12 歓楽街
あけおめことよろと言うことで今年もこの黒衣の魔人をよろしくお願いします。
「なぁ、まだか?」
「あと、もう少しだよ」
俺とティアと握手を交わした後、ホワイトウェーブから馬でラットバックという歓楽街に向かっていた。
最初は感動していた草と日が照す舗装されてない道だが、こうも同じ風景が続くと流石に飽る。
しかも、人が通るか寂れた荷馬車が通るかだ。
「出発してから八日って、さすがに遠すぎだよ」
「うるさいな。あたしだって飽き飽きしてるんだからそんなこと言わないでよ。余計に遠く感じるでしょ」
「へいへい」
俺は自分の肩に掛かる髪を後ろへかきあげてのびるをする。
するとティアが前を見上げると急に走り出した。
「お、おい。どうしたんだよ!?」
「街よ。ラットバックについたんだよ」
「まじか、ようやくだな」
俺はティアに続いて走り出し、草が生え放題の畦道を一気に走った。
はぁ、はぁ、と少し息切れをお越しながらティアについて行く。
やっぱり、初めての場所に行くのはちょっと楽しいしワクワクする。
そのワクワクに俺の両足は動かされ、どんどん速度が上がっていく。
そして、煉瓦の敷き詰められた道に出た。
いままで補装されてない道が殆どだったため新鮮に思える。
その道の先を眺めると、そこには光り輝き、七つの光を放つ美しく堅牢な街があった。
「ここが…」
「ラットバック、歓楽都市ラットバックよ」
パリのように美しい街並みとラスベガスのような光を放つラットバックに俺は釘付けになっていた。
「さあ、影鬼を狩るよ」
「了解だ」
俺とティアは勢いよく街に入った。
◇
歓楽街ラットバックの貧民地区の一画、そこには七色に光街には相応しくないとても深い闇が存在していた。
昼間は貴族による税金徴収という名の略奪と窃盗が横行し、夜には犯罪者や犯罪組織の破落戸が街を闊歩する。
この街では、正しきは生き残れず、悪しきが生き残る。
そういった、歪んだ形を成した街になっている。
だが、そんな街にも楽しみの一つや二つはある。
貧乏人相手に貧乏人の女が格安で体を売っているのだ。
性病に犯され娼婦として働くことがままならない女性や生まれつきの障害などで娼婦館に雇ってもえなかった女性など様々だが皆、貧困に苦しでいた。
今日もそんな貧乏人の傷の嘗め合いが行われていた。
「ねぇ、おじさん。私を買って……。安くするから」
「ああ、今は金がねぇから。無理だ」
「ねぇお願い、食べるのに困っているのお金がないの」
「いや、だから無理だって」
小さな十代前半の可憐な少女が道を歩く小汚い中年男性の腕を引きしきりに誘っている。
男性のほうは機嫌が悪かったのか、青筋を浮かべ腕を勢いよく振り上げた。
「しつこいんだよ! このガキ」
「きゃあ!」
男の拳が少女の顔を捉え、鈍い音ともに少女の体は宙に舞った。
男はその場で舌打ちをし、きびつを返した。
「あなたもお兄ちゃんと同じで見捨てるんだ、皆、皆、イヴのこと」
「あんだよ」
「嫌いなんだ」
その後には、夥しいほどの返り血と誰かわからないほどにズタズタにされ干からびたミイラのような死体があり、その隣には口元真っ赤にした金色の少女が佇んでいた。
ひたすら、狂った笑いを高笑いをしながら。
◇
「うおおお、ホワイトウェーブよりも綺麗だな。彼処もそれなりによかったけどさ」
「まぁ、ここは国一番の歓楽街だからね。遊ぶとこはともかく、宿泊施設もそれにあるよ」
「へぇ~」
俺とティアは夜もまだ来てないのに異様なほどのお祭り騒ぎで賑わうラットバックの大通りであるフェレンス通りを歩いていた。
周りには屋台が並んでおり、皆、客を呼び込もうと頻りに客引きをしている。
その通りは食欲をそそる料理のいい匂いが漂ってくる。
その光景と匂いのせいか自然とだが腹が大きな音をたてていた。
「いや、わっ悪い」
「いや、あたしも少しお腹空いていたしちょうどいいから何か食べましょうか」
「おっおう」
「それと調査もしないとね」
「あっ、そうだった」
ティアは適当な屋台をみつけるとそこにサッと並んだ。
厳つい顔で寡黙な雰囲気を醸し出す店主が客の受け答えをしている。
ティアの順番になり店主はティアに顔を向ける。
店主はティアの金色に輝く瞳を見ると顔をしかめ厳つい顔をより一層、厳つくする。
「何になさいます。お客さん」
「ええと、サバサンドイッチを二つほど」
「わかりやした。二つで200ユールになりやす」
「そう、それとここら辺で事件とかないかな」
「事件? どんなもんなんです?」
「ええ、たとえばミイラみたいな変死体が発見された事件とか」
「いや、最近は至って平和でごせぇますが」
「そうそれならいいよ」
一通りの会話を終えると代金を払ってサバサンドイッチを受け取り、ティアは近くのベンチに腰を掛け、カオルにサバサンドイッチを手渡した。
「大通り側をもう少し調べましょう」
「えっ、あれで終わりじゃねぇの?」
「あんた、バカなの? 聞き込みがあれで終わりなけないじゃん。情報は足で稼ぐ! これが基本だよ」
「刑事ドラマかよ」
「なに?」
「何でもありません」
カオルとティアは屋台で買ったサバサンドイッチをほうばりながら会話を進めた。
にしても、このサバサンドイッチパサパサして食べにくいな。
焼き魚にはやっぱり、白米かな。
「まず、ホワイトウェーブと同じように貧民地区から攻めていくのか? それともこのフェレンス通りで情報収集する?」
「そうね。貧民地区で情報を集めましょう。影鬼がこのラットバックに潜んでいることには間違いないでしょ。でも具体的な目撃情報がないとちゃんとした潜伏場所が分かりようにない。なら、奴の習性を利用して潜伏場所を大まかに割り出すしかないよ」
「だけど、フェレンス通りを見て思ったんだがこの街、すごく広いぞ。大通りがこの広さなら貧民地区もそれなりにデカイだろ」
「ええ、でも当てがないわけじゃないから」
ティアはベンチから立ち上がり、街の地図を取り出して鉛筆のようなものでフェレンス通りを表記された場所にぴっと線を引くと物憂げな表情で貧民地区のある場所を見ていた。
「何年たってもあそこだけは変わらないか…」
腰に帯刀した武器にそっと手を置き、悲しみと優しさが混じった表情でティアはカオルを見た。
今回は少し短めです。
これからよろしくお願いします。