病み上がりの新たな課題
「ひっでぇ顔……」
鏡で自分の顔を見て思わず呟いてしまう。
二日間寝込んだ後の朝はこんなもんか。
髭は雑に生えまくり、頬も少し痩けたような。
目が窪んでる? 口の中が気持ち悪い。
熱が下がっても病み上がりは中々しんどい。
年々回復力が弱まっているような気もする。
スーツに着替え鞄を持った時に思い出した。
そういえば電話鳴ってなかったっけ。
『着信:真田所長』
え!? 今まで掛かってきた事ないよな?
間違い電話の可能性ない?
もういいや、考えるの面倒だし見なかったことにしよう。
朝から嫌な名前見て気分悪いわ……
――――――
デスクワーク中に社用携帯が鳴る。
『着信:真田所長』
うわ……間違いじゃなかったんだ。
「お疲れさまです……」
「お前のせいで疲れてんだよ!
一回かけてるんだからかけ直して来いよ!」
あ、しまった。反射的に切ってしまった。
またすぐに携帯が鳴る。
電話をとると直ぐに大声。
「何切ってんだよお前!
こっちが話してるだろうが!!」
そうだよな、怒るよな。
ギャーギャー喚いて元気だな。
こっちはそんな元気もねえわ。
「すみません、電波が悪かったみたいで……」
「嘘つくな!! 営業所にいるじゃないか!!」
……え?
立ち上がり辺りを見回すと、営業所入口に携帯を耳にあててこちらを睨む真田の姿が。
あらら、バレちゃった。
今日は確か高橋は所長会議で本部に……
あれ? じゃあなんでこいつはここに?
とりあえずうるさいので所長室に通す。
真田は荒々しくソファに座った。
あー、そういうとこ似てるね、白井に。
「お前が電話に出ないから、わざわざ来てやったんだよ! 今日は……」
俺が座るのも待たず話し始めたので、話を遮る。
「ちょっと待ってください。真田所長って何歳ですか?」
「え? 俺? 33だけどそれが何?」
眉間に皺を寄せた顔を向けられる。
「あーわかった。じゃ俺のが先輩な。
もう敬語使わねえから」
俺は基本的に他の営業所の人には敬語で接する。
年下でも関係ない。社会人として普通のこと。
だけど、こういう敬語が使えない奴は別だ。
「別にいいけど……」
向こうも敬語じゃないので、拒否権はないだろう。
「今日は所長会議だろ? 何で行ってねえの?」
「それは……」
目を逸らされる。
何だ? 何で言葉に詰まってる?
「降ろされたんだよ……」
あまりにも小さい声なので聞き取りづらい。
「は?」
「だから!! 所長を辞めさせられたんだよ!!
売上低かったから!! 今は副所長だ!!」
「え? そうなんだ。全然知らなかった。
じゃあ今所長は誰が……」
「如月がやってる」
まあ順番で行けば妥当だな。
だいたい繰り上げでいくから。
「そっか、それで無茶苦茶な営業を指示してたんだな、売上上げるため」
「違う」
真田は下を向いたまま答える。
「え? 俺たちの客とろうとしたり、他の会社からとったりしてたよな?」
「あれを指示したのは俺じゃない。
少し前から所長業務を外されてたから」
真田が顔を上げ、俺の目をしっかりと捉える。
「あれを指示したのは如月だ」
「如月さんが……?」
あんな可愛らしい笑顔の……
いや、可愛さは今関係ない。
「あいつは手段選ばねえんだよ。
前から薄々思ってたけど、所長になったら一気にやりやがった」
「見た目じゃわかんねーな……」
「それでだ」
真田が姿勢を整え、資料を出し始める。
「今度、そこの大通りのビルにオフィスが入るんだが、大口の契約がとれそうなんだ」
「へー良かったじゃん」
「それが良くねえんだよ!
うちの営業所だけじゃ台数が多いから対応出来ないだろうから、他の営業所と一緒に契約ならいいって言われて、ここと一緒にやれないかと思って持ってきたんだよ」
オフィスの資料と売上の見積もりを手渡される。
「悪い話じゃないだろう?」
「……そうだな。だいぶデカい取引になりそうだな。
取り分は5:5か?」
「それなんだが……6:4とかでお願い出来ないか……」
今まで見せたことのない弱気な顔になり、言いにくそうに言う。
「なんで?」
「今回ので個人売上額を上げて所長に戻りたいんだ……」
「へー出世欲とか? 給料だいぶ下がった?」
「違う! 給料や地位の話じゃない!!
如月の好き勝手にやられたら会社の評判が落ちるだろ!
人のテリトリーにまで踏み込んで。
社内だけでなく社外からも信用されなくなってしまう!」
こいつ意外と仕事のこと考えてるのか……
ただのギャーギャーうるさい奴だと思ってた。
「3:7でもいいよ」
「は? なんで?」
「元の額が大きいから3でも十分売り上げになるし、俺たちそこまで売上にこだわってないし。
まあ、高橋にも確認するけど、同じ意見だと思う」
「そういう所がムカつくんだよ!!」
勢いよく立ち上がる真田。
俺は驚いてそれを見上げる。
「……え?」
お礼言われるかと思ったらブチギレ?




