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その日は珍しく一日中雨が降り続けた。少女は降りしきる雨の中、傘もささず、一人荒れた大地に膝をつき、頭を垂れていた。本当は涙を流していたのだが、雨のせいでそれは少女自身にしかわからなかった。少女は一輪の、その町では珍しい種の花を小さな木の前に寝かせ、祈りを捧げる。それがどのような祈りなのか、はたまた祈っているように見えるだけで、別の意味があるのか。少女のその姿は、背丈から想像できる年齢より遥かに大人びて、その仕草は、格好から予想される境遇の者とはかけ離れて繊細で、少女に重なって、誰か全く別の女性が見えるようだった。
ざざっ、と質の良いブーツが舗装されていない荒れた道を踏みしめる音がして、少女は顔を上げた。足音の主は、少女を視界に捉えたのかその場で立ち止まる。街並みとは到底似つかわしくない様相、しかしながら纏う雰囲気は貴族と言うには地味な、薄幸を物語る濃緑色の瞳の男性だった。大地と傘とが雨を弾く音がその場を支配する。
少女と男性は、互いの存在に気づくと、静かに息を飲んだ。
少女の不健康に痩せた頬が、急に生気を取り戻したかのように紅潮し、その頬を、雨が降っていても分かるほどの涙が伝う。男性は少女に近づき、傘をさしかけた。
「随分と、落ち着きましたね」
「君は変わらず美しい」
男性は少女の横に膝をつき、その細く小さな肩を抱き寄せた。
「やっと会えた。随分待たせたな、フリージア」
「ほんとに、あなたが先にいってから十年、この世に再び生を受け十数年。ずっと待ち続けていましたよ。でも、会えたから」
「もう一度、会えたから」
震える唇が、優しく触れ合う。互いの温もりが混ざり合い溶け合い、一つになる。
「このような姿になっても、よく見つけてくれました。ありがとう、ワイス」
「何言ってるんだ、君こそ私を分かってくれたじゃないか。とても、とても美しい。どんな姿でも、君は君だ。愛しているよ」
「私もよ。今度こそ、守ってくださいね」
二人はしばらくそのまま再会を喜びあった。しかし、雨に打たれすぎたせいか少女の体は冷え切っており、再びその頬は生気をなくした。もともと丈夫とは言えない体に産まれ、さらに満足な栄養が得られない環境に育った少女の体力は、寒さで限界まで削られていた。それでも再会の幸せから気丈を演じていたが、それも長くは持たない。
もちろん、男性はそのことにも気づいていた。少女が力なく男性に寄りかかると、すぐに抱きかかえ、あらかじめ把握していた町の病院に連れていく。男性と会う前、少女だけでは利用できなかった病院。その町は、今では珍しい貧富の差がある、貧民街が存在する町だった。
少女は、貧民街産まれの病弱な娘。男性は、その町からは少し離れた場所に存在する、工業の発展した裕福な人が多い町の、さらに貴族と呼ばれる立場の次男。
再会できた二人には、以前にはなかった、大きな隔たりがあった。しかし、世襲の決めつけた隔たりなど、強い絆で結ばれた二人にはそんなものないに等しい。
しかしながら世界は、奇跡により再開した二人を祝福するほど、甘いものではなかった。




