二話
現在俺達は火災現場へ向かうために公用車に乗っている。いつものように俺が運転してるがな。俺は雑用か何かか!
「それで、現場に行ってどうするんだよ?」
俺はハンドルを切りながら、助手席に乗る蓬に話しかける。横をチラリと見ると、彼女は窓を方を見ながら飴をなめていた。黙っていればそれなにり綺麗なのにな。神は残酷だよ。
「そうだなぁ、まずは鑑識のおじちゃんに話を聞くとするかね」
「それって、ノープランってことだろう?」
「うむ、そうとも言うな!」
「おいおい、大丈夫かよ」
(って、あっさり認めちゃったよこの人)
「そうだ。前も聞いたと思うが、野守君は超能力や心霊現象の存在を信じるかい?」
蓬が俺に問いかける。まるで何かを試しているかのようだった。
「いや、前も答えたが、そんな物は存在していないと思ってる。……つっても、誰もが小さい頃に幽霊とかに恐怖を覚えるだろう?」
「なるほどそういう理屈か。たしかに科学的にも、刷り込みということは確認されている」
「だろう? 原因が分からないと、この間みたいに頭では否定しつつも、恐怖は覚える訳だ。恐怖は時として人を惑わす。ただの放火を火の玉に見えたりもするわけだ」
「心で否定しても、体は正直……Hなゲーム展開だな! わかります」
「違う!」
「でも、その考えは夢がないな~野守君」
「俺も27でいい大人だ。夢なんてみる歳ではないな。ピーターパンは死に、ネバーランドは消えちまったのさ」
「なるほどねぇ~ 安心したよ野守君」
「はい?」
予想だにしない回答に思わず聞き返した。今、安心したとこの人は言ったのか?
「いや、もし信じてるって言われたらどうしよかと思ってね」
「はい? だって、よも……雨谷班長はそっち系っていうか……信じてるんじゃ?」
「いやいや、信じてる訳じゃない。これはね『願望』なんだよ。これでも私は科学者の端くれだ。私は超能力や心霊現象といったものが、一体どういう過程で発生したのかを知りたいだけだよ」
(そういえば、この人はどっかの大学で博士号がどうたらって話だったはずだったな……だとしたら科学側の人間のはずだ。それなのにどうしてオカルトを信じている?)
「この世で起こった現象の99%は、科学で立証できると言われている……が」
「が?」
蓬に続きを促す。
「残りの1%は、現代の科学では説明できないのも確かだ。なあ、ワクワクしないか?」
「へ?」
「何で? どうして?は、恐怖を誘う一方で、知的欲求心を刺激する最ッ高のスパイスなんだよ!」
蓬の話し方に熱が入り始める。
(そうか。この人は気づいてしまったのだろう。科学を探求し99%を理解してしまった。それで、残りの1%、オカルトの存在も確信してしまった)
「だってそうだろう? まだ誰も解き明かしていない不思議な事を見て、触れて、感じることが出来るんだ。想像しただけで堪らんよ!」
そこまで言うと、蓬は身震いを始め、惚けた表情で明後日の方向を見ていた。
(こいつ……なかなかの変態だな。こういう人種はたまにいる。常人には理解できない天才というものだ。もちろん凡人の俺には理解できないがな)
事件現場まではまだ距離があった。もう少し雑談しても問題ないだろう。
「なるほどな、少しあんたを理解できたよ雨谷班長。あんたは子供だ。今だにネバーランドを夢見る、大人になりきれない子供だ。火の玉? そんなものは存在しない。ここはファンタジーでもSFの世界でもない、苦くてクソったれな現実なんだよ」
「ほう、手厳しいな野守君」
「別に。これが常識ですよ」
いつもより強く否定するよに言った。日ごろ振り回されていてストレスがそれなりに溜まっていたのだろう。だが、蓬は不機嫌になるどころか笑っていた。
「くっくっく。なるほど……常識か、面白い。では一つ、質問しよう。野守君、人間が認識できる常識の範囲はどこまでだと思う?」
(なんだ? なんの質問だ?)
「常識か…… そうだな、確信が持てるのは視界の範囲内ぐらいだな」
「GOOD、なかなか賢い答えだ。正確に言うと片目の水平方向では、耳側に約90~100度、鼻側に約60度、上下方向では、上側に約60度、下側に約70度。総合的な視野は、左右約180度~200度と言われている。つまりこれが人間の『常識の範囲』だ」
「へえ。それで?」
「だが逆に考えてみよう。左右約180度~200度の常識から外れた場所、『非常識』の存在がある。そうだな、では視界の外側に火の玉が出現したとしよう。君は火の玉を信じるか?」
「いや、信じない」
「そうだ、君は信じない。だが実際に火の玉はそこにあるのにな。君は真実から目を背けて怯えている大人だ。そんなやつは非常識にたどり着けやしないさ」
(なかなか痛いところを言ってくる。これが本当かどうかは関係ない。遠まわしに考え方が固執していると言っているんだ)
「つっ―― 手厳しいな雨谷班長」
「くっくっく。これでおあいこさ」
非常識の存在。それは彼女が部署から出て行く時に言ったものだろう。え~と、なんて言っていたか?
「なら、あのパイロなんとかってやつも非常識の存在なんですか?」
「パイロキネシスだ。そうだな、君はライトノベルは読むかい?」
「いや、悪いが余り本は読まないんだ。読んでも、新聞くらいだな」
「む、そうか。なら野守君が分かりやすいように『プ〇キュア』で例えてやろう」
「は?」
「ああ、そうだな。君の好きなシリーズは何かな? 私はスマイル〇リキュアのキュアピースちゃんだ大好きだ! あ、でも初代とマックスハート以外で頼むぞ。そのシリーズに炎属性はいないんだ」
「おいおいおい、なぜ俺が日曜朝にやっている女の子向けアニメを知っていると思っている!?」
「え!? 知らないだと!!」
「知るか! 俺は27の大人だぞ!」
「プリキュ〇は義務教育だろ! 君にはがっかりだよ!」
「それは俺のセリフだ……」
「そうだな、簡単に言うと『発火能力』だな。自由自在に炎を出現させることができるんだ。そのような能力は過去に何度か見られているな」
「まさか、その発火能力で放火をしているやつがいるというのか?」
「そうだ。その可能性がある。あ~ワクワクがとまらないな~」
「まじかよ。やれやれだな……」
そんな感想が出る頃、ナビゲーションシステムは、現場付近へ到着した事を知らせた。
「雨谷さん、着きましたよ」
俺は隣で未だに惚けている蓬に話しかける。
「おっ、やっとついたか。では、逢いに行こうか……まだ見ぬ怪奇へ」
蓬は、そう言いながら、眼鏡の位置を人差し指で戻した。ものすごいドヤ顔だった。
(……イラッ)
ガチャガチャ
「ん? 鍵が……」
蓬が言うが、俺は無視する。
ガチャガチャ
蓬が再度ドアノブをいじるが、ロックがかかっておりドアは開かない。蓬は潤んだ瞳でこちらを一瞥しーー
「開けてよ~! いじわる~!」
そう抗議の声をあげた。
「スマンスマン、何か格好つけられてムカついたからさ」
そう言って俺はドアのロックを開ける。うーん、今までの借りを返した気分になれて爽快だ。
「これに懲りたらーー」
(って、もういねぇし!?)
見ると、助手席に蓬の姿は無く、既に現場の黄色い規制線前で制服警官と押し問答していた。
「なあ……何やってんだ」
呆れながら、俺も車両から降りて、蓬のもとへ向かう。車外に出ると、焦げ臭いにおいが充満していた。
「無理であります! 一般人はここを通せないであります!」
制服を着た二十代の警察官が、蓬のバックパックを両手で掴みながら、規制線の向こうへ行こうとする彼女を必死に抑えていた。
「何をするぅ! 離したまえ、私は警部だぞ〜!」
「何やっているんだ、あの人は……」
俺は遠くから眺めて呆れるだけであった。本当にやれやれだよ。
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檻《CAGE》〜警視庁超心理現象犯罪特別捜査班〜
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