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荷馬車も人もよく往来するのだろう、踏み固められ整地された道を、二人の旅人が歩いていた。
一人は細身長身の男性で歳は二十五前後、焦げ茶色のトレンチコートがよく似合っている。青みを帯びた白い肌に銀の直毛、濃緑色の瞳は良くも悪くも人の目を惹いた。しかし、育ちがよさげな割に、貴族のような瞳や髪に合う装飾品などは一切身に着けておらず、地味な印象だ。
もう一人は十二歳ほどの少女で、頭に巻いた臙脂色のバンダナが特徴的だ。男性のトレンチコートと類型のボレロを着ているが、少女の容姿や年齢にはそぐわないように感じられる。憂いを帯びた濃紺色の瞳とは対照的に、短い髪は浅い茶と赤を濁したような色をしており、雰囲気は不思議と大人びて見えた。
特異な空気を纏う二人組を、行き交う人々は横目で観察しながら通り過ぎた。
しかし、二人の後方から懸命に駆けてきた青年は、二人を視認すると遠慮もためらいもなく大声で呼び止めた。
「おーい、そこの旅のお方ー」
周囲には近くの街の商人と思われる人しかいないことから、二人はすぐに自分たちのことだと気づき、振り返る。
「知り合いですか?」
少女は男性を見上げて聞いたが、そんな少女に男性は小さく首を横に振って答える。少女は困ったように微笑み、歩いて乱れた服を軽く直した。
「その様子だと、フリージアも知らないみたいだね。見たところ彼もこの辺りの人じゃなさそうだし、“旅人”に用があるのかな」
「あら、ワイスも私と同じ考えのようですね。せっかくですし、少しお話を伺いましょう」
すぐに二人のもとにたどり着いた青年は、息を切らせながら話し出した。
「待っていただきありがとうございます。俺、ネフィラって言います。絵の研究のために旅してます」
「はじめまして、ネフィラさん。私はルシオン、彼女はロベリアと言います。私達も、お話を集める旅をしています」
ネフィラと名乗った学者風情の青年に、トレンチコートの男性ルシオンは、穏やかに挨拶した。少女ロベリアも恭しく頭を下げる。
「良かった、実は旅人を探してたんです。色々お聞きしたいんですけど、お時間頂いてもいいですか?」
ロベリアはルシオンに視線で呼びかけた。それに気づき、ルシオンはロベリアの方へ屈んで耳を傾ける。ロベリアが何か伝えるとルシオンは小さく頷き、分かったと微笑んでネフィラに向き直った。
「これも何かのご縁ですし、私共もお伺いしたいことがあります。この道を進むと街があるのですが、宜しければご一緒しませんか?」
「い、良いんですか。実は俺、今からそこに向かうとこだったんですよ。お邪魔じゃなければぜひ!」
飼いならされた動物のような喜びように、ロベリアは思わず小さく笑ってしまう。それに気づいて、ネフィラも頭に手を当て照れ笑いする。その場が穏やかな空気に包まれた。
三人は、ゆっくりと目的の街へ歩みを進めた。




