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破滅の聖女とゆるふわ勇者  作者: 久我山
最終章 破滅の聖女と・・・
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4-4 聖女と皇子と黒鎧

 ◆◇



 帝都の上空、遥か雲の上。

 ワイバーンの背にリラとふたりきり。


 今日は星空や帝都の景観を楽しみに来たわけじゃない。

 戦いを終わらせるために来た。


 帝国の兵士が操る暗黒の力。それを与えている邪神の本体を叩き潰しに来た。


 それは勇者に与えられた使命。

 ひいては私に与えられた運命から逃げ出すための戦いだ。



「暗黒力の気配を探れるかしら?」


 私が訪ねるとリラは「任せといて」と力強く胸を叩いて答えた。


「セイカはじっくり構えて見ててくれればいいから。

 今日はわたしが頑張っちゃうからね」


 新調した白塗りの革の胸当てに、愛用のメイスと紋章入りの丸盾を握るリラ。

 いかにも勇者らしく目を輝かせて気力を充実させている。


 一方、私のほうは黒尽くめ。修道服を着た暗殺者だ。

 手にした神聖剣の刃だけが白く浮き上がって見える。


 私は視線だけで人が殺せそうなほどに昂っていた。

 やる気というよりは殺る気と呼んだほうがいい種類の気持ちだ。


 こんな私を皆は聖女と呼ぶ。

 なんの皮肉だろうか。



「帝都中が暗黒の気でいっぱいだよ。本命は城内の大きな気配かな?

 周囲にいくつか気配があるから護衛がしっかりついてる女帝さんだと思う」


「女帝はフィル新王が対峙すべきね。私たちは邪神だけを目標にしましょう。

 王城のどこかに術師ランデールが研究室にしそうな場所はないかしら?」



 マール将軍や大将軍の娘システィナの情報を元に帝都に乗り込んだはいいが、諸悪の根源である術師ランデールの居場所がわからない。


 ランデールは邪神と交信して力を得るだけでなく、賢者が勇者を召喚したように邪神をこの地に降ろそうとしている。


 私の知る限り、多くの魂を得なければ邪神は受肉することができない。

 解放軍は死者を出すのを極力抑えてきた。

 邪神はまだ実体を持つには至っていないはず。



 ここは勇者の勘が頼りだ。

 ランデールが最後の儀式を始める前に、全てを終わらせてやる。



「城内を除くと……山側の塔にひとかたまり。

 二重の城壁の南側にも、これは地下かな。深いところにひとかたまり」


「どっちも怪しいわね。リラは塔と地下室のどっちだと思う?

 邪神に力を与えきる前に術師を叩けたら、手間が省けると思うのよ」


「うーん、どっちも倒さなきゃダメだって本能が叫んでる」


 なるほど。さすがは敵の本拠地。

 リラの勘でも探りきれないようだ。


 暗黒に魂を売ったものたちがこぞって防御を固めているのだろう。

 魔術で内部を覗きたいところだけど、塔には窓のひとつもついてない。


 落雷の魔術で全て崩してしまいたかったが、それはリラに止められた。


「今日のセイカってば、いつも以上に過激すぎるよ。

 他に大きな気配はないから、静かに忍び込めば絶対に見つからないって」


「リラが言うならそれでもいいわ」


「戦うのもわたしに任せてね。

 セイカにやらせたら城壁ごと壊しそうで怖いからさ」


 私ってそんな風に思われてたの……?

 確かに以前、むかつく誰かさんの砦を半壊させたことはあるけれど。


「仕方ないわね。直接乗り込んで行って確かめることにしましょう」


 いくら夜明け前の奇襲だからと言っても戦い始めれば気付かれることになる。

 一気に倒せないのなら静かに両方を回る必要がある。


 もしも警備に見つかって騒ぎになったら、行き辛くなるのは地下室だ。

 つまり……


「先に片付けるべきは地下室のほうね。

 こちらがランデールの研究室だといいのだけど……」


 私が必死に思考を巡らせているというのに、リラは吹き出して笑っていた。


「セイカって苦手なものを先に食べる派?

 それともおいしいものは後に取っておく派?」


「何よ急に?」


「わたしは好きなものを先に食べちゃうほうかな。

 だってお腹いっぱいになっちゃったらもったいないでしょ?」


「そもそも苦手なものを食べるのがわからないわ。

 おいしく食べられるようにするのが料理でしょう?」


「セイカが料理してるところ想像つかない……」


「もう行くわよ」


 リラには本当に驚かされる。

 敵地に潜入しようというのに、まったく気負いが感じられない。

 かと言って緊張感がないわけではない。


 気配を探って静かに潜入できる経路を選んでくれていた。



 ワイバーンから飛び降りて一気に地下室を目指す。


「セイカこっちだよ」


 リラの言うがままに進むと誰にも見つからずに城壁内へ進入することができた。

 簡単すぎて怖いくらいに順調だ。


 鍵のかかった扉も私にかかれば造作もない。

 かんぬきがされていようと焼き切ってしまえばいいだけのこと。


 それだけの火力は普通の術師に出せるものではないが、今日の私は乗っていた。

 普段以上の力が出せる気がした。


「セイカ、そろそろだよ。向こうの奥の扉が目標地点」


 最深部に重厚な鉄扉。

 いかにも怪しい。

 下品な趣味が一目でわかる。


「もしも術師が邪神を降ろした後だったら……」


「わかってるよ。わたしがは全力で邪神を、セイカは術師を、でしょ?」


 頷いて武器を構えた。

 錠を焼き切り扉を押し開くと、地下室には黒鎧が待ち受けていた。


「こんなところまで嗅ぎ付けて来るとはな。どうやって帝都に侵入した?」


 暗黒騎士ガトーの操る黒鎧が不快な金属音を響かせる。

 邪神の本体を狙っていたのだけれど目論みは外れたみたい。


「どうした? 顔色が悪いぞ? 俺様が死んだとでも思っていたか?

 不死身のガトー様だぞ? 貴様のような小娘に倒せるわけがなかろうが!」


「あなたの不死身がニセモノだってことぐらい、とっくに知ってるんだから。

 威張っても怖くないよ。今度もまたぺしゃんこにしてあげる」


 大声で威嚇する黒鎧だが滑稽にしか見えない。

 どうしてここまで強気に出られるのか理解不能だ。


 暗黒の気の影響ですっかり頭をやられている。


「まったく口が悪い小娘だ。暗黒の力で従順な下僕に変えてやる!

 これほどの名誉はないぞ? 俺様の犬になりやがれ!」


「残念だけどその子は私の飼い猫なの。貴方の犬にはならないわ」


「飼い猫って何よセイカ」


 気まぐれで、とても気を遣う謎の生き物。

 勇者であることを誇りに思う少女。


 私だってリラを私だけのものにしたい。

 でもできない。


 だから一緒に戦い続けるしかない。


「暗黒の力はいいぞう。なぜ暗黒の力を認めん?

 その身を暗黒神に委ねれば、貴様の美しさを永遠にすることもできよう」


「散ってこそ花の美しさよ。貴方も美しく散らせてあげるわ」


「下らんな。その口、閉じさせてやる。

 永遠に散ることのない、物言わぬ花として飾ってやろう」


 言動全てに不快感が募ってくる。

 邪神の前座にもならない相手だけど、きっちり叩き潰してやるわ。


「さあ、来いッ! 暗黒力の素晴らしさを貴様らの身体に教え込んでやる!!



 戦いが始まる。

 黒鎧がずらりと並んだ。その数七つ。

 だが、臆することはない。


 暗黒の力に対して絶対的な優位にあるリラの神聖な力。まさに天敵である。

 なぜそれを前回の戦いで学ばなかったのか。


「フハハ、ここには日の光も届くまい。

 帝都ならば暗黒の気も途絶えることはない。

 ゆえに俺様の勝利は絶対のものだ!!」


 猛り狂う黒鎧の一撃を盾で受け流し、メイスを叩き込み暗黒の力を吹き飛ばす。

 今日のリラは最初から武器に神聖力を流し込んでいる。


 太陽の力を得た勇者の攻撃は、瞬く間に黒鎧を鉄くずに変えていく。

 力を失った鉄くずは神聖な力に浄化され復活することができないでいた。


「なぜだ、日の光なしでその力は一体どうなっている。貴様ら卑怯だぞ!!

 クソッ……またしても、またしても俺様が負けるというのかッ」


 動かせる黒鎧の数を減らされ、破れかぶれで私に襲い掛かってくる。


 私も神聖力くらい扱えるんですけど。

 聖女を侮ると痛い目見るわよ。


 力任せの体当たりを跳ね除け組み伏せる。

 浄化の力を流し込みながら剣を叩きつけ黒鎧を無力化した。


「ガァアアッ! クソがぁ、許さんぞ貴様らぁ!」


 最後の一体が無様に喚く。

 勇者に躊躇いはない。


「これで……終わりだよ!」


 全ての黒鎧を鉄くずに変えて地下室を制圧した。


「安心するのは、まだ早いぞ。必ず……貴様らを倒してやる。

 俺様は不死身の……」


 私が無力化した鎧がまだ生きていた。

 言葉の途中だったがリラがメイスを振り下ろして、今度こそ完全に制圧した。


「塔の方が当たりだったみたいだね」


 私たちにとっては外れだったが、倒しておきたい相手でもあった。

 再生する動く鎧は解放軍相手にはかなり有効な戦力だ。


 神聖系の勇者にかかればこんなものであるが、やりすぎた感はある。


「準備運動には良かったんじゃないかしら?」


 戦い続けるなんて嫌だったはずなのにリラと一緒にいるとそれを忘れてしまう。

 自然に戦えている今の状況が良いのか悪いのか……。


 考えるのはやめよう。

 どうせ今日で私たちの戦いは終わる。

 終わらせてみせる。


 今日は私もリラも調子がいい。

 本当にふたりだけで邪神も倒せてしまいそうだ。


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