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破滅の聖女とゆるふわ勇者  作者: 久我山
最終章 破滅の聖女と・・・
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4-5 聖女と術師と暗黒神

 ◆◇



 帝都に潜入した私とリラは術師ランデールの居場所を探っていた。

 やつが暗黒神に肉体を与え完全復活させるのをなんとしても阻止したい。


 暗黒神とは一度戦ったことがあるが、とにかく強い。


 神を名乗るだけのことはある。

 邪悪の魔力で極限にまで強化された強靭な肉体。

 腕の一振りが災害級の破壊を生み出し、勇者といえど苦戦を強いられる。


 負けるとは言ってない。

 たとえ勝つとしても、避けられるならそれに越したことはない。



「塔全体が暗黒の気で満ちてるよ。聖母さんの使った|《聖域》の魔術みたい。

 上のほうが濃いけど、何人いるかは……わからない」


「魔術で暗黒力を集めているのね。

 そこまで大掛かりな仕掛けが必要なことと言ったら……」


「邪神の完全復活、だね」


 いかにも何事かしていそうな雰囲気だ。

 今度こそ術師であって欲しい。


 中に人を集めてるのか、外の警備が薄かった。


 好機と見て、塔の外壁を能力に任せて一気に駆け上がる。

 最上部の壁を蹴破り私たちは突入した。



「これは驚いた。勇者が来るのはもっと後のことだと思っていたのだがな」


 さして驚いているようには見えない。

 豊かに蓄えた白いあごひげをゆったりと撫でる仕草が物語っていた。


「貴方が術師ランデールね?」


「いかにも儂がランデールだが? 貴様が反乱軍の聖女とやらか。

 噂にたがわぬ不遜な目つき。その強い眼力、最後の生け贄にちょうどよい」


「最後……ですって?」


 ランデールは自信ありげに口元を歪めた。


「受肉の儀式はすでに終わっておる。あとは目覚めを待つのみ。

 残念だが、貴殿らは神の姿を見ることは出来ない。何故ならここで死ぬからだ」


 老獪は偉業を成し遂げたのだと誇らしげに語る。

 そして私たちに下す死刑宣告。


「だが安心するといい。暗黒の力は全てを飲み込む。

 勇者も聖女も分け隔てなく余すことなく全て……暗黒神の血肉としてやろう!」


「たとえ死んでも、そんなものの一部になるなんてまっぴらごめんだわ。

 私の心も身体も全てリラのものって決まってるから


「やだもうセイカってば、こんなときに言われても困っちゃうよ」


「神と一体にしてやろうと言う、この慈悲がわからんか!

 ならば、たっぷりと痛めつけた後で魂を奪ってやろう!

 苦痛に身悶えるがいい! 死霊どもよ集え、《冥界の円舞(ナイトメア)》」


 ランデールが喚き立てると、黒い霧が辺りを包み込み周囲は穢れで充満した。

 精気を奪う猛毒の霧だ。


「清らかなる光よ、汚れし肉体を浄化し給え。《神聖なる浄化の光(セイクリッドスター)》!」


 そんなものが私たちに効くわけがない。

 ここまで来れたのは暗黒に対して無敵だったからだ。


 帝国を操ったランデールの頭脳もたいしたことはない。

 暗黒力に頼った戦いをすれば、暗黒騎士ガトーと同じ結末に至る。


 私たちの完全勝利が見えた。


 大きく踏み込んで胴を真っ二つにする勢いで剣を振り抜く。だが斬れない。

 私の一撃は宝剣ですら叩き折れると言うのに……。


「嘘でしょ!?」


「迷いがない良い剣筋だ。だが素直すぎる。

 わかっていれば受けられないわけじゃない」


 魔力を巡らせる身体強化。

 私が師匠に教わったのと同じ術だ。


 門外不出だとか言っていたくせに、帝国の術師も使えるじゃないの!


 私の強化と同程度、下手をしたらランデールのほうが上を行くかもしれない。

 初めての強敵に焦りを隠せなかった。


「わたしが前にでるよ!!」


 リラが割って入る。


 一方的に攻撃を押し付け、ランデールに反撃するきっかけを与えない。

 完全な力押し。


 ここは勇者の戦闘能力に任せるしかない。


「セイカは休んでて!」


 私は一歩下がり、精一杯の強化魔術をリラに掛ける。

 リラの声で落ち着きを取り戻せた。


 私はやれることをやればいい

 全てをやる必要はないんだ。


「氷原の風よ、切り刻め。《氷の刃(アイスダガー)》!」


 集中してくると細かい攻撃魔術も挟めるようになってきた。

 リラの攻撃に被せるように受けきれない瞬間を狙って放つ魔術。

 威力よりもランデールの意識を削ぐための嫌がらせに近い支援攻撃だ。


 身体を覆っていた強化魔術が薄れてくる。

 老人の限界が見えてきた。


 熟練具合が高くてもそれを維持できるとは限らない。

 わずかに掴んだ好機を逃がさずリラは畳み掛ける。


 リラの攻撃のたびに、私も思わず力が入る。

 叫んで応援したいくらいに。


 膝を付き、魔術による強化が崩れる。


 最後の一撃。

 その瞬間、ランデールが言葉を放つ。


「ぐっ……待てっ! 勇者よ、待たれい。貴殿の勝ちだ。降参だ。

 老人をいたぶってまで大陸の覇者になりたいか。ならばくれてやる。

 儂は帝国などどうでもよいのだ。だから今は見逃せ!」


「何を言っているの……?」


 私は耳を疑った。

 ランデールはこの期に及んで急に老人ぶって命乞いをしだしたのだ。


「神を降ろす研究をしたかっただけだ。究極の力を見たかっただけなんだ。

 これは夢だ。純粋なる好奇心だ。命を奪われるいわれはない!」


 百歩譲って戦う前に言うならまだわかる。

 斬り合いをしておいて今さら降参だなんて許せるわけがない。


 暗黒神の力を利用して帝国を操った事実だって消えやしない。


「貴殿は勇者なのだろう。無抵抗の人間を痛めつけはしないだろう?」


 リラは悲しそうな顔をしてランデールを見下ろしている。

 そして、小さく首を振る。


「勇者に嘘は通じないよ。わたしには全部視えてるから。もう終わりだよ。

 もう二度と悪い魔術は使わせない。もし使おうとすれば命はないと思って。

 ……まばゆき光よ、災いの言霊をかき消せ。《永劫回帰(サイレントプリズン)》」


 ランデールは抵抗することなく魔術の戒めを受け入れた。

 その態度とは裏腹にこちらを煽ってくる。


「甘い。甘いな勇者よ。そんなことで神と戦えると思っているのか。

 見させてもらうぞ。儂の究極の研究の成果が勇者を滅ぼすさまを……」


「残念だけど貴方は神の姿を見ることはないわ。何故ならここで眠るからよ!」


 勝負に負けてなお煽るこの老人に私は我慢ならなくなって拳を叩き込んだ。

 魔術での防御はできない。


 ランデールは完全に沈黙した。


「やりすぎだよセイカ。スカッとしたけどさ」


「ごめんなさい。あまりにもうるさいから……」


 悠長に話している暇はなかった。

 足元から邪悪の塊が動き出したのを感じた。


 塔全体が揺れている。


 暗黒神の目覚めだ。



「我が眠りを妨げる者は誰ぞ? 破壊の餌食になりたい、愚か者は誰ぞ?

 我が名はアスモダイ。我が望みは天の破壊なり。妨げるは許さぬ。

 全ての生きとし生ける者よ。死をもって復活を祝福せよ。

 我が望みは天の破壊なり!!」



 塔の中央。

 暗黒神の鳴動が伝わる。

 塔を破壊し表へ出ようとしている。



「リラ!」


「外へ!!」


 私たちは手を取り合って飛び出した。


 直後に破壊が巻き起こる。

 瓦礫を撒き散らし石積みの塔が崩壊していく。


 砂煙の向こうに大きな気配を感じた。



 人間の怒りと欲望から生まれた邪悪を宿す、地に落ちた神。

 暗黒神アスモダイ。


 見上げるほどの巨人がそこに立っていた。


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