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「Reincarnater」  作者: 春風 優華
記憶の守護者
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「子どもの頃は絵なんて全然興味なかったんですけど、ある時近所に住むお姉さんが、草原で絵を描いていて。その姿がとても綺麗で印象的で、思わずお姉さんに綺麗だねって話しかけてしまって。やってしまったと思ったんですけど、お姉さんは描いていた絵のことだと思ってくれて、それから毎日、その人に絵について教えてもらうようになったんです。そしたら自然と絵自体にも興味が湧きました。心に残った瞬間を、自分が思うまま未来に残せる絵ってもはや魔法だなって。けど俺、壊滅的に絵が下手で、だったら人の残したい瞬間を見続けようって決めたんです」

 ふわっとロベリアが笑顔の花を咲かせた。いつの時代も、女の子はこういう話に目がない。

「素敵なお話ですわ。その女性とは、今でもやり取りをしているのですか?」

「あはは、実は……」

 そこでネフィラは初めて言葉を濁した。

「お姉さんの記憶も、描いた絵も、ところどころに絵の具のついた大きな柄のあるワンピースもよく覚えているんですけど、一時期の記憶しかなくて、その後が抜けてしまっているんです。記憶喪失とかじゃないですよ。ただ、その女性のことだけ思い出せなくて……周囲の大人に聞いても誰も知らないって言って教えてくれないし。多分ですけど、周囲の反対を押し切って画家になるため街を出たんだと思います。小さな街でしたから、俺が出る時もかなり反対されました」

 そこまで聞いて、ロベリアは何か思い当たることがあるのか、真剣な眼差しでルシオンを見た。ルシオンも同じことを考えたのであろう、ロベリアの視線を受け止め頷く。

「それは残念ですね。もしかして、その女性を探すために旅を?」

 ルシオンは慎重に言葉を選びながら問いかけた。

「あはは、そうなんですお恥ずかしい。絵の研究をしてたらいつかまた出会えるかなって。それを聞きたくてお二人を呼び止めたんです。旅の途中で絵描きの女性を見てないかなって」

「ごめんなさい、その期待には応えられなさそうです」

「ですよね、中々難しいなぁ。けど俺、諦めませんから」

 明るく振る舞うネフィラに対し、ルシオンとロベリアは戸惑いの笑みを返す。何かを言うか言うまいか、迷っている様子だ。しかし、二人の旅の目的にためには、言わないわけにはいかない。

「ここまでネフィラさんがたくさんお話してくださっているのに、私達のことを何も話していないのは失礼ですよね」

 ロベリアはルシオンに投げかけ、続きを話すよう促した。

「いつも君に背中を押されてしまって恥ずかしいな」

 ルシオンは改めてネフィラに向き直る。

「お二人も聞きたいことがあるって言ってましたもんね。俺の番は終わったんで、今度はどんと聞いちゃってください! お話を集める旅にも興味ありますし」

 身を乗り出すネフィラからは、本心から興味を持ってくれていることが伝わってくる。自分の要件は終わってもなお親しみを持って接してくれる姿に、二人は安心した。

「ありがとうございます。まずお話を集める旅について、私達は世界中にいる『記憶継承者』の話を聞いて記す旅をしております」

「『記憶継承者』っていうと、過去の人の記憶を持って生まれたっていう人のことですよね。申し訳ない、その辺りは疎くて……」

「いえいえ、『記憶継承者』であることを前面に出される方は少ないですから。意識的に集めようとしないと、耳に入らないですよね。」

 ネフィラは肩を落とし、心底残念そうに項垂れた。

「旅の中でもこんな素敵な人に出会えたことないですから、どうにかお力になりたかったんですけど……」

「そのように思っていただけただけで私達は幸せです」

 ルシオンはいたって平静を装いそう返す。本題がこの先であることは、二人にしか分からない。

「お二人も旅人なら感じたことがあるかもしれませんが、ここみたいに他の街との交流が多い街はともかく、閉鎖的な街は旅人を快く思わないところも多くて。心が折れそうになったことが何度もあったんです。特に俺、熱中すると前のめりになりすぎるところがあって、自分でも気を付けているんですけどね」

「私は、その真っすぐさがネフィラさんの素敵なところだと思います。とても真剣で、相手のことを知ろう、自分のことを知ってもらおうという気持ちが、私達には心地よく感じました。それだけでなく、笑顔を絶やさないところに人としての強さも表れています。きっと、心が折れそうになった時も笑顔を守ってきたのでしょう」

 ロベリアは、ネフィラの瞳を見つめ、そう語りかけた。彼女が感じたありのままを、彼女が心を許した理由を、彼女の言葉で正直に伝えたのだ。それは、十二の少女から述べられるにはあまりにも大人びた発言であり、聞く人によっては失礼だと捉えられかねないものだった。しかしネフィラは、彼女の言葉を正面から受け取り、頷いた。

「いやはや、ロベリアさんは本当に、人のことをよく見ている。このように若く可愛らしい女性の言葉でこれほど救われるなんて……と、ごめんなさい! 年齢に触れるようなことは言わないようにしていたのですが」

「大丈夫ですよ。注意して触れないようにしてくださっていることも、ネフィラさんが私達のことを思いやってのことだと分かりましたから。また一つ、ネフィラさんの素敵なところが見つかりましたわ」

「私達は、多くの人にとって特異な組み合わせのようで、好機の目に晒されることはしばしあります。私もできる限りロベリアを気遣っているのですが、悪意なき言葉に傷つけられることはしばしあります。ですが、ネフィラさんは最初から私達を対等に見てくださった。だからあなたとお話するのは心地よくて、今でも力になりたいと、そう思っています」

 ロベリアとルシオン、二人の穏やかな表情に見つめられ、ネフィラは目に涙を浮かべながら、これまでのように手を頭に当て笑った。

「いやはや、ここまで旅を続けてきてよかった。二人とも、ありがとうございます。もし他に聞きたいことがあれば、何でも聞いてください! あ、追加の飲み物でも頼みましょうか」

 ネフィラに促され、三人はそれぞれ追加注文する。店の女性が飲み物を持ってくるまでは雑談し、飲み物が揃ったところで、ルシオンは本題への道を探り始めた。

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