④.濁った色のラフレシア
「うぉッァああぁあああああ!」
「うぇッなにッ!?」
俺の声に驚いたらしいサカノが叫ぶが、そんなことはどうでもいい。
我慢ならない。もう嫌だ。上司に嫌味を言われまくったコンビニ時代がましに思えてくる。それくらい嫌だ、頭おかしくなりそう。
叩き付けたブランケットが大した音も立てずに床に伸びるから、鬱々とした感情が余計重くなるような気がした。
「なんだよ、お前最近めっきり平気そうだったのに」
ブランケットを拾い顔を上げると、心配そうな顔で入り口を指差していた。扉をじゃない、出て行った最後の客を。
今までだって平気だったんじゃない。少しだけ耐性がついてあしらい方が分かってきただけだ。
いつか何かしらの形で付け上がった態度を取ってくるんじゃないかと思ってはいたが、ここまで期待を裏切らない奴だと思わなかった。
宣言しよう、あれだけは――桃岡だけは絶対平気になんかならない。
「あのクルクルパー、頭のなか一面にラフレシアの花が咲いてやがる」
「へ。腐女子だったの?」
「婦女子だなんて上品な奴じゃないだろ」
見た目も中身も下品そのもの。あれが婦女子なら俺だって女子に名乗り出る。
「お前ネットやらないもんな、知らないか。同性での恋愛を妄想するのが好きな女の子を腐女子っていうの。腐った女子って書く」
「ああ、そう。違う、そうじゃない」
腐女子の意味も何でもいいが、あれの頭は確かに腐っているのかもしれない。じゃなきゃ、俺にあんなこと言う筈ない。
ヘアゴムを解いて頭を掻き毟る。長椅子に腰を落とすと鈍い音がしたがそれを気にする余裕はない。いつものように寝転んでブランケットを被る。
「明日さぁ、一緒に出かけろって」
口に出したら現実味を帯びて迫ってくる。こんな薄い布じゃ身を守るには頼りないが、せめてもと頭まで覆ってみた。攻撃は今や内からではあるものの、そもそも回避できないのだから同じことだ。
「うちそういう店じゃないんですけど。でもその態度だと、引き受けたの? なんで」
何で俺の方が責められんの? ちょっと優しくしろよ。
「好きで引き受けたわけじゃない。『行かないとイタズラされたって親に言う』って脅された」
「え、なにそれ。またケッタイなことを……訴える、のは大人げないとしても、従う必要ないだろ。一緒に行って写真取られでもしたら証拠できちゃうよ」
分かってるよ、そんなの一番に考えるに決まってるだろ。せめぎ合ってた俺の脳内、見せてやりたいくらいだし。
「俺もそう考えたんだけど、ほら、うちこんな商売だから『ゴリカイ』いただくのが大変だしさ。オオカミ少女だと嬉しいけど、あんまり騒がれて、っていうのがヤダ。んで、考えてる間に『黙ってるってことはOKだよね!』って了承したことにされた」
「うっわ。どうすんの」
「わからん」
考えるの、やめた。よし、もう寝よう。寝て、起きたら明日を通り過ぎて明後日になってるっていう奇跡を信じよう。
そう思って掛け直したブランケットを引き剥がされそうになる。意地でも取らせるか。繊維が裂ける音とか気にしない。
「おいおいおい明日なんだろコノヤロウ! 寝てんじゃねえよ、寝るなら寝るで給料を前払いしろくださいお願いします!」
「テメエいざとなったら逃げる気か」
「当たり前だ!」
あぁ、そうかよ、やっぱりこいつはそういう奴なんだ。俺が苦しい目見てるっていうのに平気で金の話するんだな。
「ええいままよ、俺は寝る。なるようになるさ、給料はまだあげません。全て俺が持ち逃げする」
「なんとかなるかもしれないじゃん! 考えようぜ、行くのやめようぜ!」
「給料が欲しくば、平穏無事にいくよう祈っておいてくれ」
布の向こうの声は止まらないが、何もかも無視して瞼を閉じる。
明日、もしかしたら一生分くらいのエネルギーを使うかもしれないんだ。こいつの理解を得るより寝る方が先決。
できるなら給料関係なしに、俺の無事を祈ってくれ――――。
目を覚ますと、奥の方から物音が聞こえる。何かが焼ける音、包丁がまな板を叩く音。殆ど聞いたことがない生活感の溢れる音だ。
起き上がるのも面倒で長椅子からゆるりと転げ落ち、床に這いつくばる。
ひどく身体が重い。朝は苦手だ、眠くて眠くて朝日が滲みる。好きなだけ惰眠を貪れた過去を思うが、もう帰っては来ない。
夏のくせに床が冷たく、そのままで居れば皮膚が痛い。仕方なく腕をつけば毛布がずり落ちた。
「よっこらしょ」
立ち上がり、毛布も拾わずに動きの悪い足を動かす。台所に入ると、手探りに食器や道具を探している後姿があった。
「友人、何故ここに。早起きが趣味とは知らなかった」
わざと音もなく忍び寄って明快な声で言うと、面白いほど身体が跳ねた。
鋭く睨みつけられて、料理中に驚かすのは危ないのだと思い当たる。
「……ごめん、起きたばっかで頭が鈍くなってるみたいだ」
「お前が素直に謝ったってことは、ちゃんと反省してるらしいな。頼むから二度とやるなよ」
振り返ったことで、食器棚の存在にようやく気が付いたらしい。腕で抱え込める小型の木箱。ダンボールや自作のタンスと一緒に重なって、文字通り埋まってしまっていた。
「なんでこんなにダンボールが」
「便利なんだよダンボール。寒さも防げて物も入る。どこでも手に入るし、大抵の家具と代用できる」
「買いに行くのを面倒臭がったわけか。はい、朝飯」
「どうも」
この男は本当に。
大雑把だが寛容だし、バカとも言えるが呑気だし、お人好しのくせに金にがめつくて。
総じて、いい奴だ。
ベーコンの上に卵を落として焼き、トーストに乗せたシンプルな料理。
大口を開けて食らえば、トーストの適度な柔らかさと弾力と、白身のぷるんとした触感に歯が喜ぶ。濃厚な黄身と振られた塩胡椒、カリカリになるまで焼かれたベーコンの香ばしさが口で混ざり合って……止まらない。
「うま」
「そらよかった。あとな、話戻るけど頭が鈍いのは昨晩からだぞ」
「んあ?」
久しぶりのまともな栄養に胃が震えるのを感じながら、どういうことかと上目遣いに聞く。
「どうするんだ、桃岡さんとのデート」
「あ?」
ありえない単語が聞こえてきて、指先でパンが潰れる。ずるりと全てが落ちかけるのを慌てて掴み直し、食事を続けることにした。しかし美味いな、これ。
「そんなに嫌か」
当たり前だろ。言葉にせず頷くと、溜息混じりにコーヒーを差し出された。
ちらりと見やるとその目は明らかに、それなら断れよ、と言っていた。……俺だって疲れてたんだ。
「下手にいじけられるより、一回行ってやって幻滅してもらった方が楽かなって思いついたのが運のつきだったかもしれねえ。そも、俺と一緒に出掛けたいっていう発想が理解できない」
デート、だなんて思い浮かびもしなかった。もし気付いていたら速攻で断っていた。
予想外に一番疲れている時間帯に一番疲れる客が来て、とんでもない爆弾を差し出すもののだから思考力が乱されたんだ。
だから決して、断じて、一ミクロたりとも、桃岡との付き合いに興味があった訳ではない。ありえない。
「どっち選んだって危険はあるよなー。やっぱ会う方が危険だとは思うぞ。お前の言う通り、こっちに社会的な信頼があれば簡単な話なのにな。零細はつらいね」
「人生の間違いだろ、つらいのは」
くだらないことにも選択を迫られ、どう動いても責任が伴う。
「あー、でもまあ行ってみたら案外イイトコも見つかるかもよ」
「ブルータス、お前もか」
身内の裏切りが結局一番残酷だ。
いっそセリヌンティウスとして身代わりにしてやろうか。メロスは最初だけ走って他の誰にも見えなくなったところで、昼寝とジンギスカンパーティーに励むことにするから。
「お前って結構わかりやすいよな……。別にお前をイジメたいわけじゃないぜ。オレ達、なんだかんだこの店にいる間のあの子しか知らねーじゃん?」
「それがどうしたんだ」
「だってココ、『好きな夢を見る場所』だろ。店なんだから、来た時の目的や心境なんて似通ったもんさ。だったら、オレ達が見てる顔だって大体同じじゃね? あの子、ここに来るとワガママとか夢物語とか、悪口が多いからオレも好きじゃない。でも、もしかしたら知らないだけでイイトコあるかも」
「ああ、うん、まあ」
それは確かに一理ある。目の前のこいつがそうだ。出会った時と今じゃ、そのイメージに別人くらいの違いがある。
最初の印象は、愚痴っぽくて無駄にヘラヘラしている調子のいい奴。
だが未来を提示してくれたあの夜から、いい意味でこの男の印象は崩れ去った。
文句は言っても仕事はサボらない。零される愚痴だって冗談混じりで、それが周囲の不満を和らげるためのものだと分かった。
こいつなりの気遣い。士気を下げると思う者も居たようだが、感じ方の違いだろう。少なくとも俺はそういう面に助けられていた。負の動作が全て悪である訳じゃない。
……それなら桃岡の理不尽で低俗な言動にも、受け入れるだけの理由があるのだろうか。
「あの子常連だし、よほどのことなきゃまた来るだろ。あんまりイヤイヤ接するのも精神衛生上よろしくないっしょ。倍に疲れる」
「やだな」
倍に疲れる、とか。そうなったら俺、死んじゃうんじゃない?
やっぱり行きたくねぇな……。
「そうだな、よほど疲れるとか、あるいはついでに……例えば、イメチェンしちゃえば?」
「……はあ?」
こいつの頭も、遂に沸いたか?
時計が約束させられた時間を刻んだ瞬間から立て籠ろうとしたのに、無情にも追い出されてしまった。慈悲ってもんはないのか。
渋々店の前に立つが桃岡はまだ居ない。強制しておいて遅刻とか無しだと思う、人として。
「すみませェん! 張り切ってオシャレしてたら遅れちゃった~。どうカワイーですかぁ? ってうわ、あれ、真木さん今日いつもとなんか違います? すご、笑える!」
え、なにが?
確実に馬鹿にした態度に苛立つが、我慢のため腹に力を入れる。
俺だってこんな服装したくない。ダルダルしていたい。既にいつものジャージが恋しくて堪らない。
着替えたというよりは着せられたと言った方が正しい。
腕がほぼ露出するセージグリーンのTシャツに、足に纏わり付く細身のダメージジーンズ。
深く広く開けられたV字型の胸元にドッグタグのネックレスがちらつく。何と書いてあるかは読んでいないし、興味もない。一刻も早く外したい。
髪は括れ、との奴からのお達しに仕方なく後ろでまとめてある。前髪だけは死守した、しきりに勧めるあの顔は悪の権化にしか見えなかった。
「やだぁ、アタシとのデートで張り切っちゃったんですかぁ?」
ナイナイ。
声に出すのも面倒で頭の中でそう答える。すると嬉しげに腕を取られた。
「いやーよかった、真木さんもオシャレとか興味あるんだあ! よかったよかったー!」
え、なにが? あとナイから、ナイナイ。
心の叫びが聞こえたらいいのに。違う話題に変えたくてもそれを考えるのもつらい。
本当に無事に帰って来られるのか?
引きずられながらふと見上げた空は、無情なほどに蒼かった。
――なあオイ、アンタ本気で言ってる訳?
もう喉まで上がってきていた言葉を何とか唾と共に飲み込む。
どうしてこうも全てにおいて常識の範疇を飛び越えてくるのか。もしかして俺が思っていた常識ってやつがおかしくて、女子高生の中では当たり前の行為なのか?
理解不能すぎて眩暈がする。歯を食いしばっていないと意識を保つのすら危うい。
何で俺がこんな所に――美容室なんかに来ないといけないんだ。
「桃岡サンさ、」
「いっつもボッサボサだなあって思っててェ! せっかく背が高いんだからもっとオシャレした方がいいですよォ~アタシがコレクションしてあげますから、安心してくださァい」
余計なお世話。それに絶対言葉を勘違いして使っている。なんだ、コレクションって。コーディネートでは。
「あ、あのう、お客様。いかがしますか」
鏡越しに見上げると、背後に立つ女性の美容師が眉を下げてこちらを見ていた。怯えの色がその瞳に見えて、鏡に映った視線の険しさに気付く。顔の力を抜いた。
苛立ってるのは桃岡にであって、あんたじゃないからね。
「悪いんですが」
「予定通りやってよ。時間押してるんだから!」
俺の断りの声に、桃岡の強い口調が被さる。いつものねちっこさのない、尊大で見下した態度。
時間が押している、ということに関しては遅れてきた自分のせいだろ。というかそんなに予定詰まってんの?
横柄に言う桃岡は、恰好のいい美容師が通り過ぎるとにこやかに笑う。そしてまた厳しい目でおどおどした美容師を舐め回すように見た。
ぎこちない動きでケープとやらを付けてくれるその女性は、すっきりとした長い黒髪が似合う日本人らしい人。服装も清楚で可憐な雰囲気が出ていて、自分に何が似合うかよく分かっているのだと思う。
桃岡がそれを見て鼻で笑うのは、その目に地味としか映っていないからだろう。
恐らく自分を見すぎて麻痺しているんだ。元が分からないくらいに化粧で固められた顔と、鬱陶しいほどに巻かれた髪、流行のものを寄せ集めたような服装に酔いしれているだけだ。
何なんだ、あの態度。好みは人それぞれで、一個人が自身の見解でそれに優劣をつける資格なんてないのに。じゃあ今日会った瞬間、お前の恰好嫌だ、って言っても良かった?
嫌悪感を露わにして鏡を見る。桃岡はというと待合室で席に着き、その巻きに巻かれた髪を更に指に巻きつけて枝毛探しに専念していた。切り替えの早さに考えるのも嫌になる。
「それでは、お客様」
始まりの合図に怯えさせない程度の溜息を吐くと、なすがまま初めての美容院に挑むことにした。
顔が、スースーする。
剥き出しの額を触ればかさついた肌の感触。改めて失ったものの大きさに気付く。
「お客様、こっちの方がスッキリしていいですよ」
後ろで鏡を広げた美容師が明るく、完全なお世辞を言う。黙って受けていた報いか。
スッキリしても良くはないだろう。前も後ろもバッサリいかれて丸見えの顔は血色が悪いし、元々愛想がいいとは言えない目は自分で見ても死んでると思う。……心が反映されすぎている。
見下ろした床に散らばった髪が喪失感を増幅させる。侘しさに動きを止めても、美容師は待ってはくれない。お疲れ様でしたー、と軽く言って退席を迫られる。味方はひとりも居ないのか。
立ち上がり足を進めると落ちた髪に靴が滑る。ぱさついた髪でも一気に切ってもらえばこうなるらしい。ちまちま切ってはゴミ箱に捨てて、を繰り返してきた身としてはそんなことも驚きに変わる。
背中に刺さるチクチクとした痒みにさえ腹が立つから、こんなことでしか気持ちを抑えられない。
待合室まで出ると、桃岡が支払いをしようとカウンターの前に立っているところだった。
絶対嫌だ、こいつのヒモ扱いなんて。もう一生会うことはない美容師達でも、そんな風に思われたくない。
「え、ちょっと、」
「お願いします」
身体を割り込ませて、レジに表示された金額とぴったりの額を受け皿に置く。ステンレスのそれと小銭がぶつかり甲高い金属音を響かせる。非難めいた視線をふたつも受けて自然と眉間に皺が寄る。そろそろ跡が残りそうだ。
もうおしまい。用済み。おさらばだ。
出されたレシートも無視して美容院を出ていく。
無遠慮に好奇な目を向けてくる客と店員。腕を絡ませながら上目遣いに見てくる女。通りすがりに囃すような視線を晒す男達。身勝手な欲に霞んだ目で見上げるエンデュミオンの客。期待にぎらついた瞳で俺を貫いた、正夫。
現在も過去も混ざり合った数多の目が浮かんでは漂い、流れては帰ってくる。全身に視線の銃口の先が当たり、打ち込む場所を探すように皮膚を撫でていく。
気色悪いその感触と、この場の全ての目が自分に向くような忌避感が、蓄積した感情を曝け出せと追い詰める。
「真木さん、真木さん」
絡みつく腕を振り払う。肌を擦るプレスレット。触れられていた部分から皮膚が爛れていくような感覚。
「真木さんってば」
見下されるのが気に食わない。無思慮に出る発言が神経を逆撫でする。人の日常に土足で踏み入って、何もかもを蹴散らして笑う姿に、衝動的に拳を握る。
一緒に居ればいいところが見つかるか。――答えはノーだ。
他の誰かなら違うかもしれない。本当なら今頃、何かしら見直す点を見つけている頃かもしれない。
しかし俺とこの女に関して言えば、どんな天変地異が起きたとしても、答えはノー。覆らない。
マイナスの感情が足される度、その値は低くなる。始まりのゼロさえもう見えない。
「真木さんって結構カッコイイんですね! びっくりしちゃいましたぁ」
返事すらしない俺に、勝手に話し出す。
腕を絡ませなくなった代わりに異様な近さで寄り添い歩く。近付いた距離の分だけ胸に赤黒い膿が溜まる。
「あんまりいないタイプー。なんていうの? 外国人さんっぽい?」
あたし、好きかも。
照れたように窄められた唇から、呟かれたその声。毒々しい甘さで耳に纏わりついて、内臓さえせり上がるような吐き気に変わる。
……一体何に夢を見ているのだろう。立ち止まって、物欲しそうな色が宿る瞳を覗いてやった。
――あぁ、そうか。そういうことか。分かった、あんたが俺を選んだ理由。
瞳に写る自分。長く隠されていた顔に光が当たる。
美形というほど整ってはいない。しかしあまり多くない種類の顔だとは自分でも思っていた。だからだ。
昏く生の灯らない目と、人形以上の血色の悪さ。めったに笑わない愛想の無さと、枯れ木と馬鹿にされる痩せ気味の長身。
そんな自分でも分かる明らかな欠陥だって、他者と比べられないから美化される。
そこに特異な催眠術という技能が加われば、まるで一点もののブランド品みたいに、見る目にフィルターを掛けてしまう。
俺に恋をしているんじゃない。価値ある自分に相応しい、自分を輝かすためのアクセサリーを求めているだけ。そしてたまたま目に付いた俺の“特別”を身に着けて、ステータスを上げたいのだ。
俺のことなんてどうでもいい。ただ特殊な何かが備わっていれさえすれば、俺じゃなくてもいい。
答えに辿り着けば、身体の端々から血も熱も力も己も、何もかもが地面へと流れ落ちるような感覚。
俺だってどうでもいい。面倒臭い。
垂らした指先に伝うように這った桃岡のそれが、俺の感情の引き金を引いた。
「アンタ、気持ち悪いよ」




