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センチメンタル☆アイドル

作者: 凸神 桜花

大学の文芸部の一題噺「アイドル」で書いた話です。

 コンコン、と二回ノックをした。中から返事はないが人の気配はするので、おそらくいるのだろう。


 私は軽く一回ため息をついて入るよ、と一回声をかけた後にドアノブに手をかける。


 ドアの鍵はあいていた。


「おーい……生きてるー?」

 そう声はかけたものの、扉を開けたら机に突っ伏して呻いている彼女が見えたのでとりあえず生きていることは分かっていた。


「うう……秋ねえ」

 彼女は顔を上げてこちらを見てきた。その目は少し潤んでいて、涙の後が残っていた。


「マネージャーと呼べといつも言ってるでしょ」


「秋ねえは秋ねえじゃん」


 私こと篠原秋音と彼女、前原聖佳は小さいことからの幼馴染だ。といっても、私の方が五つ年上で、彼女は幼馴染というか妹のような存在だ。


 五つ年上ということで、小中高と、学校自体ではあまり関わりはなかったが数奇なことに、仕事では私たち二人には密接な関わりができた。


「──で? 今度は何をやったの?」


 私がそう聞くと、聖佳はばつが悪そうに目をそらしながら、ぼそっと呟くように言った。



「道ばたで歌ってた」


 ある程度予想はついていたがやっぱりか……。


 私は再び一回ため息をついた。


「警察のおじさんは次見たら逮捕する、って」


「あんたねえ、この前あれほど止めろって言ったでしょ!?」


 私がそういうと、彼女はうつむいて黙ってしまった。

「勝手にやっちゃダメなのよ。前にも話したけど」


「ねえ、秋ねえ……」


「なに?」


「私って、アイドルだよね?」


「そうね」


「しかも、トップアイドルだったよね……?」


「まあ、確かにそう呼んでも良いくらいの人気は一時期あったわね」



「なんでこうなっちゃったんだろう……」



「時代じゃない?」



「うわーーーん!!!」


 あ、地雷だったか。でも私の指摘は的を得ているはずだ。聖佳には厳しい現実なのかもしれないが、そこは鬼になって現実を見せることもマネージャーである私には少し必要なのだろう。



 ──だから、マネージャーとしてのアドバイスをしよう。


「ねえ、聖佳。そろそろあなたも考えなさい」


「……考えるって何を?」


「引退して転職するか、歌の内容を変えるか──」


「やだ」

 即答だった。


「それじゃ、みんなを笑顔に出来ない。秋ねえ、私はね、みんなを笑顔にしたいの。盛り上げたいわけじゃない」


「でも、このままじゃ──」


「それでも、そこは曲げちゃいけないの。私の歌で一人でも幸せに──笑顔になってくれる人がいたら、私はそれでいい」


 そう言って薄く笑う聖佳の顔は、すっかりアイドルのそれになっていた。こうなると、私は到底聖佳にはかなわない。


 私だって、マネージャーの前に、聖佳のファンの一人なのだから。


「それはそうと、秋ねえ」


「ん? どうしたの……?」


「──おなかすいたあ!」


 そう言って再び机に突っ伏す彼女からは、さっきまで垣間見えていたアイドルの風格はみじんも感じられなかった。まあ、そういうところも魅力の一つと言えるのかもしれないが。


 そして聖佳のその言葉で、私は今日ここに来た理由を思い出した。


「ほら」


「ん~?」

 私は右手に持っていた袋を聖佳の前に置いた。その袋の中身がなんなのか分かると、聖佳の顔はぱあっと一気に明るくなる。


 中身は卵にお肉にお米に塩に…………平たく言えば食料であった。


「うわー! 秋ねえ、いいの!? こんな高級品!!」


「ええ。その代わり、あなたが作ってね。私の分も」


「えー、めんどくさい……」


「じゃあいいのよ? 持って帰って私一人で作って食べるから」


「作ります作ります! 作らせていただきますっ!!」


 そう言って聖佳は急いで袋を持って、キッチンの方に消えていった。


 いつか役に立つかもしれないからお料理スキルも身につけさせようという作戦、とりあえずとっかかりは成功かな? とか思いながら机の前に腰をかけた時、突然目の前のテレビの電源が入った。


 どうやら床についた左手が、埋もれていたテレビのリモコンを誤って押してしまったらしい。映し出されたのはいつも通り、ニュース速報であった。


「──嫌な話ね」


 私はニュースを読み上げるキャスターに向かってそう毒づく。


「わー!! 秋ねえ、助けて助けてー!!!」


 キッチンの方から叫び声が聞こえてくる。一体何をしたんだ。まさか洗剤でお米を洗ったとかそんなベタな真似はしてないとは思うが……そんなことを思いながら、私はゆっくりと立ち上がってキッチンの方へと向かっていった。








『──繰り返します。速報です。我が国とX国との戦争は、X国の卑劣な奇襲作戦により、依然戦況は拮抗中です。ですが、国民全員が一体となれば必ずや戦況は──……』




この話はちょっとした試作で書きました。

一回目と二回目で話の雰囲気が変わるものが書けないだろうか、ということが狙いでした。

ちなみにタイトルは通常の意味の「センチメンタル」と「戦地のメンタル」をかけたつもりでした^^;

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