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「そういえば、先ほどからお店の方が気になるようでしたが、どうかしましたか?」
「あ、いやそんな変な意味はなかったんです、本当に。ただ、ワンピースを見るとつい記憶のお姉さんを思い出してしまって。今どきのワンピースって、確かに色々ありますけど、多いのはあの女性が来ているような無地でしっかりした生地のものですよね」
その問いかけはロベリアが拾った。
「そうですね。私が着ているものも、形は違いますが生地は固めでです。柄は人の好みにもよりますが、裾や胸元、腰回りに小さな刺繍が入っているものが多い気がします。そういえば、以前どこかの街の記念館で民族衣装を見たことがあるのですが、今とは異なる柔らかい生地のワンピースがありました。印象的だったのでよく覚えています。それに民族衣装は、象徴を大きく描いたものも多いですよね」
「その街はどこですか! もしかしたらあのお姉さんが着ていたのはそのワンピースじゃ」
急に身を乗り出してきたネフィラに、ロベリアは驚き目を丸くした、ふりをした。
「落ち着いてください、ネフィラさん。ロベリアが話したのは記念館に飾られるような、過去の民族衣装です。今、日常的に流通しているものではありません。それに、ネフィラさんの記憶では、お姉さんはネフィラさんの幼少期、同じ街に住んでいたのですよね。なら、そのワンピースもネフィラさんの街でよく着られていたものではないのですか?」
「そう思いますよね。けど、俺の街ではまずワンピースが流行っていなかったんです。だから、行商人とかから特別に買ったのだと思います。お姉さんはワンピースがすごく気に入っているみたいだったから、もしかしたら、あのワンピースを生産してる街を探したらお姉さんのことが何か分かるかもって……ごめんなさい、いきなり大声出して。ロベリアさんも、驚かせてしまい申し訳ないです」
「かまいませんよ。大事な手がかりですもの、気が高ぶるのは当然ですわ」
落ち着いた笑顔でさらりと返し、紅茶を一口すする。
「失礼でなければ、もう少しネフィラさんの記憶のお話についてお聞きしてもよろしいでしょうか」
ルシオンは慎重に言葉を紡いだ。あまり構えさせないように、けど確実に、本題に踏み込めるように。
「かまいませんけど、俺の話ばかりになってしまいますがいいですか? お二人にとって何か有益なことをお話できればと思っていたのですが」
「そんな、確かに我々は情報を交換するために言葉を交わし始めましたが、今はそんな損得は忘れて、ただネフィラさんとお話がしたいのです。もしこの会話でネフィラさんが何か思い出すことができれば私達も嬉しいですし、先程のように絵描き以外の線から可能性が広がるかもしれない。それにこの会話が、私達にとっても重要なものになるかも」
「ははは、俺の幼少期の記憶がお二人の旅に役に立つなんて……もしそうなったら俺も嬉しいですけどね。分かりました、そこまで興味を持っていただけるなんて光栄だ。どうぞ遠慮なく、何でも聞いてください」
ルシオンは、警戒されずにここまで踏み込めたことにひそかに胸を撫でおろした。ロベリアが無言でルシオンを見つめ、視線だけでよく頑張りましたと伝える。
「ではまず記憶の女性について。絵を描かれていたとのことですが、その絵は村に残ってはいなかったのですか?」
「そうなんです。大人が隠したか、焼いたか、もしくはお姉さんが全て持って出て行ったか。とにかく、お姉さんの存在自体をなかったことにしたかったみたいで、お姉さんに関わるものは何一つ見つかりませんでした。今頃俺も、そんな扱いを受けているのかな」
寂し気に天を仰ぐネフィラに現実を突きつけるようで、二人は心苦しくなりながらも続ける。しかし現実に、そこまで完璧に一人の人間が街で生活した記録を消し去れるものだろうか。家族は? 台帳は? しかしそれを今のネフィラに言っても、聞き入れてはくれないだろう。
「その女性からネフィラさんはなんと呼ばれていたのですか? 親しくされていたのなら、何か愛称などあったのでしょうか」
深刻な雰囲気になりかけたところでロベリアが助け舟を出す。乙女心からの興味を装っての質問だ。
「愛称か。うーん、何かあった気がするけど、思い出せない。何だろう、友人からはフィーって呼ばれてました。女性の愛称みたいで恥ずかしかったんですけどね。けど、お姉さんからはそんな呼ばれ方していなかった気がするんだよな。ネフィラとも呼ばれた記憶がない。呼びかけられた時の口の形はぼんやりと覚えているのに、俺の名前と繋がらない」
ネフィラは腕を組んで真剣に悩みだした。悩んでも答えが出ないことがロベリアには分かっていたので、次の質問に移ることにする。




