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破滅の聖女とゆるふわ勇者  作者: 久我山
第三章 破滅の聖女と白と黒
30/39

EX3 勇者、破滅の聖女と逃避行

勇者視点です

 ◇◆



 飛竜に乗って星空を見る空中散歩。

 ゆったりとした時間が過ぎていく。


 明日は王子さまの戴冠式。

 やることはたくさんあるけれど、今はこの時間を楽しみたい。


 勇者にだって息抜きは必要だから。


 何を話すでもなくぴったりと寄り添って星空を見上げる。

 そして時々、ちらりと横顔を見て癒される。

 ささやかだけど幸せな時間。



 セイカはずっと隠していた悩みを打ち明けてくれた。

 どんな嫌なことがあっても一緒にいたいって言ってくれた。


 嬉しくて嬉しくて、ぎゅってして離したくないって思った。



 実はわたしにもセイカに言ってない秘密がある。


 勇者の素質が目覚めたときに不思議な力がたくさん身についた。


 戦いに関することは考えなくても身体が動くようになった。

 魔術に関することも戦闘系なら簡単に覚えられた。

 それ以外の才能はないって思ってたけど、最近は僧侶の使う神聖系魔術なら見て真似できるようになってきた。


 離れた場所にいる仲間とも強く念じれば話せるようになった。

 もっと強く念じるとその人の感情が見えるようになった。


 これのおかげで賢者さんがセイカのことを本当に心配してるってわかったから、なんでも相談できるようになった。


 ロビーナさんも本気でお兄さん(フィル王子)のことを王様にしてあげたくて頑張っているんだってわかって応援してあげようと思った。


 ディアさんだけはちょっと何を考えてるのかわからなかった。

 その場その場の勢いで生きているような人だった。

 それでも悪いことを企む人じゃなかったのはわかる。真っ直ぐでいい人だ。



 感情が読めることはセイカにも誰にも言っていない。


 導きの加護を貰ったときにセイカの心の声が流れてきて驚いた。

 それは小さな欠片のようなもので、全てを読み解くことはできなかったけど、好意だけは強く伝わってきた。

 使命感と私への感情がわかっちゃってすごくドキドキしたのを覚えてる。


 私の気持ちも伝わってるのかなって期待したけどそれはないみたい。


 仕方ないけど勇者なんだし恋くらい自分で叶えないとね。

 だから真っ直ぐに思いを伝えた。


 大好きだよって。


 そしてキスをした。


 唇を触れ合わせるだけの軽いキスから、舌を突き合う挑発的なキスに。


 セイカの黒髪を弄ぶように撫でる。

 ひっかりのないさらさらとした指通り。

 本当に綺麗。


 このままずっとこうしていたい。





 セイカはいつも気負いすぎていて辛そうにしてた。

 自分がやらなくちゃ解放軍が上手く回らないっていう重圧を感じてた。


 理想が高くてそれに見合うだけの努力もしてて、でも考えを伝えることや人を率いるのことが苦手で思い悩んでた。


 勇者のわたしにだって苦手なことはたくさんあるのに、セイカは全部ひとりでやろうとしてた。

 ホント無茶するよね。


 人に任せるっていうのは妥協とも手抜きとも違うのに。

 だから、わたしは負担を少しでも軽くしてあげたかった。



 セイカの持ってる強い使命感は解放軍の方向性を決めるのにとても大事だった。

 ただ力任せに戦うんじゃない。

 民衆を救うためだって自覚を持って、護るために全力を尽くす。


 それをみんなに伝える役目は勇者であるわたしのものだと思った。


 護るための解決策を提案するのは賢者さんの役目。

 実行するのは騎士や兵士、同行する治療師のみんなだ。


 それぞれに役割があって、自分がやるんだって強い意思も必要だ。

 士気を高めるのに王族の存在はなくてはならない。


 中でも王子さまには新しい国を率いて行く重要な役目がある。

 旧王家の血筋という高い正統性と、王国時代に培った民衆の支持が強みだ。


 セイカは王子さまを助け出すのにひどく苦心した。

 死んだと思われ諦められていた希望を見事に掬い取ったんだ。

 それも大きな犠牲を出すことなく。


 王子の生還は奇跡だってみんなが噂してる。


 セイカのおかげなんだよってみんなに言って回りたい。

 やったら怒られるから絶対しないけど……。



 王子の支持を裏から支える聖教会の助力は、これからすごく重要になると思う。

 解放軍の行いを広く伝えて、帝国の民衆にも受け入れてもらうのだ。


 聖母さまと法皇が一緒に頑張っていくんだと思う。



 全てをセイカが背負う必要なんてない。

 みんながそれぞれ力を発揮して、新しい国を作っていく。



 なのに……



「セイカは聖女の役目を降りたいってことなの?」


「私はもう一生分働いたわ。もういなくても大丈夫でしょ?」


 セイカの怠け癖はわたしでもどうにもならないかもしれないな。

 それでもイヤイヤ言いながら頑張っちゃうのがセイカだってわたし信じてる。


「ねぇリラ。このまま帝都まで飛べるかしら?」


「飛べるけど、降りるときに見つかっちゃうと思うよ?

 まさかと思うけど殴りこみに行くんじゃないよね?」


「そのまさかよ。国王の暗殺事件を起こしたのは暗黒騎士ガトーに違いないわ。

 あいつの使う鎧に乗り移って身体を操る暗黒術。卑怯の見本みたいな男よ。

 帝都に乗り込んでいってあいつを潰す。それも本体をきっちりとね」


 ほら来た。


 巻き込まれるのを嫌がってるのに問題からは逃げたりはしない。

 最短距離で解決するためなら辛い道でも頑張って進める人なんだ。


 ちょっと……っていうかだいぶ過激だけど。


「ついでに邪神を降ろした諸悪の根源、術師ランデールも潰すわ。

 もちろん邪神そのものも無に還してやらないと……」


「女帝さんも討つの?」


「それはフィル殿下の仕事。そうでしょ?」


 作戦を練っているときのセイカはすごく楽しそうだ。

 目つきが鋭いから悪巧みに見えるけど、わたしにはキラキラと輝いて見える。


 好きになっちゃったせいなのかな。



「二人でもきっとなんとかなるわ。

 暗黒力さえ断てば、私たちがいなくても解放軍はやっていけるでしょう」


 セイカはずっと考えてたみたい。

 聖女と勇者がいいように使われて捨てられることのない結末を。

 誰もが喜ぶ王国の行く末を。



「本気で聖女をやめちゃうつもり?」


「私が聖女でなくなったら、もう愛してはくれないの?」


 わたしが引き止めようとするのを察してセイカは巧みに牽制してくる。

 目を細め先を見極めようとしている。


 駆け引きなんてしても無駄なのにね。

 なにせわたしにはセイカの感情が見えるんだから。


「好きなことに変わりはないけどさ、そういう聞き方はずるいよ。

 聖女としてのセイカも大好きだからやめて欲しくない」


「リラだってずるいわ。そうやって私の嫌なことを嫌じゃなくさせる。

 そのくせ勇者をやめてと言っても、聞く気はないんでしょう?」


 わたしの体の八割は勇者成分でできていると言って過言ではない。

 そして残りの二割がセイカ好き好き成分かな。


 あ、でも勇者としてセイカを守りたい気持ちもあるから、セイカ好き好き成分はもっと多いかも。


「うーん、元気なうちは勇者でいたいかな」


「年老いるまでやる気なの!?」


「先の話はその時にならないとわからないよ。

 でもその先の未来まで、ずっとセイカと一緒にいたい」


「そうやって抱き付かれてもごまかされないわよ?」


「えへへ、見破られた」


 セイカの胸に頭を擦りつけながらぎゅっと抱きしめた。


 ふとしたときに召喚された日のことを思い出す。

 つーんとすました顔で事務的に会話してるのに心の中では色々葛藤してて、不思議な人だなって思ってた。


 なんだかもう数ヶ月も前のことみたいに思える。

 懐かしい。


「んもう、真剣に話してるのに……どうして笑ってるのよ?」


「セイカが心の内をいっぱい話してくれるようになったなって思ってさ」


「それは……もう知らないわ」


 何か言い返してくるかと思ったのに、セイカは黙りこくってしまった。

 見上げてみたら、羞恥と困惑と少しの怒りの色が見てとれた。


 ちょっとからかいすぎたかな。



「帝都に攻め込む話だけど、明日にでも行っちゃう?

 戴冠式は見ておきたいから、それが終わってからになると思うけど……」


「わかったわ。私は遠征の準備をしておくわ」


 セイカは式典に出ないつもりだ。

 本気で聖女をやめる気なんだろうな。


 これ以上引き止めてもこじれそうなので、わたしはもう何も言わない。

 一人で攻め込まないように、一緒に行くって約束で縛り付けておくけどね。






 戴冠式は盛大なものになると思う。


 解放軍の規模も大きなものになり、旧四カ国同盟で再び統一王国を築こうという流れができつつあった。

 女王や王子たちが他国とも連絡を取り合っているんだと思う。


 本当にわたしたちなしでもやっていけそうな体制が整いつつあるようだ。



 明日の晩。

 わたしとセイカは帝都に乗り込むために解放軍を離れることになる。


 不安はあるけどきっと大丈夫。

 だってわたしたちは勇者と聖女だから。


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