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35歳の俺が上司ざまぁしたり、大人って案外楽しいぞと気づいたりする話  作者: VANRI


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己の心、人知らず

 視線を感じ阿部を見ると、子供のように拗ねた顔で睨んでいる。

「ほら〜そうやって二人の世界に入る〜。

何のために俺呼んだのさ〜」


 高橋がパッと何かを思い出したような顔になる。

「あ、阿部!

 こないだ、お前が所長やってた時の部下に会ったんだけど、お前に凄く感謝してたよ」


「え? 俺?」


 阿部は思い当たることが見つからないらしく、不思議そうな顔をして考え込んでいる。

代わりに高橋が口を開く。


「仕事中に、家族から飼ってる犬が死んだって連絡きたらしくて、それ言ったらそいつの仕事引き受けて、すぐに帰らせてくれたって」


「あー……、あったなそんなこと」


「へー……お前、いい上司だな」

思わず呟き、追加する。

「でもペット飼ったことないって言ってなかったっけ?」


「ないない。俺、カブトムシすら飼ったことないんだよね」


 高橋も感心しているようだ。

「それなのに、よく飼い主の気持ちわかってやれたな」


 阿部がビールを飲む手を止め、目を丸くする。

「わかんないよ〜、飼い主の気持ちなんて〜」


「じゃあなんで……」


 阿部はへラッと笑ってみせる。

「わかんないからだよ。

そいつ、その連絡あった時にすごく泣いてて、そんな時にどうしたらいいか、どうしてほしいと思ってるかもわからなかった。

 だから、自分がしてやれる精一杯のことをしただけ」


 息を吐きながら発する言葉が高橋と重なる。

「すげえな……」

「すごいな……」


 この世なんて所詮、他人事だらけ。

それにどう対処していくかが重要なんだろう。


「え? 何が?」

阿部のきょとん顔はもうどうでもいい。


「成瀬……俺たちも、こうでないといけないんだよ」

高橋が悔しそうな顔をする。


「阿部は計算なしで、天然でやってるから恐ろしいよな」

「ああ、今ので阿部の営業所が売上1位だった意味がわかったよ」


「どういうこと?」

阿部はまだその顔で俺たちを見ていた。


 高橋がグラスを持ち上げながら口を開く。

「営業所内のクレームが少ない所ほど売上がよくて、しかも離職率も低いって統計があるらしいよ」


「へ〜……そういや俺、所長やってた時、あんまり部下の退職手続きやったことないかも」


「気付いてないところもお前らしいよな」

フフと高橋が笑いながらグラスを傾ける。


「俺さ〜、所長時代に部下からあんまり仕事の相談とかされなかったんだよ。だからあまり頼られてないのかなって。

 ほら言うだろ、親が駄目な方が子が成長するって。俺がダメダメだから、売上いいのかなって思ってた」


 高橋と目を合わせる。

「まあ……それもないとは言い切れないけど」


「え〜何だよそれ! 褒めたり、けなしたり、結局俺をどうしたいんだよ〜」


「どっちかと言えば、褒めてる……よな?」

高橋を見ると、からかうように何度も頷いている。

「うん、褒めてる褒めてる」


「いやいや〜! 

 人間、嘘つく時2回言うっていうしな〜」


 ビールを飲みながらそれに答える。

「ほんと凄いと思ってるよ。俺ら同期の中で一番出世してる理由がわかってきたし。

 特に俺は、管理職みたいなことし始めて日が浅いから、実際にやってみて、二人ともこんなことやってたんだなって感心するばっかりで」


「そのうち、それが普通になって何とも思わなくなるさ……」

高橋がポツリとこぼした。そして続けて話し出す。


「俺、仕事にいつ慣れるのかなって昔思ってた時に気付いたんだけど、

『仕事慣れた?』って聞かれるうちは慣れてないんだって思ったわけよ。最初は色んな人に聞かれるんだけど、段々減っていって誰も聞かなくなる。

 その時が慣れた時なんだろうなって」


「確かに……。それで言うと、俺まだ聞かれてるわ。

『副所長慣れた?』って。」


「じゃあ、まだってことだね」

阿部が意地悪そうに笑いながら、酒を喉に通し始める。


 ちょっと悔しいが、確かにまだ聞きながらやる業務もあるし、外れてはないと思う。



 阿部がパッと顔を上げた。

「そういや、佐伯さん双子だったんだろ〜?

 マキちゃんに似てるな〜とは思ってたけど、リアルマキちゃんだったとか凄くない!?

お姉ちゃんはリカって名前だったり、その下に三つ子の弟とかいない!?」


「いるわけねえだろ! 

そのネタわかんねえから止めてくれ……」


 高橋が興味をもった様子で、つまみを食べながら会話に入ってくる。

「で? どんな感じだった? 

 双子の……妹だっけ?」


「ああ、ある意味似てるような? 似てないような……」


 二人を比べながら思い出す。

 見た目は全然違うようで、ふとした表情とか似てるところもあるんだよな、でもお互いを想い合ってるところは似てる。


「フ……なんだよそれ。全然わかんねぇ」

「はぁ〜……俺も良くわかんねぇわ……」


「でも見たい見たい! いつか紹介してよ!」

阿部は何にでも興味津々だ。


「機会があったら……な」

でも、ないだろうなぁ……。

一緒に飲み行こう! ってタイプでもなさそうだし。






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