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ブラン城の管理人 2

 一緒に菓子を摘まみながら、とりとめもなく話をする。サラザールは、よい聞き手であり、話し手だった。

 「クライス様が即位されるのは、いいけれど...」

リリアは少し言葉を濁す。

「王妃様になる方は大丈夫かしら?」

「それも、アリシア様がお城に呼ばれる理由のひとつですね。少々不安に思われているご様子ですから」

サラザールは淡々と言った。

「フィーリア様をご存知なの?」

管理人である以上、王宮には上がったことのないはずのサラザールが皇太子妃のフィーリアのことを知っているわけがない。けれど、サラザールはまるで知っているかのように言ったので、リリアは思わず聞き質した。

「存じ上げているわけではありませんが、アリシア様から聞き及んでおります」

サラザールはさらりと受け流す。

「お優しい、おとっりとした方で、権勢と無縁の方だと」

 ツェズ伯爵の娘フィーリアは、クライス王子が切に望んで迎えた妃だった。三年ほど前の婚約騒動は、リリアも覚えている。今や、二人のなれ初めは、貴族の子女の憧れとなっていた。

 「フィーリア様のように求められたら、素晴らしいと思わない?」

リリアが、目を輝かせて聞くと、

「私は男ですから、求められるよりも追う方がいいですが」

そう言って、サラザールはまた一つ菓子を摘まむ。

「私が追いかけてほしい方は、知らん顔だけれど」

「リリア様に知らぬ顔ができるとは、余程の身の程知らずですね」

「それ、どういう意味?」

「まだ恋に恋するようなお年頃なのですから、可愛い妹君が増えたように喜べばいいんです」

リリアが水を向けても、サラザールは思うような反応をしてくれない。

「妹扱いしてほしいわけじゃないわ。私だって、立派な淑女レディよ」

リリアがむくれると、

「そういうのが子供っぽいと思われるのですよ」

サラザールは優しく頭を撫でてくれた。

 ナニカガチガウとも思うのだが、サラザールの手のぬくもりにこのまま浸っていたいとも思うリリアなのだった。



 今日も勝手知ったるリリアが、ブラン城にやって来ると、侍女のミアに出迎えられた。いつもなら、サラザールが出てきてくれるので、不満が顔に出ていたのだろう、ミアが言った。

「サラザール様なら、今日は大事なお仕事があるとのことです」

「おねえさまは?」

「あいにく、シュバルツ様とお出かけです」

ブラン城の主夫妻は、仲良く遠乗りに行ったりすることも多いので、揃って不在でも珍しくはなかった。

「そう...」

肩を落とすリリアに、ミアは、

「お茶でも飲んで、待たれますか? なんとか、お呼びしてみます」

とサラザールを仕事から引っ張り出すことを提案した。

「ありがとう、ミア!」

リリアは両手を重ね合わせて、大喜びである。

 これが少し以前なら、リリアはミアの首に飛びついてきたかもしれない。彼女も成長しているのだった。

 

 リリアは、いつもの部屋でお茶を飲みながら、サラザールを待っていた。

 が、彼は一向に現れない。ミアが姿を消して、もうずいぶんと経つ。退屈になってきたリリアは、部屋を出て、長い廊下を横切り、大広間を突っ切った。

 ほとんど人の気配がないのに、整然と手入れされた城は、改めて思えば、不思議だった。本当にここには、サラザールとミア以外の使用人はいないのかもしれない。あまりの人気のなさに、リリアは少し不安になってきた。

 これがいつもなら、アリシアがいて、輝くような存在感に包まれていたり、サラザールを振り向かせようと必死だったりするので、勝手が違うのだった。



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