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その男は、子どもの頃から力が強く丈夫であった。成長し大人になると、迷わず街を守る兵士になり、己の善を尽くすためさらに身を鍛えた。男は街一番の屈強な男であった。
その街は、そこそこ大きな街だった。また、そこそこ経済力のある街だった。
だから、この時代において周りの街から目をつけられることも少なくない。小さな小競り合いは頻繁に起き、やがてそれは武力へと発展した。
屈強な男は当然のように最前線に立ち戦った。男には学がない。だから本能のまま、街を守ることだけを考え、安物の剣を鈍器のようにふるった。
街の中にも外にも、男に敵う者はいなかった。
それは街にとって良いことのようで、しかし曲がった頭脳しかない上の者にとっては、厄介なことでもあった。
彼らは知らない、分からない。誰よりも真っ直ぐな男だ。本当に街を守りたくてかざす刃を、陥れることにしか頭を使えぬ彼らは、理解することができない。
彼らはご自慢の頭をたいして使わずに考えた。いや、無駄に良いその頭脳を正しく働かせていたら、このような結果にはならなかったはずである。しかし彼らは、頭の良い馬鹿であった。ただ少しでも男を理解していれば、もっと良い判断が下せたであろう。
彼らは屈強な男を呼び出し、良質な剣を渡して口々にこう言った。
「どうやら隣の街がここを狙っているらしい」
「隣街は最近、周囲の街を次々に武力で押さえつけ支配しているそうじゃないか」
「あー怖い。いつこの街に攻めてきてもおかしくはないというわけだ」
男は頷き、剣を手に街を出た。
男は特に何か装備するでもなく、剣だけをしっかりと握りしめ、隣街まで一人で向かった。半日歩き続けると、視界には立派な門が広がる。もともと大きな街だった。それがここ最近で、他の街を飲み込み更に力をつけているのだから、その守りも硬そうである。
しかし男は屈することなく、剣を構え街に乗り込んだ。
「うぉぉぉおおおおあ!」
男の雄叫びが街にこだまし、同時に人々の絶叫が響き渡る。
男は剣を振り下ろした。いつもより良く切れる剣だ、さして苦労はしない。
次々と向かってくる兵を斬り伏せ、自らも突進する。
街は、混乱の渦に飲み込まれた。
どうして力のある街がこうも簡単に落ちたのか?
それはひとえに、男の人間離れした異常な強さと、油断した街の甘さゆえだ。
男は、兵であろうとなかろうと、幼子以外の脅威になりうる男どもを無差別に切り捨て、どこかに潜んでいないかと探した。街の首領も、逃げ出そうとするところを見つけ、何やら言っているのを全て無視し剣を立てる。
反撃にもあった。しかし、怯えきった者の腰の引けた一撃など屈強な男には通じない。血に染まった剣が無情に弧を描くのみ。
街の男は、全て死んだ。いや、この屈強な男が全て殺戮したのだ。
泣き喚く女、子どもの声を背に、男はその街を出た。もう恐れは取り払われたと、自身の街に報告せねばならない。しかし屈強な男は気づかなかった。男の背後、物陰で息を潜める、憎悪の気配に。