成果報告
「――――た、はぁっ……、ただいま、……ぜぇ、……はぁ」
「お、おかえり……」
―――まさか、こんなに荷物を持って歩くことになるとは。
貧弱もやしっ子の体力の無さを舐めていた。
たかが数キロの道のりで5回も休憩を取ったのに、疲れ果ててるぞ畜生。
体力を付けないと魔王討伐なんか夢のまた夢かもしれない。道中で倒れる気がしてきた。
しかし、アイフィに自慢がしたい。寝るのはもう少し後だ。
「どうだ、アイフィ。20マルスと道具いろいろだ。凄いだろ!」
荷物を下ろして、その量を見せる。
「う、うん!あんな道具一つからこんなにいろいろ、テルって凄いね!」
「………………」
しかし、何というか、アイフィの反応に違和感があった。
……何か、様子がおかしいな。
後ろめたさか、焦りか。心ここに在らず、という言葉がしっくりくるような様子だ。
であれば、ポカをやらかしたと考えるのが自然か。
だが、よかったな。今の俺は気分が良い。
寛大な心で聞いてやろう。
「アイフィ、正直に言ってくれ。……何をやった?」
「………………………………えっと」
「怒らないから言ってみろ。大丈夫だ、多少何かやらかしていても、金には余裕がある」
「―――や、やってないんだよ!別に悪いことをやったわけじゃない!私たちにとって損害になるようなことは何もないんだ!!」
スリをしていることが、疑いようもなく悪いことだというのはスルーするべきなのか。
「じゃあ、何があった?」
「…………実は―――」
そう言ってアイフィは、懐から袋を取り出す。
その中身を空けると、白色の硬貨が出てきた。数にして20枚ほどか。
しかし、初めて見る硬貨だ。真っ白で、材質もいまいちわからない。
「これって、一枚当たりどれくらいの価値の硬貨なんだ?」
アイフィは汗をだらだらと垂らしている。
なにか、曰くつきのものなのだろうか。
俺はアイフィに説明を催促すると、アイフィは重々しく言った。
「――――――マルス500枚分」
「………っ!?ごひゃっ――――」
思わず言葉を失う。
マルス一枚が一万円だと考えて、つまり、この白硬貨一枚五百万円。
それが、20枚ほど…………。
………………汗が止まらない。
「ど、どどど、どうしよう!!どうしたらいいかな私!?どうするべきなの!!?」
「お、おおおおお落ち着け、落ち着くんだ!焦ったって仕方ない!」
一億、一億円だ。
これはまずい。非常にやばい。
何がまずいって、当然、掏ったことだ。
この国の刑法がどうなっているかは分からないが、それでも、この金額は一発アウトだろう。
かといって、普通に返すわけにはいかない。
こんな大金、警戒して持っていて当然なのだ。落とすなんて考えるものか。
盗まれたと思うのが自然だろう。
そして、もしその金を持っているやつが現れたら……。
「―――いいか、よく聞けアイフィ。…………これは、捨てる。この金はどこにもなかった。俺は見ていない。当然、お前もだ。こんな袋は無かったんだ。この世に存在しなかったんだ」
「で、でも、20カトラは、た、大金……」
「それ以上言うなあああああ!!!惜しくなるだろうがああああ!!」
「だけど、1枚くらい持ってても――」
「どっからどう見ても貧乏人な俺たちが、500万円硬貨なんて持ってたら怪しいに決まってるだろうがあああああ!!!!!」
あの商売人のおっちゃんだって持ってなかったんだぞ!
どうみても富裕な貴族間の、高レート取引でしか使われない代物だろ!!
こんなものは、庶民のお目にかかれる代物じゃない。
俺らが関わっていないのが、自然の摂理というもの……――――
「―――――そうか、俺らが悩むことなんてないんだよ」
「…………え?」
「捨てるのは、正直リスキーだ。見つかった時に、隠したと思われかねない」
「ま、まあ、見つかることがあるのかもわかんないけど」
「だから、これは落とし物にする。落とし物だったことにする」
「でも、普通はこんな大金落とさないんじゃ……」
「実際に落としてるから仕方ない。最終的に物事を決めるのは結果だ。……そもそも、盗まれる方にだって非はあるんだよ!こんな大金持ち歩くな!!」
「いや、そもそも落としてないのに、落とし物にできるわけ……」
「だから、落とすんだよ。……アイフィ、擬態を使って、『絶対にばれないように』街中で落として来い。できれば人通りのあるところが好ましい。そうすれば、俺らはこの件に関わっていないことになる」
この大金を、落とし物にする。
間違いなく、今回の件におけるベストアンサーだ。
アイフィは、ようやく理解が追い付いたようで、『こくっ』と頷いた。
「…………じゃあ、落としてくるね」
「くれぐれも変な気を起こすなよ?絶対に他の人に疑われるなよ?全て奪った当時の状態で落とせよ?」
念を入れて釘をさしておくと、しかし、アイフィの反応は俺の予想と違っていた。
「………………………あ」
唐突に間の抜けた声をあげる。
俺はおそるおそる、アイフィに理由を問う。
「……どうした?」
「――――奪った当時のままって、もう袋こじ開けちゃったから、魔術封印が解かれちゃってるんだけど」
「……………………………………………………………」
まあ、仕方ないといえば、仕方ないのだ。
開けるまでは中身など分からなかったのだから。
やっちゃったことは、仕方ない。
俺は笑顔でアイフィに告げた。
「―――――――知らん、その落とし物を拾った奴のせいにしろ」
さて、異世界生活の二日目も終わりを告げようとしています。
魔王討伐のための資金は十分。
アイテムもいっぱいあります。
パーティが少し心もとないけど、がんばれば大丈夫だと思う。
人に強要する根性論は嫌いだけど、自分を鼓舞する根性論は素敵。
「――――正直、私は行きたくないんだけど……」
「ああん?お前がいなかったら、誰が荷物持ちするんだよ。他にいないじゃねえかよ」
「この人、自分より小さい女の子に、自分が持てない量の荷物を持たせようとしてるんだけど!最低なんですけど!!」
「お前は体の大きさ変えられるだろ?俺より大きくなれば万事解決じゃねえか」
「本質は変わらないって言わなかったっけ!?私のデフォルトはこの大きさだから、何も解決しないよ!!」
「うるせえ、いつまでもこんな水車小屋にいられるかよ。さっさと魔王城を私物化しに行くぞ」
「私のスイートホームを侮辱するな!!」
―――さあ、明日から冒険の始まりだ!