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ウイザードとウィッチ 1 

 第五ゲートを抜けると、頭上には青空が広がっていた。

 外は雨だったはず。小川は車から降りてドームを見あげた。

「見かけの天候も変えられますので」

 振り返ると事務官の隣に長身の男性が立っていた。

「はじめまして。ドームの事務室長のノア・アレクシス・椎葉です」

 年の頃は五十前後か。黒檀の肌に整った彫りの深い顔だち、短く刈り上げた髪。麻のスリーピースをまとい、細身ながら、まるで草原に立つ戦士のようだ。

「小川晴哉です」

 握手しながら、小川はかすかに顎をあげていることに気づいた。身の丈は二メートル近くあるようだ。

「それでは、わたしはこれで」

 事務官は椎葉室長に引き継ぎをすると、再び車に乗り去っていった。

 ゲートが硬く閉じていくのを小川は見ていた。外出は年に二回ほど。それも自由というわけではないという。

 一見すると、緑に囲まれたキャンパスのようだ。中央の五十階建ての居住棟を中心に、それを取り囲む三棟は、災害救助用ロボット開発研究所、地震予知研究所と放射線影響研究調査室だ。

 ここは閉ざされた小さな世界なのだ。

「こちらへ。応接室でお話しいたしましょう。管理統轄責任者の所長と医務室長も参りますから」

 椎葉室長は正面の入り口をくぐると、建物をつなぐ回廊へと小川を案内した。

「助かります。この施設はいつも人手不足なので。まずは取り急ぎ、これだけ」

 椎葉室長は足を止めて、銀の鍵を小川に手渡した。

「マスターキーです。エレベーターなどで閉じ込められた際にお使いください」

「閉じ込め?」

 小川は鍵を手の中で滑らせた。

「いたずら小僧がおりますので」

 いかつく見える椎葉室長から、思いがけない言葉が飛び出し、小川はぽかんとした。

 と、通路の奥から騒がしい音が響いてきた。室長が振り返り、小川はその背中越しに見やった。

「年寄りをっ…走らすな!」

 だみ声と荒々しい数人分の足音が近づいてくる。先頭を走っているのは長い髪の小柄な姿だ。

「シイバ、捕まえろ!!」

 室長の動きは素早かった。大きな体と長いリーチを生かして通路を塞ぐように立ち、駆け抜けていく人影を抱き止めようとした。

 が、そのままの勢いで室長にぶつかるかに思われた人物は、信じられないような姿勢で腕をかいくぐり、後方に抜けた。

 小川は脇をすり抜けていくものに、とっさに手を伸ばした。

 なびいた薄茶の長い髪を指が絡めとる。

 ぶつっ、と音がして髪が抜け、驚いたようにそれは立ち止まった。

「わっ!」

 指にひとすじの髪があり、小川は目を見開いた。

 その先に素足が見えた。あわてて顔をあげると、裸の子どもがいた。ローティーン特有のまだ筋肉がついていない、つるんとした性別の判断がつかない体。

 真ん中から分けた艶やかな髪のあいだから、緑の瞳がのぞいている。

 小川は刹那、その人物と目が合った。

「カナタ!!」

 声に反応するように、裸の子はあっというまに走り去った。

 カナタ…?

 小川は腰が抜け、へたりこんでいた。

「役立たずども!! なんで捕まえられない」

 だみ声の初老の男性は禿げあがった頭ごと顔を赤くして室長と小川に悪態をついた。

「カナタの身体能力にかなうはずがないでしょう、丸子博士」

「それでもボクより動けるだろう!? 貴様も、貴様もだ!……ってだれ?」

 丸子博士と呼ばれた男の怒りは小川をまじまじと見ると、急速に失せていったようだ。

「小川晴哉博士、あなたと同じロボット研究所の新メンバーですよ」

 丸子についてきた職員たちも、一様にうなずきあう。

「ああ…じゃあ挨拶はあとだ」

 捨て台詞のように言い放つと彼らはカナタの後を追いかけて行ってしまった。

「あれがいたずら小僧です。大丈夫ですか、立てますか?」

 カナタ、さいごに作成されたロボット。小川は落としたスケッチブックを拾いあげた。

「ギンガ、リュウセイ、ユキ、ハナ、トワ、クオン、イノリ、アカリ、ハルカ、カナタ」

「小川博士?」

 小川は無意識のうちにロボットの名前を列挙していた。

「ハルカ、カナタ・・・カナタ」

 小川は椎葉室長の手を借りて立ちあがるまで、しばらく残った髪の毛を見つめていた。



小川博士のウキウキ・ドーム生活が始まる(嘘)

リュウセイは「流星」ではなく「瑠星」だったりする。

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