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折角なので異世界を満喫することにしました  作者: 枯葉一葉
第一章 生活基盤をください
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魔王討伐への一歩

「なんか、金稼ぐ方法無いの?」

「―――スリだね」

「懲りねえな、お前」




どうも、異世界に来て二日目になりました。

昨晩はお楽しみしたかったですね。疲れ果てて泥のように眠ってしまいましたぜ畜生。


それはともかく、金だ、金。

魔王討伐に行こうにも金がない。

金を稼ぐための金も無い。

アイフィと合わせて5グランしかない。


朝食は近所のもらい物らしい、『鳥獣種(ニワトリ亜種)』の目玉焼きだった。

殻がやけに毒々しい色をしているが、味は良い。異世界らしい朝食といえる。

ちなみに、ここでいう近所は当然魔族である。

しかし、アイフィがいるせいか、そこまで白い目で見られなかったのは幸いだった。


「アイフィは何か魔法とか使えないのか?」

「使えるよ。『アポート』っていう高等魔法」

やたら『高等』にこだわるな、こいつ。

こちとら高等学校を辞めてるんだよ、と言ったところで伝わらないから言わない。


『アポート』といえば、遠くのものを空間転移で持ってくる超能力だったか。

「……あー、それでスリか」

「まあ、触れている人の持ち物しか持ってこれないんだけどね」

「もはや、盗む以外に用途ないじゃねえか」

服をまさぐられた感覚は無かったのに、取られていたのは魔法だったからか。


「にしても、やっぱ魔法って便利なものなんだな。俺でも覚えられたりするの?」

「人間でも覚えている人はいるけど、テルは無理だと思う。頭悪いし」

「言うじゃねえか、高等種族(笑)のくせに」

「……どの道、種族の適正もあるから、使おうと思って使えるものでもないんだよ」


それは残念だ。

『アポート』もそうだが、魔法は金になる予感がしたが、しかし使えないことを嘆いていても仕方ないか。

やはり現状で金稼ぎをするなら、あれしか無いようだな。

少々不確定要素が強いが、勝算がないわけでもない。


「はい、じゃあ魔王討伐までの第一歩として!今日は金を稼ぎたいと思います!!」

「なんか急にテンション高いね」

「今日一日で5万くらい……、あー、いや、金硬貨5枚分、稼ぐぞ!」

「おー。どうやって?」


いまいちやる気のないアイフィを横目に、俺はボールペンを取った。

そう、税込み168円で買った、あのボールペンだ。


これを元手に、金を稼ぐ。


「――――プロジェクト名、『わらしべ長者』………ッ!!」


「わら、……しべ?」

困惑するアイフィに、俺はニヤリと笑みを浮かべる。

「期待してるといいぜ。日が沈むころには、これが大金になってるからさ」

「…………いやいや、こんな小っちゃくて軽いものに価値があるとは思えないんだけど」

「小っちゃくて軽いから価値が生まれるんだよ。まあ、お前はスリでもして稼いでるといいさ。最終的にどちらが稼げるか、競争すれば闘争心とかで効率も上がるだろ」


「はっ、私を舐めすぎだね。これ単体じゃ精々1グラン。私のスリは、よっぽどの『はずれ』を引かない限りは一回で最低5グランは稼げる。勝負にならないよ」

「あ、くれぐれも捕まんなよ。衛兵に突き出されたら、俺も捕まるかもしれん」

アイフィは口軽そうだしな。共謀者として異世界豚箱生活なんてお断りだ。


「こう見えてもスリ歴5年、捕まったのはこの前が初だし。……だいたい、スリをする動作を見せていないのに気付いたりとか、尾行されてるときだって3回くらい姿を変えてるのっていうのに、平然と先回りしてくるとかさ。テルが規格外なんだよ」

勝手に規格外扱いされても。

あの件で発揮できた特性は、ちょっとした妄想癖と方向感覚くらいだしな。


「目立つフードかぶってたから、追うのは難しくなかったんだよ。脱ぐなりすれば良かったんじゃねえの?」

ボロボロのフードを目印に追っていたしな。途中で姿が変わってたなんて気づいてなかったぞ。

「……でも、魔族とはいえ、裸で人前に出るのはちょっと……」

実体がないのに、裸も何もないだろうというのは、ちょっと置いておく。


「いや、どういう感じで擬態してるのか分からんから何とも言えんが、こう、服を覆うように、或いは体の中に隠すように擬態することは出来ないのか?」

「うん?どういうこと?」

「……あー、つまりだ。変装とはいっても、体の形を変えて擬態をしているんだろ?それで、服装や持ち物なんかは体から分離しているわけだ。だったら、重ね着する要領で変装すればいいんじゃないか?」

アイフィは少しいぶかしげな表情をしていた。

まあ、それが出来るのなら、すでにやっているか。

何かしら、不可能な理由があるのだろう―――。


「―――――、……………その手があったか」


そう言ったアイフィは、新しい発見をしたかのように、目を輝かせていた。

そうかあ、気づいてなかったかあ。

うんうん、新しい知識に出会えてよかったね。

…………。


―――――――――じゃねえんだよッ!!


「なんでそんな凄い力持っておきながら、自分の能力も把握してねえんだ低能魔族!!少し考えれば思いつくことだろ!?」

「いや、確かに盲点だったけど、……いくらなんでも低能魔族はないよ!!私だって気づいていたら使ってるし、高等種族を舐めんな!!」

「気付かねえから低能だって言ってんだよ!!!」


柄にもなく、声を荒げてしまった。

俺に捕まった時点でなんとなくポンコツそうな気がしていたが、まさか数十年も自らの特性を理解していないままだなんて思わないだろ。


まあ、そのおかげで現在の状況があると言える、……言えるのか?

……うん、言えるよ。言えるともさ。

ポンコツだったからこそ、俺が有効に活用できる機会があると考えよう。

つまり、アホの子万歳、無能に感謝だ。


ちょっと強く言い過ぎたせいか、アイフィはしょんぼりとしていた。

俺は慰めるべく、その肩をポンと叩いた。

「……ちょっと言いすぎたな」

アイフィは顔を伏せたままだ。

「もし、お前の頭が良かったら、今の俺はいないわけだ。……アイフィが無能で本当に良かったよ。ありがとうな」


「――――――――馬鹿にしてんのか!?殴るぞ!!」





「……はい、もう一度言うが、今日のノルマは金硬貨5枚な」

「私はその3倍は稼げるけどねっ」

アイフィは自慢げに言うが、スリを自慢するなと言いたい。


いやーそれにしても、機嫌が直って本当に良かったよ。

不調のまま、犯罪なんて高リスクなことはやってほしくないからな。

殴られた甲斐があるってものだ。

……ただ、もうちょっと手加減できないんですかね……。

なにが戦闘はからっきしだよ。女の子の『殴る』はビンタじゃないの?

ボディーブローとか普通やらねえよ。


そんな俺の心情などはお構いなしに、アイフィは笑顔を見せる。

「――じゃあ、そろそろ行こうか」

「………行くか」




―――魔王討伐に向けて、まずは資金調達だ。






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