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「お母様は、裕福でなくとも私に沢山の愛を注いで育ててくれた。そして、成長し自分が何者であったのか理解した私に対し、再び生まれてきてくれてありがとう、私の娘になってくれてありがとうって言ったの。この街に住む記憶継承者は僅かだけれど、お母様は受け入れてくれた、別の人生を一度終えた私を、娘として大切に思ってくれたの。お母様には感謝しかないわ」
ロベリアは、プラティアの痩けた頬に手を当てた。その瞳は愛おしさと悲しさが入り混じった、複雑な色をしている。
「君は素敵な人の元に生を受けたんだね。本当に、良かった」
ルシオンは僅かに落胆したような声音で呟く。
「あなたは、そうではなかったようね」
「ああ、全くだ。けど君に会えたのだから、他には何も望むまい」
子どもなのに子どもらしくないと陰口を叩かれ、兄よりも勉学に優れていることをやっかまれ、記憶継承だと認定された途端一族から敬遠され一人孤独に育ったルシオンには、家族の温かみというものがとても懐かしく遠い存在のように感じられた。
「今日からはあなたも、私たち家族の一員よ。だからそんな寂しげな顔をしないで」
ロベリアは、ルシオンの両手を取り、頬を寄せた。優しい言葉と愛しい人の体温に、ルシオンの冷え切っていた心が溶け出す。
「ありがとうフリージア。私は大切なものを忘れていたようだ」
「そうよ、その顔よ。私は昔から、あなたのその笑顔が好きなの。世の中を冷めた瞳で見つめているなんて、そんなのワイスらしくないわ」
互いに視線を合わせると、自然と笑みが零れた。懐かしい、二人して草原で笑いあった、あの日々のようであった。
それからしばらく、ルシオンはロベリアのいる街と自身の実家がある街を行き来しながら、様々なことに手を尽くした。まず真っ先にプラティアがゆっくり休める部屋を孤児院近くに用意した。それから、子ども達と遊びを通して親睦を深め、共に孤児院の清掃に励みながら、合間にプラティアの看病をするロベリアを手伝った。
プラティアのことは一度医者にも診てもらったが、元々の病弱な体質とそれまでの生活環境から、もう回復を望めるような様態ではなかった。あとは、安らかに眠れるように手を尽くすことしかできない。
そしてその時は、もうすぐそこまで来ていた。
「お母様の体調が良い日に、子ども達も集めて、お話会をしましょう」
ロベリアは、ルシオンに提案した。ルシオンも覚悟を決めたかのように同意する。
「話そうか。私たちの物語を」
「さあ! みんな準備は良い?」
ある天気の良い昼下がり、ロベリアは暖かな日のさす広間に子ども達を座らせると、両手を広げて注目を集めた。ルシオンはプラティアの乗る車椅子を、子ども達の後ろにつける。子ども達はこれから起きることに胸を弾ませ落ち着かない様子だ。ざわざわと声がこだまする中、ロベリア口元に人差し指を当て、静かにするよう促した。
全員が静かになると、ロベリアは語り出す。
「今日お話しするのは、本当にあった、過去に生きた者の話」




