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03 原因

遅れてすみませんでした。

 俺は今までにないほどに興奮していた。

 見渡す限りに実験道具や魔法陣のような図形の数々、極めつけは見たことがないレリーフの彫られた拳銃や剣。

 俺は中二病ではないが中二病なら発狂して喜ぶのではないかと言うほどにファンタジーな部屋であった。

 そんな部屋をキョロキョロと眺めていた。

 

「それらはあんたの装備じゃなくて、シレーネのコレクションだから」

「へぇ~、そうなんだ。うっひょ~、この剣かっこいい!!」


 俺の目はひとつの剣に釘付けになった。

 キラリと輝く鋭い両刃、豪奢ではないものの素朴で美しい製鋼がなされた鍔、柄頭には美しい大鷲のレリーフが彫られてあり、剣の鎬の部分には見たこともない文字が幾重に彫られていた。

 芸術品としての美しさも発揮して機能美も遺憾なく発揮させていた。


「なあなあ、もしかして俺の装備ってこの剣ってこと!?だよな!だよな!!」

「興奮しすぎだし、顔が近いし、顔が可愛いのにキモい。はぁ…まぁそうね」

「まじか、うおおおおやったぜぇぇえ!!」

「あの…」

「何!?」

「そろそろ、服を着てくんない」

「あっ…」


  ようやく俺は自身が裸マントだと言うことに気が付いた。

 熱狂とは恐ろしい。

 自分が真っ裸だということすらも忘れさせるのだから。

 マントはさすがに全裸で城を歩きまわるのは色々と問題があるので貸してくれたが、服が手元になるいのでそれしか貸してくれなかったのだ。

 

「服、どうしようかな。えーと、そうだ。これこれ。これにしよう」

 

 マグリアはそう言うと白いシャツと黒いタイトスカートとこれまた黒いベストを手渡した。

 というか、パンツは…?


 そんな感じの視線をマグリアに送ると仕様がないな、といった表情で白いパンツとブラジャーを渡してきた。


「えぇ~、これを身に付けんの」

「文句を言わないの。この世界の下着はドロワーズが基本だからレースの下着なんて高級品なんだよ」

「いや、柄がやだとかじゃなくて心はまだ男だし、女物の下着を身に付けるのはどうかなと思うんだよね」

「はぁ、あなたもやっぱり魔人なのね。でも諦めなさい。元は男だけども今は女なのフィットする下着のほうが動き易いのよ」

「まぁ、それはな」

「そうと、わかったら早く履きなさい」


 履かないといけないのはわかっているが半端ではないほどの背徳感が俺を襲い、パンツを握りしめ震えている。

 何だろう。

 男だったら完璧にアウトな絵面だが女しかも美少女だから許されるそんな感じになっていた。

 今日、俺色々なものを卒業します。

 今までありがとうございました。

 何故だか誰もいない方向に向けて深々とお辞儀をしてしまった。

 それをマグリアは白けた表情で眺めて、溜め息をついた。


「ようやく、次の話に移れるわね」

「えっ、もう終わったんじゃねぇの」

「まだ本題にすらはいないわよ」


 そう言うとマグリアは顔より大きな分厚い本をひょいと出してテーブルの上に置いて広げた。

 そこには古びたこの世界の世界地図が載ってあり、所々に円などのマークが記されてあった。

 するとマグリアはおもむろに懐から折り畳まれた新品のような紙切れを俺の前に広げた。


「これが今現在、使っている地図。そしてこの古い地図はこの世界よ」

「何だよ。地図なんか広げて」

「一目でわかるはずよ」


 たしかに違う。

 古びた地図の方は地形がしっかりと細部まで描かれているが、最新の地図は上半分が全く描かれていないのだ。

 まるで何がなくなったみたいに。

 そして、下半分、つまり南側に国々が集中していた。

 たしかにおかしい。

 普通は逆のはずだ。

 俺たちの世界では伊能忠敬が正確な日本地図を作られる以前の日本地図はかなりいい加減なものだが伊能忠敬による正確な測量により日本地図が作られ更に人工衛星により正確な日本地図が作られた。

 つまり、地図というのは最新版のほうが正確で細部まで描かれているのが当たり前なのだ。

 だか、この地図はその逆だ。

 まるで、消え去ったみたいに。


「消えたみたいに北側が描かれてないでしょう」

「あ、ああ」

「消えたみたいじゃなくて実際にないの。約500年前にある奴等に奪われた」

「ある奴等って」

「666人の魔王と一柱の魔神によってね」

「魔王…。もしかして俺たちを、俺を呼んだのは魔王と魔神を殺して、北側の土地を奪還するため?」

「正確には違うけどね」

「は…?」


 マグリアは最新版の地図をくいくいと指をさして見るように促した。

 俺には北側つまり上半分が描かれていないこれ以上の違いはわからなかった。

 するとマグリアは呆れた表情で地図の西南西側と東南東側にペンででかでかとマークをつけた。


「あんた地図の見方くらいわかりなさいよ」

「う、うるさいな。で、この円は何だよ?」

「ひとつ目の円、東南東の方角にあるのは乾燥地帯、つまり砂漠よ」

「砂漠ってエジプトとかにある砂漠か。つーかそれがどうしたの?」

「砂漠ってことは乾燥に強い作物しか育てられない。そして、この世界では寒帯や亜寒帯、温帯で育つ作物しか作られなかった。というか、それらの地域しかなかったの。だから品種改良などの試みはあまりなされない。つまり、私たちの世界は慢性的な食糧難に陥っているのよ」

「つまり、俺がやるのは砂漠の緑化ってことか?」

「それも違うわ。正確には食糧難によっておこる革命の防止をやってもらいたいのよ」

「何で革命なんかが?」

「あなたにはわからない部分が多々あるでしょうけどそんなの簡単よ。戦争による兵や食糧などの物資の大量消費、それによる食糧難の加速が起因よ」

「そんなの尚更、砂漠を緑化すればいいじゃん」

「それには数十年、下手すれば百数年かかるわ。しかも戦争の相手は魔王と魔神その他の軍勢よ。さらに三年以内に駆逐しなければならない」

「なんでさ」

「三年後には完全に砂漠化するからよ。魔神の力によってね。それを防ぐための異世界召喚でもそれだけじゃ不十分なのよ」

「つまり、三年以内に革命が起きるってことか」

「あら察しがいいじゃない。そういうこと。潤っている国々は三年間は確実に生き残れる食糧を生産してね。でもそうではない国や地域は今日も生きるか死ぬかの瀬戸際よ。そんな状況を打破するためには奪う。それくらいしか方法がないじゃない。でもそれを今やられる自ら崩壊し始める。それを止めるのがあなたの役目よ」

「ちょっと待て、お前の言葉だとそういう国がすでにあるといってるようなものじゃねぇか」

「まさにその通りよ。だからあなたを魔人にしたのよ。人間と怪物、いえ魔王に絶対のアンチテーゼを持つ魔人にね」


 そんなこと、そんな壮大なことをいきなり言われてもわからないぞ。俺は高々、十六年しか生きてなくて世の中ことを何も知らない俺に…。


「迷うのもわかるわ。でもね選択の余地はないの」

「それはそうだろ何をどうすればいいんだよ。それこそ別の奴に頼めよ」

「言ったでしょ。選ばれたの。選ばれた者には義務が突き付けられ、選んだ者には責任がのし掛かるの」

「だから何っていうんだよ。俺にそんなもの振るんじゃねぇ。まったく、どいつもこいつも近藤と一緒じゃねぇか」

「もう遅いわよ。魔人になっちゃったからね」


 そうだ。俺はもう魔人とかになっちゃったんだったな。

 これは、断らせないために先に魔人化させたのだろう。

 完全にあの女の思う壺だ。

 ヤサぐれているとマグリアがこちらの顔を覗きこんで一着のロングコートを渡してきた。

 丈夫そうな黒い革で出来たロングコートを。


「嫌なのは、重々承知よ。でも拒否はさせない。これを着て、私の実験室へ行くわよ」

「……わかったよ」


 そう言って俺はマグリアについていった。


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