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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

非処女アレルギー

作者: 夏川優希


「うー痒い痒い……」

「どうしたんだ? わっ、酷い蕁麻疹だな」


 友人の中岡が俺の腕を見て目を丸くする。

 シャツの袖で腕を隠しながら俺は苦笑いした。


「ちょっとアレルギーがあってな」

「へー。そういえばお前時々手袋つけてるよな。変なものでも触ったのか?」

「いやその、プリントを受けとるとき水城さんの手にうっかりさわっちゃってさ」

「水城……って、図書委員の? アイツの手にかぶれたってのか? 化粧品アレルギーかなんか?」

「いや、女性自体にアレルギーがあって」

「はぁ? そんなアレルギー聞いたことないし……第一、お前俺の妹と手をつなげてたじゃないか」

「子供は良いんだよ。問題は大人だ」

「成人はダメってこと?」

「そういうわけでもなくて……」

「なんなんだよもー。ここまで来たらハッキリ言えよ!」

「じ、実は」



「ひ、非処女アレルギー?」


 中岡はまた目を丸くする。俺は静かに頷いた。

 

「ああ。男性経験のある人に触れると触ったところがかぶれて蕁麻疹が出る。詳しくは分からないが男性経験のある人間から出る特殊なフェロモンにアレルギーがあるらしい。フェロモンの出ない年配の女性には触れるんだが」

「難儀なアレルギーだなぁ。あっ、そう言えばお前この間宮野に腕触られてたけど……」

「……蕁麻疹は出なかった」

「すっ、すげえ! じゃあお前、女子に触れば処女かどうか分かるのかよ!」

「いや、まぁ……そうなっちゃうけど」

「マジか、本当に凄いな!!」


 中岡は興奮気味に鼻息を荒くした。

 そして彼は俺の腕をつかみ、おもむろに頭を下げる。


「なぁ……お願いがあるんだけど」











「やめといたほうがいいと思うぜ」

「ここまで来て何を言うんだ!」


 俺はでかでかと貼っている『すたぁ☆えんぜる 握手会』のポスターを見ながらため息を吐いた。


「あのさ、アイドルが処女かどうか調べてどうするんだよ。それで処女だから、非処女だからなんだってんだ。それってそんなに大事な事か? 今からでも間に合う、この握手券はファンのお前が使え。それが正しいアイドルとの接し方だ」

「お前はアイドルの処女性の大切さを何もわかっていない!!」


 中岡はジェスチャーを交えながら鼻息荒く熱弁をふるう。


「アイドルってのはファンの皆の物なんだ。一人の男の物になってはならない! 処女かどうかってのはアイドルの売りの一つ。もし非処女だったら人気はがた落ちだ」

「だったらわざわざパンドラの箱を開けるような事するなよ。見た目じゃ分からないんだから、処女ってことにしとけばいいだろ」

「そう言う問題じゃない! それに――」


 一気に中岡の顔が曇る。彼は声のトーンをそっと落とし、あたりを無駄に気にしながら口を開いた。


「実はみっちぃ……俺の推しメンなんだけど、彼女に熱愛疑惑がかかってるんだ。男と歩いているのを見たって話が、ネットでまことしやかに囁かれている。もちろん写真とかの証拠はないんだけど、もう気になって気になって夜も眠れない。頼む、苦労して握手券も手に入れたんだ。俺を安眠させてくれよ……!」

「分かった、分かったよ。その代り、どんな結果になっても知らないぞ。身体は嘘を吐けないんだから」

「ああ、俺はみっちぃを信じているからな。きっと大丈夫だ」

「それにしても、この握手券入りのCDってもう売り切れててプレミアもついてるんだろ? 金がない金がないってぼやいてたお前がどうやってこんなもの手に入れたんだ」

「みっちぃへの愛がなせる技さ。さぁ、行ってきてくれ。そしてみっちぃの純潔を証明してくれ」

「……ああ」


 そうして俺は中岡に背を向け、会場へと赴いた――











 握手を終え、会場を後にした俺はすぐに落ち着かない様子でうろうろしている中岡を発見した。


「よぉ、中岡」


 そう声をかけながら近づくと、中岡はハッとした顔を見せすぐに飛んでくる。


「どうだった? どうだったんだよ!!」

「こうだったよ」


 俺は袖を捲った左腕を中岡の目の前にかざす。

 中岡が俺の真っ白でツヤツヤした皮膚を目の当たりにすると、目を輝かせながらその場で子供のように飛び跳ねた。


「やっぱり! やっぱりみっちぃは俺の天使だったんだ!! そうだよな、そうだよ……ははは、ははははは!」


 中岡は涙を流しながら喜ぶ。

 そう、これで良かったんだ。これで。


 俺は中岡に気付かれないようそっと右手に手袋をかぶせる。痒くて痒くて、仕方がなかった。

 しかし中岡にそんな残酷な事実を突きつけることはできない。この事は俺の胸の中にしまっておこう。


「ありがとう、本当に……ありがとう!!」


 中岡は興奮と喜びのあまり俺に抱きついてきた。

 中岡はこんなに喜んでいるんだ。本当に、良か――


「うっ!?」


 俺は猛烈な痒みを覚え、反射的に中岡を突き飛ばした。中岡は衝撃で地面に倒れ込む。


「なっ、なにすんだよ!」

「それはこっちの台詞だ……お前なにしたんだよ!!」


 中岡に触れられた俺の首、腕、顔に酷い蕁麻疹が浮かぶ。

 これは、間違いない。アレルギー症状だ。中岡に反応した、アレルギー症状――


「ふ、はははは。そうか、男にも反応するんだな、お前のアレルギー反応は本当に精度が高い」


 中岡は泣きそうな目で、そして口を歪めて笑った。


「握手券を貰うのに……金が必要だったからな」

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒエッ……www オチで笑いましたw
[一言] そういうことか…
[良い点] 落ちが綺麗にまとまってて面白い! そして、上手い! [一言] ホラーじゃないですか。 中岡くんの執念が…
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