01
オレの生まれた世界が終わる前日。
人々はいつもとなんの変わりばえもしない日常を過ごしていた。
「神は仰せ付けられた。大事に慌てることを愚の骨頂と知れと」
「つまり世界が終わると知っているのに何もしないで死ね、と?」
「神の言われたことだ。仕方がなかろう」
「神が?だから仕方ない?」
「そうだ」
「世界が終わるってぇのに…自分が死ぬってぇのに!それがわかってんのになにもしないで今日を過ごせってのかよっ!!」
「そうだ。全ては神が仰せ付けられたことだ」
「神ってぇのが言ったことがそんなに大切なことなのか?あんたはそれで満足なのか?」
「口を慎めっ!!若造がっ!!まだお前ぐらいの若造にはわからんかもしれんがな。神は我々にとって絶対的な存在だ。そして、今まで我々を守ってきてくださった大切な方だ」
「…」
「神の教えは絶対だ」
「じゃあ、あんたは神に死ねと言われたら、死ぬのか?」
「あぁ。死ぬ。神の仰せ付けられたとあれば喜んで死ぬさ。若造」
「何も残さないで、か?」
「それが神の望みとあらば」
「もう一度問う。妻、子、友人、愛する人達、大切な人達に別れも告げずに、か?」
「なっ―――」
「そういうことなんだよ。あんたのいう神が望んでいることは」
「…」
「じゃあ。オレはヒトを世界を創ったのは神だと認めよう。それでも、そのヒトの生活を築き上げたのも本当に神だと言えるのか?仕事して、遊んで、寝て、大切な人作って」
「それは――」
「言えないだろう。だからだよ。神が世界を創ったんだから壊すのも勝手だよ。仕方がないさ。それは運命だ。諦めよう。」
「……」
「でも、オレ達の生活はオレ達で築き上げたんだ。何故、自分達が作り上げたものまで壊されなければいけない。そんなのは間違ってる」
「うっ…」
「せめて、俺達自身で壊す時間をくれてもいいはずだろうが」
「……」
「違うか?」
「確かに、な。若造、貴様の言う通りかもしれん」
「だったら後悔しないようにどこにでも行ってこいよ」
「しかし私にはここに住み込みでお前を見張ると言う神に決められた義務が―――」
「あんたの大切な人は誰だ?」
「私には―――娘が一人と孫は双子の女の子が。まぁ。こんな仕事してるおかげで、忙しくて実際にはまだ会ったことがない――しかし、娘が写真を送ってきてくれたんだ。どうだ可愛いだろう?」
「そうだな。可愛い。すぐに飛んで行って抱き締めたいぐらいに、だろう?」
「あぁ」
「世界の終わりに『義務』なんて言葉は通用しない。もしあるとすれば――残された時間を精一杯に生きて、自分にできることをする――それが『義務』だ」
「随分自分勝手な『義務』だな」
「世界が終わるってのに自分勝手もなにもないさ」
「イタタッ。食事を渡すために鍵をあけるところまではよかったのだが、お腹が痛くなってきてしまったようだ。貴様を見張っていなければいけないのに――」
「おい。どこ行くんだよ」
「便所に決まっておろう」
「―――」
「若造、便所に行く前に聞きたいことがある」
「なんだ」
「貴様は何故ここに入った?」
「生きるための最善の策を実践したからかな」
「フン、そういうと思った」
「なら聞くなよ」
「達者でな。神の御加護があらんことを」
「あんたもな」
オレはその日――世界が終わる前日に暗く冷たい牢獄から脱獄した。
『残された時間を精一杯に生きて自分にできることをする』
翌日、世界は終わった
会話文の練習による文ですので評価はあまり期待してません