹿が言うことをいちいち気にしてたらダメよ?でも、受け専って言うのは、信長さまにお尻を掘られる専門職のことを言うのよ?そして、掘る側の信長さまのような立場の職業は掘り専になるの」
「ホホウ。これは、良いことを聞きマシタ。では、利家サンが受け専で、信長サマが掘り専になるわけデスネ!」
「あ、あの?小春さん?エレナさん?別に先生の職業は掘り専ではなくて、大名ですからね?ちょっと、酔い過ぎではないですか?」
「おら、殿。飲みが足りねえぞ。せっかくの義昭とお竹さんの結婚祝いなんだし、飲んどけよおおおお!」
「ちょっと、何、湯飲みになみなみと酒を注いでいるんですか、のぶもりもり。まったく、先生は自分のペースで飲むのが好きなのですからね!」
信長が、ひっついてくる信盛を強引に引き離しながら、無理やり酒を注がれないように自分の湯飲みに右手で蓋をする。だが、その右手が邪魔だとばかりに手首をつかんでくるものがいる。
「ういー。信長ああああ、私の酒がヒック!飲めないっていうのかああああ、ヒック!」
なんと、酒に酔って、性格が豹変した、秀吉である。
「ちょ、ちょっと?秀吉くん。いつものおどおどした態度のきみはどこに行ってしまったんですか?って、あふれてますって!」
秀吉が信長の湯飲みに強引に酒を注ぎたすために、ついに、湯飲みから酒があふれ出てしまったのである。
「ふひっ。秀吉殿、もったいないのでございます。酒は長寿の薬なのでございます。こぼれた分は僕が飲み干すのでございます!」
光秀がそう言うと、こぼれて机の上に散乱した酒に唇を近づけ、ずずずずずううううう!と吸いだすのである。
「光秀くん!何、汚いことをしているんですか。って、きみも相当に酔っ払っていますね?ああ、だれか、この場を収集させてください」
「おっし、中々に盛り上がってきたことだし、貞勝殿の薬箱から盗んできた、曲直瀬殿の毛生え薬でも、みんなで飲んでみようぜ!」
「ガハハッ!では、猿と光秀に飲ませてみるでもうす。きっと、猿顔が美人の女性顔に産まれ変わるでもうす」
勝家はそう言い、信盛から毛生え薬を奪い、まずは光秀にそれを飲ます。すると、どういうことだろう。ねずみ顔の光秀の顔がぐにゃりと変わっていき、見事な女性と言っても過言ではないものに変形するではないか。
「おお。光秀。お前、本当は女に産まれてきたほうが良かったんじゃねえの?それほどの器量なら、男は放っておかねえぞ!」
「ガハハッ。これからは、光秀あらため、みつ子と名乗るが良いでもうす!さて、今度は秀吉に飲ませて見るでもうすか」
「ふひっ。照れてしまうのでございます。僕はこれからは、みつ子と改名するのでございまいます」
光秀の豹変ぶりに宴席は大爆笑の渦に巻き込まれていく。勝家は今度は秀吉に毛生え薬を飲ませる。
しかしだ。ここで、皆にとって、大誤算のことが起きたのである。
「おい、笑えよ。笑っていいんだぞ」
秀吉がドスの効いた声で、そう皆に告げる。秀吉はなぜか、女性顔には変形せず、ただの猿顔のままだったのだ。
「すまねえ。俺は少し、調子にのりすぎてた。おい、勝家殿。お前のほうからも、秀吉に謝っておけ」
「う、うむ。まあ、なんだ?秀吉、気を落とさぬことでもうす。薬の効果はひとそれぞれでもうす。まあ、猿には効果がなかっただけでもうすよ」
「あっはっは。そりゃ、そうか、俺は猿だもんな!人間様の薬が効くわけもないんだよな」
秀吉の自嘲の笑い声が宴席にこだまする。信盛と勝家は、秀吉と目線を合わせないように、そっぽを向いて、机の料理に手を出すのであった。
「なあ、あんた。光秀さんと秀吉さんに飲ませた薬って、以前、私にも飲ませた曲直瀬さんの毛生え薬だよね?」
小春がそう、信盛に問いかける。
「お、おう。そうだぜ?男が飲むと長い黒髪の女性顔になるんだ。んで、女性が飲むと、顔付きが10歳、若返るってやつな。効果は1時間っていったところだったな。小春に試したときは」
信盛の言いに小春がふむと息をつく。
「信長さまって、この薬を飲んでも効果はなさそうな気がするんだけど、どう思う?」
「んー?殿かあ。元々が美形だからなあ。まあ、お市さまそっくりになるだけじゃねえの?あんまり面白味がないから、試そうとか思わないんだよなあ」
「ガハハッ。確かにそうでもうすな。我輩のようないかつい顔とか、信盛のようなおっさん代表が飲んだときのほうが変化を楽しめて、面白いのでもうす」
信盛と勝家がそう言っているのを見ながら、小春が毛生え薬を一錠、口に放り込み、酒でごくんと飲みこむのである。
するとどうだろう。三十路である小春の顔がみるみると若返り、まるで信盛と出会ったころの20歳の小春の顔に戻っているではないか。
「アレエ?小春さん、こう言っては何デスガ、すっかり若返って見えるのデス。まるで私と姉妹かのような若々しさなのデス!」
「ああ、エレナにはこの顔を見せたことは無かったんだっけ。なんか、信盛が青春を取り戻したいとか言って、最近、私にこれを飲ませるのよねえ。本当、男ってのは、若い娘が好きなんだねえ?」
「ちょ、ちょっと待て。小春、それは誤解だ。俺は、小春が何歳になろうが、愛してるぜ?」
「とか言いながら、明らかに、いちもつの起ち具合が違うのよね、こいつ。昔みたいに、がっつがっつ腰を振りだすんだから、私としてはたまったものじゃないわよ。顔は若いかもしれないけど、身体のほうはそうでもないんだから、次の日は腰が痛くて大変になるのよ。少しは手加減しなさいよ、まったく」
そう愚痴りながら、小春がぐいっと湯飲みに入った酒をごくごくと喉に流すのである。ぷはあと勢いよく息を吐き、ガンッと湯飲みを机に置くと、勝家が笑いながらその湯飲みに酒を注ぎたすのである。
「だいたい、エレナにまで、あの薬を飲ませていないでしょうね?あんた。さすがにエレナに飲ませると犯罪臭がプンプンするわよ?」
「ハイ?ワタシも飲まされたのデスガ、何かいけなかったのデショウカ?」
エレナの言いに、小春がはあああああと長いため息をつく。
「エレナ?よく聞いて?そりゃあ、数えで12歳の女性を嫁にもらうような変態はいるわよ?でも、信盛は、おっさんなの。娘と変わらない相手とよくイチャイチャしようと思わないわけ?」
利家がドキッとした顔をして、顔を横に背けて口笛を吹き出す。
「ガハハッ!確かに12歳の女の子を手籠めにした変態が、織田家にはいたでもうすな。一体、誰であったでもすうかなああああ?」
勝家がさもおかしそうに机をバンバン叩きながら、大いに笑う。
「うっ、うっさいッスね。たまたま好きになった女性が12歳だっただけッス。うらやましかったら、勝家さまも12歳の嫁を貰ったら良いッス!」
「いやでもうす。変態だと言われたくないでもうす」
利家は、うぐぐと唸りながら勝家を睨むが、彼はどこ吹く風と言ったばかりに酒をあおるのである。
「別にワタシは12歳でも、信盛サマが求めてくれるのなら構いまセンヨ?でも、やはりいつもと違って、いちもつがびっきびきの信盛サマには驚いてしまいマシタガ」
「でしょー?こいつは本当は若けりゃ若いほど、ハッスルする性癖なのよ。あーあ、私を求めてくれるのは嬉しいけど、複雑な気分になるわ」
「うっ、うっせえ!夜の営みに変化を求めちゃ悪いのかよ?新婚ほやほやだったころの小春を抱いてる気分になって、俺のいちもつが喜んでるんだよ、悪いか」
「小春さんと信盛さまは本当に仲が良いのですわ。帰蝶はうらやましくてしょうがありません」
「ちょ、ちょっと、帰蝶さん。火に油を注ぐような発言はやめてください?この酔っ払った獣たちに先生を放り投げないでくださいよ!」
信長が慌てて、帰蝶を黙らそうとするが、それにも構わず、帰蝶が愚痴り始める。
「小春さん?エレナさん?信盛さまがこれ以上、妾を作らないように注意されたほうが良いですわよ?うちなんて、私以外に10人も妾がいるので、信長さまが私の寝所に来てくれるのは週に1回なんですからね?」
「だから、やめてくださいって。ほら、のぶもりもりと勝家くんがニヤニヤしているじゃないですか!」
しかし時すでに遅し。信盛は信長の肩に右腕を回し、ねっとりとした視線でニヤニヤと信長の顔を覗き込んでくるではないか。
「殿おおおお?正妻を袖にするのは良くないと思うぜえええ?」
「ガハハッ!やはり妾は作って1人まででもうすな。色々と問題が出てくるのは殿を見ていると一目瞭然でもうす」
「うちは松ひとりで精一杯ッス。信長さまは奥方10人以上だけでもこと足りずに、小姓にも色目を使っているッス。ほんと性欲大将軍ッス」
信盛、勝家、利家がそれぞれ感想を言う。
「性欲大将軍って、不名誉な役職を先生につけないでください。まったく、きみたちは主君を敬う気持ちがないのですか?」
「そんなこと言われても事実ッスからね。蘭丸に信長さまの屋敷から逃げろって言わなきゃならないッス」
「蘭丸くんはまだ子供ですよ?先生、子供の尻を掘るような性癖は、きみみたいに持ち合わせていませんからね!」