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ー一向の章 2- 休戦の宴

「長政くんの才能については、先生は大器だと睨んでいます。昨年の春から続き、今回の包囲網は、長政くんが実質的な頭目です。それだけでも、彼の才能は値千金と言ったとこですね」


 信長の言いに信盛のぶもりがほうほうと言いながら、感心を寄せる。


「実際、昨年末は先生たちは追い込まれていましたからね。森くんがその身を挺して、宇佐山うさやま城を守ってくれなかったら、今頃、先生たちは、京の都を失っていたはずです。惜しむらくは、長政くんの同調者たちが、それぞれの思惑を持っていることでしょうね」


顕如けんにょの奴は何、考えて織田家うちに喧嘩売ってきたのかは、いまいちわかんねえし。三好三人衆に至っては、自分とこの足利義栄あしかがよしひでを復権させたいだろうしな。で、朝倉と六角は、何のためにでばってきたんだ?」


「朝倉は、浅井家に多大なる恩ができましたからね。長政くんの離反が無ければ、朝倉は滅びていてもおかしくありません。その恩に報いるために、長政くんと組んでいるのでしょう」


「じゃあ、六角は?」


「ただの滅ぼされた恨みからじゃないんですか?どうせ、六角家の裏では、顕如けんにょくんが資金提供しているんでしょうよ。そうでなければ、土地もないのに、兵なんて雇えませんからね」


「どうせ、逆らうなら、俺たちが上洛の時に頑張っておきゃあいいのによ。今更と言えば今更すぎるぜ」


「今更と言えば、家康くんから聞いたのですが、姉川でのいくさがあったじゃないですか。あの時、朝倉側の将に、斉藤龍興さいとうたつおきくんらしき人物がいたと。彼、どこかでのたれ死んでるとばかり思っていましたが、まさか、朝倉家に流れ着いてるとは思いませんでしたね。運命を感じてしまいますよ」


「え?その話、まじなの?他人の空似かなんかじゃねえの?」


「先生も嘘だあと思って、試しに、人相書きを榊原康政さかきばらやすまさくんに頼んでみたんですよ。そしたら、まあ、そっくりこの上なかったんですよね!」


「うへえ。殿との。そこら中から恨みを買い過ぎじゃね?大名を滅ぼすのはいいけど、その後のことも考えておかないと、後々、とんでもない国が産まれそうだぜ」


「最終的に、ひのもとの国で先生に反感を持つ元大名たちが1国に集まったりしたら、面白いを通り越して、失笑ものですね!」


「笑い事じゃねえよ、殿との。これからは、許すにしても、ちゃんと首輪はつけておいたほうがいいぜ?本当にそうなりそうで怖いわ」


 久しぶりのいくさのない日々に、宴席での会話は否応なく弾むことになる。だいぶ、皆が酒が回り、勝家かついえは高笑いをしながら、皆に舞いを披露するのである。


「では、我輩がひとつ、舞うでもうす!演目は稲葉山城攻めでもうす」


「これはまた、昔のいくさを持ち出してきましたね。せっかくだから、元・美濃みの三人衆の方々は敵役として一緒に舞ってはいかがですか?おーい、氏家卜全うじいえぼくぜんくーーーん、安藤守就あんどうもりなりくーーーん、稲葉一鉄いなばいってつくーーーん!」


 信長とは離れた席で飲んでいた、3人に声をかける。3人は声をはもらせ


殿との、なんでござる?拙者たちは舞いを披露できるような芸事は持ち合わせてないでござる」


 3人同時に、同じことを言い、氏家たちは顔を見合う。信長がそれが大層、笑いのツボを刺激したのか、左手で机をバンバン叩き、右手で腹を抑えることになる。


「いやあ、さすが、元・美濃みの三人衆ですね。息、ぴったりじゃないですかあ」


「そんなことはないでござる!」


 またしても、氏家たちは、3人同時に同じことを言う。さらに笑いのツボを刺激されたのか信長は、床につっぷし、足をバタバタさせて腹を両手で抱えることになる。


 むむむと顔を赤らめる三人衆は、汚名返上とばかりに、それぞれ、刀を手に取り、勝家かついえの前に立ちふさがるのであった。


「うむ。その意気や良し。さあ、死合おうではないか!」


 光秀と秀吉が、いよおおお!との掛け声と共に、肩に担いだつづみをぽんっ、ぽんっ、ぽぽんっ!と打ち鳴らす。


 そのつづみのリズムに合わせる形で、勝家かついえは槍をゆっくり回しながら、スローモーションで槍を三人衆に対して、横薙ぎにする。三人衆は、同時に跳ね上がり、迫ってくる槍を飛び越える。


 続けて、三人衆は刀をえいや!との掛け声で、3方向から同時にゆっくり振り下ろす。勝家かついえはそれを後方にバクテンをしながら、回避する。


 勝家かついえと元・美濃みの三人衆の舞い姿に、宴席の皆は、おおお!と歓声を上げることになる。


「やあやあ、我輩こそが、織田家で武勇1の柴田勝家しばたかついえでもうすううう。その方ら、美濃みの三人衆と見たが、間違いないでもうすかああああ!」


「その通りでござあああるううう。我は美濃みの三人衆が筆頭、氏家卜全うじいえぼくぜんでああああるううう」


「おい、まて。いつから、お前が美濃みの三人衆の筆頭になったのでござるか。筆頭は、この俺、安藤守就あんどうもりなりいいいいでござるううう」


「おい、まて。二人とも。お前たちは勘違いをしているでござああるううう。自分こそが、三人衆の筆頭、頑固一徹、稲葉一鉄いなばいってつであああるううう」


 三人衆はお互いの顔を睨み合い、ぐぬぬと唸り始める。


「なああらばああ、ここで、誰が一番かをわからせてやるのでござああるうう」


 突然、氏家卜全うじいえぼくぜんが、安藤守就あんどうもりなりの顔面を右こぶしで殴りつける。殴られた安藤守就あんどうもりなりは、お返しとばかりに、ドロップキックを仕掛ける。


 だが、無情かな。氏家卜全うじいえぼくぜんは、ひらりと舞うようにそれをかわし、安藤守就あんどうもりなりは床につっぷすことになる。


 好機と見た、氏家卜全うじいえぼくぜん稲葉一鉄いなばいってつは、床につっぷす安藤守就あんどうもりなりを散々に蹴りつける。


「痛い、痛い。やめるでござるううう。ちょっとは手加減をしろでござるううう!」


 安藤守就あんどうもりなりが、しくしくと涙を流しながら、半尻状態で倒れ込む。安藤が筆頭争いから脱落するのを確認し、氏家卜全うじいえぼくぜん稲葉一鉄いなばいってつは互いに睨み合うのである。


「さて、邪魔者は消えたでござる。我は前々から、美濃みの三人衆とひとくくりにされるのが、嫌だったのでござる」


「ほう、氏家。それは奇遇だな。自分も、気にくわなかったでござる。誰が1番、偉いのかはっきりさせようでござる」


 氏家が右こぶしを左手で包み込み、べきべきと骨をならす。対して、一鉄が首を回し、肩をごきごき言わせる。


「これはなんだか、おもしろいことになってきましたね。先生、氏家くんの勝利に茶器を賭けますよ!」


「俺は一鉄殿が勝つと思うけどなあ。なんたって、我慢強さで言えば、一鉄殿に並ぶやつなんて、織田家うちには居ないといって過言じゃないからなあ」


「そうッスね。俺も一鉄さんが勝つと思っているッス。風呂も熱湯で30分以上、浸かっていたり、お茶もぬるいと熱いのを持ってこい!って叫びだすッスからねえ」


「そんなのと勝負ごとは関係ないと思いますよ?もっと、2人の勝算を具体的に言ってください。例えば、氏家くんなら、勝家かついえくんの副将をやっているから、殴り合いなら一鉄くんに劣らないって言うふうにですね」


 信盛のぶもり利家としいえの言いに信長が反論する形で意見を言う。そう言われた信盛のぶもり利家としいえがうーんと頭を捻る。


「あっ。一鉄殿はタンスの角に小指をぶつけても、痛がるようなことはしないぜ?」


「あと、床に転がってた剣山を素足で踏んでも、がまんがまん、頑固一徹でござるううう!って叫んでいたッス」


「それ、なんていう我慢大会なんですか?聞いてるだけで先生まで痛くなってくるので、やめてくれます?で、のぶもりもりと利家としいえくんは、一鉄くんのほうに賭けるでいいですか?先生は氏家くんが負けたら、きみたち2人に茶器をあげます」


「え?いいの?よっし、じゃあ、俺は喜んで一鉄殿に賭けるぜ。うーん、俺からは何を出そうかなあ?」


「俺は一鉄さんが負けたら、白菜の唐辛子和えを1年分、信長さまに進呈するッス!信長さま、それで良いッスか?」


「ええ、いいですよ?ああ、ご飯のおかずが一品増えますから、先生は幸せ者ですよ」


「まだ、一鉄さんが負けるとは決まってないッス!勝負はこれからッス」


「うーん。俺は何を賭けようかなあ。小春、エレナ。俺んちでいらないものって何かなかったっけ?」


「京の遊女のカタログね。あれはいらないと思うわよ?」


「あと、信盛のぶもりサマの黄ばんだ、ふんどしデスネ。お金があるのデスカラ、いつでも新品なものを使えばいいとエレナは思ってイマス」


「それ、ただの、のぶもりもりの家のゴミではないですか?さすがに賭け事にゴミを張ってくるのはやめて頂きたいのですが?」


「小春、エレナ。まじめに答えてくれよ。いくらなんでも、それは殿とのが可哀想すぎるだろ?うーん、じゃあ、この前、今井宗久いまいそうきゅう殿から買った刀を俺は賭けるぜ!」


 信盛のぶもりの言いに信長がにやりという顔付きになる。


「ほほう?大きくでましたね?そんな大層な代物、本当に賭けていいんですか?」


殿とのが茶器を賭けるって言うんだ。これくらいじゃねえと、張り合いにならねえだろ」


 信盛のぶもりがへへへっ笑い、と信長がふふふっと受ける。賭ける物も決まり、皆は氏家と一鉄の勝負に注目することになる。


 秀吉がつづみを威勢よく叩く。それに合わせて光秀がつづみをポポポン!と連打する。


 睨み合った氏家と一鉄は距離を確かめ合うように、左のジャブで牽制しあう。左の差し合いはリーチに長ける氏家のほうが有利であった。


 氏家はリーチの長さを利用し、一鉄の距離を上手いこと空ける。対して一鉄は上半身を細かく揺らし、氏家の左をまともに喰らわぬように徹するのである。


 互いに様子見とばかりに3分が過ぎ、勝家かついえが手に持ったゴングを打ち鳴らし、1ラウンド目が終わる。


 氏家と一鉄は一度離れ、それぞれの応援者が待つ席へと戻るのであった。

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