0.プロローグ
あらすじ
僕は“探し物探偵”神咲歩。今日の依頼は少々難航しそうだ。明日までに婚約指輪を見つけてほしいとの事だが、広い屋敷の中で細指の彼女の指輪を見つけるだなんて。 けれども“探し物探偵”の名に賭けて、と懸命に探す僕を嘲笑うかのように、彼女は永遠の眠りに就いた。美しく清らかに、ただ眠るように――。 自殺か他殺か、何故彼女は死ななければならなかったのか。 ――僕は今から真実を探す事にする。
原作者名:絃羽
演出:牧田紗矢乃
ベッドに横たわる彼女は、とても美しかった。
数時間前に食事を共にし、微笑みを交わした時と寸分違わぬ美しさだった。
それでも、目覚めの口づけを与えようと顔を近づければ、呼吸がないことがわかるだろう。白磁の肌から失われる体温が、現実を告げるかもしれない。
大きな窓から差し込む満月の明かりを頼りに、誰もが時が止まったように立ち尽くしていた。
視線を一挙に集めるのは、ベッドに横たわる美しい女性である。
彼女は、ついさっき深い眠りについた。
二月十一日、午前三時三十分。姫井雪の二十歳の誕生日は、同時に彼女の命日となった――。
「雪が、雪がどうして!」
「詩園……」
老婦人がむせび泣き、崩れ落ちた。枯れ枝のような指がベッドに伸び、ピンと張られたシーツに無数のしわを作る。
夫であり、ベッドの上の美女の父である壱さんが詩園さんの肩を抱く。
視界の端に映った光景に、いたたまれない気持ちになった。
詩園さんが咽び泣く声が、広い室内に蓄積していく。
抱き合う老夫婦、唇を噛む婚約者、棒立ちの執事、頽れたメイド、拳を握る執事見習い、入口に佇む庭師。日常ではそうお目にかかることがない光景が、ここに広がっていた。
彼女の色をした吐息のような仄甘い空気が、悲痛な灰色に侵食される。
それを見て、決心した。
僕は探偵だ。だが警察と協力し謎を解くような、犯罪に精通した探偵ではない。無くした物を探す“探し物探偵”だ。
だから、これから捜索を始める。
――“探し物探偵”の名に賭けて、この事件の“真実”を捜索するのだ。




