それぞれの闘い方
「前から思ってたんだ!!
お前たち、この事務所の奴らみんな危機感がないんだよ!」
「危機感……?」
「みんなでポワポワしてて幼稚園みたいじゃねえか!
俺の営業所はみんなギスギスしてるが、同僚を蹴落としてまで上に行こうという、向上心の強い奴ばっかりなんだよ!!」
「良くない? 幼稚園。可愛いじゃん。
俺はギスギスよりポワポワが好きだけどな〜」
真田の怒りは収まらない。声がさらに大きくなる。
「ふざけんな!!」
「まあ落ち着けって。
俺たちは起きてる時間のほとんどを仕事で過ごすんだよ、
それなら楽しい方がいいだろ。
難しい話じゃないさ」
興奮が冷めないので、とりあえずソファに誘導し座らせる。
「それはそうかもしれないけど、そんな甘い事言ってるから売上も伸ばせないんだろ!!」
真田の反応を見ながら、ゆっくりした口調で言ってみる。
「……そうかもな。実際ガツガツしてるお前の営業所は売上いいもんな。
ただ、俺たちも向上心はあるんだよ。
必要なら休みの日でも研修や勉強会に行って、そこで得た知識を他の社員に伝えたりしてるし。
やり方が違うだけで、目指している所は一緒だと思うけどな?」
真田はまだ鼻息荒いが何も言い返さない。
ちょっとは落ち着いてくれたか?
顔が険しいけど。
「おつかれ〜」
高橋が所長室に入って来た。
「えっと……真田……副所長だよな……」
と独り言のように呟く。
「え? お前知ってた?」
高橋の声に思わず反応する。
「いや、今本部で聞いて来た。
それで? 今日は何の御用ですか?」
荷物を下ろしながら高橋が真田に投げかける。
真田は立ち上がり、高橋の机に資料を広げ俺に説明したように話し始める。
高橋は資料の隅々まで目を通し、パソコンを使ってその会社についても調べている。
そして言いにくそうに言葉を発する。
「それで……取り分なんだが……」
高橋は資料を机に置き、深く椅子に座り直し腕組みをした。無表情で何か考えているように見える。
「いいですよ。こっち3、そっち7で」
真田に全部言わせる前に答えた。
「え……?」
顔を見なくても真田が驚いているのがわかる。
高橋が真田の背後の俺に声をかけた。
「いいよな、それで」
「ああ、俺もそう思ってた」
真田は驚いた顔のまま俺を振り返り、それを聞くと安堵の表情を浮かべた。
高橋が座ったまま笑顔で真田を見上げる。
「そちらの営業所の売上がいいので、地区の売上金額が下がることなく経過しているようですね。
お陰でうちは楽しくポワポワして仕事が出来ています。ありがとうございます」
あら、ポワポワ発言聞いてたんだね。
俺たちの会話聞いていて、ちょうどいいタイミングで入って来てくれたのか。
こう言われたら真田も悪い気はしないだろうな。
真田は何ともいえないような顔をしていたが、
「ありがとうございます」と言って深々と頭を下げた。
真田が去って行くのを見送っている時、高橋が俺を見て笑う。
「フフ……驚いたか?」
「……ああ、あんなに仕事熱心だと思わなかった。
売上取るためなら、何でもしていいって考えだと勝手に思ってたし……」
「あいつは前からああだよ。曲がったことが大嫌い、みたいな。真面目過ぎではあるけど。
だからあいつから何言われても、ちゃんと信念ある奴だからあんまり頭にこないかな。
まあ、口は悪いけど」
「ハハッ……ほんと口悪いよな」
「あれで態度とか言葉遣い改めれば、男女共に支持されるだろうに」
高橋がインスタントコーヒーを作り始めた。
コーヒーの心地よい匂いが室内に染み渡る。
真田がどんな奴かわかって良かった。
宝物を手に入れたような満足感を感じる。
――――――
コピーをとっていると声をかけられた。
「お忙しい所すみません、成瀬さ……副所長」
桜田の補充で入った佐伯さん。確か同じ位の年だった。大人しい感じで、肩までの少し茶色がかった髪の女性。
「ああ、名前でもいいよ。誰も副所長なんて呼んでくれないし、堅苦しいの苦手だし」
軽く笑って返す。
「……は、はい。あの、この書類の日付が間違ってないかと思いまして……」
書類を受け取り確認する。
「あ〜本当だ。書き直しておくよ」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
「こんな細かい所まで気づいてくれてありがとう。
仕事は慣れた?」
話しかけられると思ってなかったのか、少し驚いた顔を見せた。
「は、はい。みなさん優しい方ばかりで、わからない所も丁寧に教えてもらってます」
「それは良かった。わからない事あったら遠慮なく聞いてね。俺でもいいし」
「ありがとうございます」
と、軽く会釈が返ってきた。
が、聞こえるか聞こえないかの微かな声が聞こえた。
「昔から変わってないですね」
……え!? 今なんて言った!?
振り返るが、もうすでに背が遠くにあった。
藤田が笑いながら近付いて来る。
「ハハハ……なんですか、その顔!」
幽霊でも見たような顔してるっスよ!」
……いや、幽霊より怖いぞコレは。




