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Bobby Bobby  作者: Pめんげる
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夭逝のギタリスト

郊外のシーフードレストラン。ジョーイが運転する車でふたりは到着した。

ここは彼らにとって思い出多い場所でもあった。


レイクは最初、再結成ロートレックへの参加を固辞していた。40年前ベルリンでボーイフレンドのジョーイを自殺未遂に追いやった自責の念が長く彼を苦しめていた。しかしレイクは、彼をバンドに呼び戻そうと言いだしたのはジョーイその人であることを知った。さらにレイクのふたりの息子たちも永久凍土の下に封印された父親の魂を開放するために奔走した。そしてついにレイクはこのレストランでジョーイと再会したのだった。ギタリストとしてバンドに参加することになったレイクは息子家族と暮らす家を出て、ジョーイを残りの人生のパートナーとしてともに暮らすことにしたのだ。


案内されたテーブルにはすでにクリスと見覚えのある少年がいた。


「やあ、急に呼び出して申し訳ない。孫がね、ボビーが会いに来てくれたんだ」


「こんにちは。ジョーイさん、レイクさん」


ボビーはまた少し上目遣いで挨拶した。


「ハイ、ボビー。会えてうれしいよ」 


「この街にようこそ!」


レイクとジョーイは交互にボビーと握手した。ボビーの指にはその細身の体に似合わないギターダコがしっかりできていた。


食事しながらボビーもすっかり打ち解けた様子だった。


「ドタキャンしてすぐに撤回してすまないが、ボビーが練習を見学したいっていうからみんなに声をかけたんだ。よろしく頼むよ」


「業界の大物プロデューサー、クリストファー・スペンサーも孫を前にしたら一介のじいさんってことだな。いや、皮肉を言ってるわけじゃないよ。うん、実にかわいいよ、クリス」


ジョーイが軽口をたたいた。


「ごめんなさい、僕のわがままでみんなに迷惑かけてしまいました」


ボビーが本気で謝るのを見てレイクがあわてて取り繕った。


「迷惑だなんてとんでもない。僕もジョーイも退屈していたんだ。たぶん他のメンバーも同じだと思うよ」


「すごく楽しみです。興奮してます、レイクさんのギターを間近で見られるなんて。再結成ライブもめちゃくちゃかっこよかったです」


「僕のボーカルは? 褒めてくれないのかい?」


クリスが肩をすくめて大げさに落胆して見せた。


「おじいちゃんもかっこよかったよ。ジョーイさんのドラムソロも、デイビーさんもアルフレッドさんも。でも僕が名前をもらったボビーさんのギターも聞いてみたかったな」


ボビーの何気ないひと言に、一瞬大人たちの間に小さな衝撃が走った。ボビー・ターナー、今でも語り継がれる伝説のギタリスト。多くの天才と呼ばれたミュージシャンと同じようにボビーもまた薬物のオーバードウズによりその短い一生を駆け抜けた。


「ボビーは本当にすごいギタリストだったよ。僕のギターテクは死ぬまで彼の域に近づけないことだけは明白だ」


遥か過去に視線を巡らせながらレイクが言った。


「ボビーさんの動画はよく見ますよ。ホント、ギターの神様が降臨して取り憑かれた感じさえします。僕もいつかあんな風に弾けたらいいな。おばあちゃんが両親にボビーって名前をすすめてくれたらしいけど大好きだよ、この名前」


無邪気なボビーの発言にクリスは言葉を失った。ドラッグという悪魔と契約して狂気的なまでのギターテクニックを手に入れたボビー。だけど愛するクリスの心は生涯手に入れることはできなかった。

なぜリタは生まれてくる孫にその名前をつけようと思ったのか。ライブ後の楽屋に訪れた娘は確かに言った。


「ママが、パパの好きな名前だからってすすめてくれたの」と。


リタはクリスとボビーの秘密の関係に気づいていたのか。気づいていながらクリスに抱かれドロシーを身ごもり結婚したというのか。クリスがボビーとの関係を断つためにリタを利用したことを知っていたのか。


「おじいちゃん? どうしたの?」


ボビーに声をかけられてクリスはわれに返った。過去のすべてを知っているジョーイとレイクはクリスの苦悩を慮った。



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