王女の一計
アンドルトン公爵からすぐに帰るようにと知らせがきた。そういつまでも、手紙一つでリリアの滞在を引き延ばせるわけでもない。けれど、リリアは、まだカエルの姿のままである。
そこで、アリシアは一計を案じた。
シュバルツの力で侍女のミアの姿を変え、リリアとして帰宅させることにしたのだ。偽装が明るみにでないよう、ミアはリリアから思いつく限りの教示を受けた。
いよいよリリアになったミアの出立というとき、アリシアは見送りに出ようとしたサラザールに声をかけた。
「少しの間、リリアを預からせてくれ」
手を差し出すと、リリアは素直にアリシアの手に跳び移った。
アリシアは、そのまま小さなカエルを傍らのシュバルツの手に渡す。首を傾げるサラザールに、
「リリア抜きで、少し話がしたい」
とアリシアは説明した。
「今ですか?」
突然の申し出に戸惑うサラザールだったが、アリシアは構わない。
「ミアも少し待っていてくれ」
支度の整ったミアにもそう声をかけ、任せたぞとシュバルツに言う。
それから、アリシアはサラザールを伴って、廊下を進んだ。
リリアに声が聞こえないくらいの距離を空けると、アリシアは立ち止まり、サラザールに向き直った。
「リリアが元に戻るまで、このまま、あがき続けるのか?」
リリアに背を向けたサラザールに、アリシアは切り出した。
「もちろん、全力でリリア様を元に戻そうと思っています。……それ以外に、何か?」
サラザールは、アリシアが何を聞きたいのか理解できなかった。
「リリアのことを、どう思ってる?」
アリシアは核心をついた。
サラザールは、幾分か驚いた様子で、ほんの少し目を見開いた。けれど、すぐにいつもの柔らかな微笑をたたえ、
「私などが評するのもどうかと思いますが……、可愛らしい姫君です」
と答えた。
「……らしい答えだな」
アリシアは、サラザールを見ていた視線をリリアに移した。
「リリアの気持ちを知っていて、そう言うんだな」
「ご承知の通り、私は人ではありませんし、ただこの城の管理人としてこちらに置いていただいている身ですから」
「それでもいいと、リリアが言ったら?」
アリシアは、確かめるようにサラザールを睨み据えた。
「……こどもの気の迷いですよ」
アリシアの視線を受け止め、サラザールは断じたのだった。
アンドルトン公爵家からやって来たリリアの迎えの馬車には、どことなく浮き立つような雰囲気があった。
立って見送るアリシアとシュバルツの後ろに控え、頭を下げるサラザールの思いは推し量れないままだった。
そうして、リリアの姿が去り、幾日かが経った。
小さなカエルは、いつ正体が明るみに出るかと心配そうで、アリシアが、こまめにアンドルトン公爵家へ顔を出し、リリアの様子を確認するようにしていた。
その日も、公爵家へ行っていたアリシアだったが、戻った途端、いつものように小部屋で力を試すサラザールとカエルに言った。
「リリアの縁談が決まったそうだ」




