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13 調査と痕跡

今更ですが◇が視点変更で◆が場面となります。


 ドラクリア城の大浴室から湯気を立ち上らせ、二人の女性がいた。

 一人は湯船に浸かりながら鈴を転がしたような声で鼻歌を歌い、もう一人は垢擦りで自分の体をごしごしと洗っていた。


「カオル、一人で大丈夫かな?」

「大丈夫じゃありません。マグリア姉さん!! カオルさんは魔女流(ウィッチ)の魔人なんですよ。魔女流(ウィッチ)は魔女と二人でなければ本来の能力が使えないので意味がありません。それを姉さん、あなたと言う人は……!!」

「ほら、眉間にシワを寄せると折角の可愛い顔が台無しよ」

「双子だからあんまり関係ないでしょうに」

「それもそうね。髪と瞳の色以外全部一緒だもの。まっ、それはいいとして。カオルのことは心配ないわ。シレーネ」


 マグリアはそう言うと手のひらを横に振り湯船に体を深く沈めた。

 カオルには双銃使い(ガンスリンガー)がついている。

 あいつならちょっとやそっとのことでは傷一つつけられないし、カオルも死ぬことはないはず。

 それよりも今はあの計画(・・・・)を練りなおさなきゃいけないし。


「姉さん、本当に後、三年なんですね」

「ええ、北方の消失(ロスト・ノース)と自然豊かだったはずの虹の始まる地(ビフレスト)の砂漠化。怪物の急増。あと少しで本当に|終末と忌むべき審判のパリスジャッジメントが始まる」

「そうなったら……」

「確実に世界は滅ぶでしょうね。それでもシレーネ、あなただけは必ず守るから」

「姉さん……」


 マグリアはシレーネの手をギュッと固く握りながらも優しい表情で眼差しを向けていた。

 けどシレーネはとてもとても、悲しく今にも泣きそう顔でマグリアに顔を向けた。


「ありがとう。姉さん」


 シレーネは湯船からザパッと上がり、そのまま脱衣場へつかつかと歩いた。


 ◇


「ここもハズレか」

「そのようだね」


 俺たちはラットバックの貧民地区(スラム)で怪物の調査を長時間していた。

 実際には思ったようにはいかず調査は序盤で躓き、これといった結果は出せていなかった。

 それにしてもこうも見つからないものなのかな。

 街行くひとには必ず、街の変な噂などを聞いて周り、その噂をもとに敵である影鬼の位置を割りだそうだと言うものだった。

 俺は多分、このやり方では正確な敵の位置を割り出すことは不可能だと思う。

 もう一つ違ったベクトルから調査をしたほうがいいと思うがここは経験者であるティアに任せるしかない。

 するとティアは辺りをキョロキョロし始めた。


「どうかしたのか?」

「ここどこかな?」

「ん……、もっかい言ってくれるかな?」

「いや、だからここはどこかな~って、もしかして迷ってちゃったかな」

「聞いた俺がバカだったよ。もしかしなくても道に迷ってるぞ」

「カオルだって、ただ着いてきてるだけじゃない」

「確かにそうだけどお前、経験者なんだからきちんとリードしろよ」

「わ、わかったよ。えーと、フェレンス通りがここから東で。貧民地区(スラム)はもう少し南かな」

「お前に任せるともっと迷いそうだから俺が先導するよ」


 カオルはティアから地図を受けとると地図を広げ、地図に書いてある建物を探し始めた。

 すると酒場を見つけ地図と照らし合わせ、フェレンス通りから距離を図る。

 そして、現在地を割りだし地図にバッテンの印をつける。


「よし、これでOKだ。あとは貧民地区に行くだけだ」


 カオルはティアから貸してもらった地図を懐にしまった。

 ティアは照れながら、頭をぽりぽりと掻きながら愛想笑いを浮かべた。

 カオルはティアの手を引き、貧民地区へと足を運んだ。


 ◆


 ティアとカオルは貧民地区(スラム)、ラットバックの最底辺の地区を悠々と歩いていた。

 ティアにとってはこの貧民地区(スラム)は何ら珍しいものではないがカオルとってはそうではなく、すべてが珍しく思えるものばかりだ。

 カオルの日本ではまず貧民地区(スラム)お目にかかるものではなかったし、一般家庭に育ったカオルは信じられないものだ。

 そのせいなのかカオルは辺りをキョロキョロとしていた。

 なにがそんなに珍しいんだか?

 貧民地区(スラム)なんてどこの街にも探せばあるでしょに。


「カオル、いくよ」

「あぁ、ごめん。今、行く」


 ティアはカオルを急かし、貧民地区(スラム)で一番広いと言われるレトリバー広場へと歩みを進めながら、情報収集を行った。

 

「なぁ、めぼしい情報ないな」

「ええ、確かにでももうすぐなはずよ」

「流石だな。相棒!」

「はぁ、あのねカオル、あたしたち一応は相棒って関係だけどそれは一時的なものだよ。この仕事が終わればあなたとの関係はお仕舞い。それは忘れないでね」


 ティアは顔をぷいっと別の方向に向けるとすたすたとカオルの先を歩いた。

 カオルはそれに追い付こうと小走りでティアの隣にいった。

 するとティアはカオルを手で制止した。


「どっ、どうしたんだ」

「見ないほうがいい」

「何で?」

「いいから!!」


 カオルはティアの制止を振り切り背を向けている場所に目をやった。

 そこにあったのは原形をとどめていない死体だった。

 目が干からびて陥没しており、皮膚が骨に張り付き肋骨が形がはっきりわかるほど浮き出ていた。

 干からびていて、表情がわからないはずだがその顔にははっきりと恐怖が見てとれた。

 干からびた死体は初めて見た。

 おぞましいとかそんなレベルではない。

 見ただけで絶望すら感じさせた。

 背中に悪寒が這い上る。

 カオルは凍りついたようにその場を動けなかった。


「見るなって言ったのに。まぁ、見ちゃったものはしょうがないからこの死体を調べて葬るよ」


 ティアは恐怖で固まったカオルの背中を叩いた。

 背中を叩かれたことによってカオルは正気を取り戻し、次第に落ち着きはじめた。


「大丈夫だね、よしまずは死体に噛み傷がないか調べよう」

「吸血鬼かどうか調べるためにか?」

「いや、死に方からして吸血鬼なのは確定よ。人狼だったり、屍喰らいだったら辺りが血だらけで骨も残ってないもの」

「じゃあ何で?」

「噛み傷の種類によって吸血鬼の種類がわかる。あたし達が追ってる影鬼は通常の吸血鬼の噛み傷とは異なるものなのよ」

「なるほど」

「わかったら、死体を動かすのを手伝って」


 カオルとティアは仰向けになっていた死体をひっくり返して死体を調べはじめた。

 すると左の肩甲骨辺りに縦に割れた長い刺し傷を発見した。

 そこは死体のどの部分よりも干からびており、一部が白骨化していた。

 

「種類がわかったよ。これは間違いなく影鬼よ」

「特定できた理由はやっぱりこの刺し傷か?」

「ええ、他の吸血鬼だと噛みついて血を吸うからどうしても歯形みたいのが残るの、でも影鬼は実体化させた影をナイフのように突き刺して血を大量に吸う。まるで蚊のようにしてね」

「だから、こんな傷がつくのか」

「そう言うこと、それと影鬼は吸血鬼は吸血鬼だけど、どちらかというと寄生生物みたいな感じね。寄生した宿主を擬態として使い、夜に一度は宿主を解放しなければならない。さらに捕食は寄生している本体じゃなければ出来ない」

「つまり?」

「影鬼は宿主がいて、宿主と影鬼を引き剥がす必要がある。宿主の体を使って太陽を遮断して昼間でも活動を可能しているの。そして、宿主を使って効率的に餌を捕食している」

「じゃあ、太陽を克服した訳じゃない」

「ええ、あと被害者を発見した路地を見て」


 カオルは死体を見つけた路地を見た。

 確かにここは全体的に薄暗く日が当たっていない。

 これだったら影鬼も日中に活動できる。

 

「この路地なら、都合のいい狩り場になる」

「ティア、死体を調べてるけど何かわかったか?」

「少なくとも宿主については二つ、目処がついた」

「えっ、結構分かるもんだね」

「二つよ。二人じゃない。まずは死体の状況報告を簡潔に言うよ」


 第一に被害者は影鬼という怪物に襲われたにも関わらず防御創がなく致命傷である左胸部の刺し傷だけ。

 第二に遺体の刺し傷の辺りに微量の血痕があり、壁にも数滴の血痕や血液のシミがある。

 第三に死体の周りには何か引きずった跡があり、それが路地の日当たりのいい方に続いてる。


「まず、防御のための傷がついてないことを考えると親しい人物か信用に足る人物かのどちらかってことになるのか。ティア、目処がついていっていってたよな」

「ええ、一つは娼婦、二つ目は肉親よ。一つ目はちょっと探せば確実にいるはずよ。二つ目は地道に探すしかないけど」

「待って、肉親を当たるならまず、こいつの身元を確認をしきゃなりないぞ」

「死体の服を探ってみた?」

「いや、ひっくり返した以外なにもしてないぞ」

「じゃあ、調べ……。いや、いいよ。死体と服の状態から見て一日か二日たったってところでしょ。ここは貧民地区(スラム)、死体を一日でも放置していると確実に何か盗まれてる」

「じゃあ、特定は難しいってことか」

「娼婦さんを当たるしかないね」

「てか、何で娼婦さんなんだ? それだったらこども怪しいんじゃないのか?」

「そんなの簡単よ。娼婦を買って暗い路地で情事を起こしていたら確実に無防備でしょ。影鬼が娼婦だったら確実に殺られているよ」


 カオルたちは次に傷口の血痕と壁の血のシミを調べはじめた。

 壁のシミを見るとやはり殺されてからまだ数日とたっていない。

 付着した血痕と壁のシミをティアは人差し指で数となぞり、血をまじまじと観察するとその人差し指をペロリと嘗めた。


「ティア! 何やってんだよ!! 病気になるかもしれないだろ」

「大丈夫よ。私、というか魔女流派以外の魔人は皆、疫病や風土病、性病というか基本的な病にはことごとくかからない。もっと言えば病気にならないように耐性がつくられているから」

「え、じゃあ俺はなるんだ」

「残念ながらね」


 するとティアは日当たりの路地に続く引きずったような痕跡に目をやり、長大な変形ライフルに手をかけながら一気に駆けた。


「どうしたんだ?」

「加害者は事件現場に戻ってくるか……。カオル、やつは近くに潜んでいるよ」

 前に出てきたこの世界のドラクリア城がある地域一帯で使われている通貨ユールですが1ユール=100円となります。

 1ユールは青銅貨

 10ユールは銅貨

 100ユールは銀貨

 1000ユールは金貨

 こんな感じになっています。

 この通貨以外にも三種類の通貨が存在します。

 それは追々、物語に登場する予定です。

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