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折角なので異世界を満喫することにしました  作者: 枯葉一葉
第一章 生活基盤をください
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資金稼ぎ

「―――やあやあ、兄ちゃん!変わったもの売ってるぜ!寄っていかないか?」


この街は、城下町というわけでも無さそうなのに、かなり広い。

聞けば、商業都市『バイカル』というようだ。

何でも、周辺の魔族が弱く数も少ないため、交易路が確立しやすいとか。

だいたいの物はここで買えるし、物価も安定している。

とすると、わらしべ長者をするにはやや不向だといえる。

だが、当てがないわけじゃない。


「へえ、旅商人か。ただ、俺は買うよりも、売ることがしたいんだけどさ」


物流の多いところだからこそ、掘り出し物があるものだ。

そして、様々な物が売買されているこの街なら、このボールペンもそれなりにしっかりとした基準で取引してくれるだろう。

何なら、一日中街を回って、一番高値で買ってくれるところを探す手もある。


「売るっていっても、こっちはそんなに多い金は出せねえぞ?」

「まあまあ、いろいろ見てるおっちゃんだからこそ、価値が分かるかもしれないじゃん?」

「おお、そんなに変わったものなのか?」

「これこれ、ボールペンって言うんだけどさ」


算段に一つ問題があるとするならば、技術力の高い国が、俺のいた現代に追い付いている可能性が否定できないことだった。

ボールペンがもし、物珍しいものでなかった場合、元手がなくなってしまう。

―――しかし、どうやらその心配は無用だったらしい。


「なんだこれは?……ふむ、ペンの先をしまうことができるのか」

「いや、ペン先を出すと、インクを付ける必要がなくなるっていう物なんだけど」

「見たところ、『テクノプール』にあった万年筆と同じ感じか。ありゃ高級品だったな」

羽ペンが主に使われていると思っていたが、万年筆はあるのか。

……いや、推測するに『テクノプール』という街か都市か、そこの技術が発達しているのだろう。

ならば、ボールペンが貴重品であることには変わりないはずだ。


「まあ、似たようなものだよ。ただ、手にとって分かるように、うんと軽い。その場で書き物をするときとか、気軽に使えるのが利点だね」

しかし、想定程おっちゃんの反応は芳しくない。

「はん、なるほどなあ。だが、これだと高く見積もって精々3マルスってところだな。俺なら2マルスと5グランで売るね」


マルスは金硬貨か。

元手が168円だから、三万円で売れるんなら十分だが、俺の目標には届かない。

まあ、もとよりそう簡単に高値が付くとは思ってないさ。

「それでさ、これを物々交換したいんだけど」

「ああ、構わないぜ。何か気になるものがあったら言ってみな」

そう、物々交換だ。この街というか、この世界では基本的に物々交換で取引されると聞いた。

ただ、あまり単位が大きくなると代用として硬貨が使われるようだ。

それゆえに、そもそも硬貨を持たない人も多く、アイフィの稼ぎは少ないのだろう。


さて、店の商品は、と。

草、花、紙、鉄塊、白い棒、エトセトラ。

うん、見ても分からん。


「おっちゃん、この棒は何なの?」

「杖だよ。高濃度の炎水晶が先についてる。炎系統の魔法を使うと、威力が上がるんだ」

「魔法って杖を使うものなのか?俺の知り合いは杖なんか持ってなかったけど」

「基本は使うなあ。魔法ってのは、そこら中に散らばってる『魔力(マナ)』を集中させて使うものだから、こういう補助があると使いやすいんだよ」


おっちゃんは杖を振って見せる。すると、その軌道上に小さな火花が散っていた。

「おっちゃんは炎の魔法が使えるのか?」

「いやいや、魔法は全くだ。魔力の種類や軌道から、魔法を生み出す構造式とか、いろいろ勉強しなきゃ使えねえのさ。兄ちゃんはまだ若いから、今から勉強すれば大魔導士にもなれるかもよ?」

「勉強はちょっと苦手でね。……それよりさ、おっちゃんの振った杖から火花が出てるんだけど」

「ああ、これは杖そのものの力だ。良い石を付けてるからな、空気に触れるだけで魔力が反応してんだよ。余談だが、魔族が先天的に魔法を使えるのも似たような理由なんだぜ。魔族は体内に高濃度の魔力を宿してるから、魔力に合った魔法を出力すればそれだけで魔法が使える道理よ」


なるほど。

ということは、アイフィの魔法は先天的なものというわけだ。

空間転移魔法が適性の種族で、擬態を特性とする『幻影種(ファントム)』ってのは、実はかなり凄い種族なのかもしれない。

それでもアイフィがポンコツである事実は変わらないが。


「いろいろと詳しいなおっちゃん。勉強になったよ」

「勉強は苦手じゃねえのかい?……はぁん、本当は良いところの出身だろ、兄ちゃん」

出身が異世界だなんて言えるかよ。アイフィですら信じてくれなかったってのに。

ついでに、家は普通の家庭だったしな。

「それはさておき、次はこの紙について聞きたいんだけど」

正直なところ、杖は使い道は無さそうだ。炎水晶とやらは少し気になるけど。


「この紙は高えぞ?『机上の空論』っていう、魔術大国『アケイドム』の国王が魔術師に無理言って作らせたとされる、魔道具だ」

びっしりと文字と図形が書かれている紙だ。言われてみれば、マジックアイテムにしか見えない。

「これに手のひらを乗せて、設計図をイメージする。精工にな。設計に矛盾が無ければ、オーバーテクノロジーでも生成できるってわけだ。ただし一回きり、そしてこの紙以上の大きさのものは作れない」

「作るための素材はどうするんだ?」

「大気中からの魔力を、『錬金術(アルケミー)』の応用で物質化するとか。だから、この世に存在する物質であれば、例えそれが解明されていないものでも、理論上は使えるらしい。事象の矛盾とやらが起こらなきゃいいんだとよ」


「………………これだ。……これが欲しいんだけど」


無意識に呟いてしまっていた。

それはつまり、俺の世界のものをそのまま引っ張ってこれるという事だろう。

絶対、大金になる。


「―――いや、いやいやいや!いくらなんでもそのボールペンとじゃ釣り合わねえよ!」


そりゃそうだ。


「この紙は硬貨に換算してどれくらい?」

「どんだけ負けても50、……いや、40マルスだ!それだけ貴重なんだよ、これは」

まあ、国の一大プロジェクトとして作ったものなら、その特性も含めて、40万はむしろ安いくらいだろう。

とはいえ、流石にそれほどのお金は宛てがない。

だったら、やるべきことは一つか。


「――――――おっちゃん。俺が今ここで、この紙でさ。今までに作られたことが無くて、なおかつ複製が可能なものを2つ創るって言ったらどうする?」


――――その名も、『前借り』!


「………ぐぅ、実に悩ましいな。確かに兄ちゃんのボールペン、それが見たことない技術からできていることは疑いようもない。ただ、『机上の空論』は買う人なら100マルス出しても買うだろう一品だ。……しかし、新しい技術を二つ。これが知識として売れるものであれば…………」


わお、予想以上に苦悩している。

別に俺は虚言を吐いているつもりはないが、断られるかと思っていた。

だが、俺からの視点で言えば、蹴るなんて愚策もいいとこな商談だ。

おっちゃんはそれの真価を、先入観なしで見極めようとしている。


博識で頭がキレて、そのうえ柔軟と。

スペックの高い旅商人もいたものだ。


「――――………よし、決めた。まず、創る物を教えてくれ。それがもし見合うものなら、言われた通りにしよう。価値が薄かったら、そのボールペンと知恵、合わせて10マルスで買い取る。これでどうだ?」


だからこそ、信用できるというものだ。


「オーケー。じゃあ、まずは確認なんだけど――――――」


ここまで勿体ぶっておいて、この世界にすでにある物だったら相当な恥をかくな、これ。

だが、まあ、大丈夫だろう。

俺は自信の下、口を開く。


「――――懐中電灯って知ってる?」





この街にあった街灯は、ガスを使ったものだった。

となると、夜道を歩くのに使われるのは大方、ランプだろう。

ならば、軽量で指向性、そして長く持つ懐中電灯はなかなかに優れもののはずだ。


ついでに、懐中電灯のためにもう一つ、というかむしろこっちが主体ともいえるのだが、『電池』が必要になる。

電池の構造は学校で習っていたため、知識としては存在していた。

危険で、しかも解析しづらいだろうが、この世界には魔法と、科学技術に優れた都市がある。

電池を作る技術さえあれば、電池という構造の発想、電気という存在、それを応用した使用法など、様々な知識を売り物にできる。


わらしべ長者とは少し違ったが、ボールペンをきっかけに、知識から金を稼げたと考えれば、あながち初期構想からずれていないのかもしれない。

その知識の対価として、30マルスと様々な売り物を貰った。

しかるべきところに持っていけば、それこそ100マルス以上にはなっただろうが、こうして知識を売れたのもおっちゃんのおかげだ。文句はない。


「さて、アイフィはどれほど稼げたかね」


重い荷物を背負って、ゴーストエリアへ向かう。

帰ってから、アイフィの驚く顔が楽しみだ。



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