言葉の大切さ
「あたしのこと、好き?」
「え……うん」
子供が寝たので俺はテレビ観ながらスマホ、嫁はお菓子食べながらコーヒー飲んでる。
そういう時に聞く? 何? 俺、何かした?
しかも、口の中にお菓子入れてもぐもぐしながら。
もっとさ、膝の上にでも座って上目遣いで頬を赤らめながら……とかならさ、キュンッてなって、
ガバッて抱き締めてもうその後は本能に任せて……
なのに、何これ。
「言わないよね、好きとか」
あーそっちね。
好きとか愛してるって言ってくれなきゃわかんない!のやつね。
「ごめん……」
「ごめんじゃないよ!」
あーしまった。回答間違えた。
これから始まるよブチギレモード。
「いっつもそうだよね!!
好きとか愛してるとか可愛いすら言わないくせに、
シたい、ヤりたい、入れたいは言ってくるじゃん!!」
元々機嫌悪かった上に思い出して怒り出してる感じな……
「キスしてって言ったらすぐするクセに!
何で好きとかは言ってくれないの!?」
「なんでだろう……」
「なんでだろうじゃないでしょ!!」
普通に何でだろうって思ってしまった。
だって恥ずかしいし……照れるし……?
何でヤりたいは恥ずかしくないんだろう……
いや、ムードじゃない?
いい雰囲気だから言うのであって……
あ、でも朝起きて嫁見てムラムラきたら……言うよな。
飯食ってる時でも……?
とりあえずいつでも雰囲気関係なくシたくなったら言うんじゃないかな。生理的欲求だから。
お腹空いた時に、お腹空いたって言うのと同じ。
眠たい時に、眠いって言うのと同じ。
「好き」
試しに言ってみた。
「はぁ〜!? 怒られたら言うとかあり得ない!!」
やっぱ言っても怒るだろ。正解がわからん。
というか、お前も言わないよね。
――――――
「真田のとこ売上が上がってるな……」
地区の営業所売上一覧が出たようで、高橋が難しい顔をして目を通している。
「ああ、安田が転職した会社の分を横取りしたみたいだしな……」
その時、俺の会社用携帯が鳴った。
契約先からプリンタについての問い合わせだったので直接行く事にした。
小さな不動産会社、60代の社長一人で全ての業務をやっている。ここで契約したのは一台。俺が契約を取ってから10年以上になるが、何か問題がある時は俺が行くようにしていた。
こじんまりとした小さな事務所。
コーヒーと煙草の混ざった匂いが充満しているが、悪い気はしない。社長はゆっくりとした手つきでパソコンを打っていた。
「悪いね〜わざわざ来てもらって。エラーばっかり出てどうしていいかわからなくてさ〜」
「いえいえ、大丈夫ですよ〜。すぐ終わりますから。
神野社長も大変ですね〜、一人で全部しないといけなくて」
「出世した君に頼むのは申し訳ない気もしたんだが……」
「ハハッ……大した出世じゃないですから。
ヒラに毛が生えた程度ですよ〜」
「これからも君の営業所に頼んでいいんだよね?」
「え? もちろんですが、どうしてですか?」
「こないだ、違う営業所の人が来てさ、今度契約更新する時はこっちの営業所で契約してくださいって言ってきて……」
「え!? 名刺ありますか!?」
名刺を見せてもらうと、真田の営業所の社員の名前。
ここで動揺すると社長が不安になるため、表情を変えず、「そうですか〜でもうちのままで大丈夫ですよ」
と、やんわり伝えた。
先日、部長から厳重注意を受けてから正式な売上目標額に変わった。そのせいで真田の営業所は度々目標額を達成出来ない月が出るようになっていた。
それで、やり方を選ばないようになったのだろう。
「安田の言ったとおりだな……」
帰り道、思わず呟いた。
何か対策を練らないと……
横断歩道を渡っていると、向こうから見たことのある人が来ているのを見つけた。
「如月さん!」
声をかけるとパッと目が合ったが、慌てて方向を変え逃げるように去って行った。
あれ……? 俺嫌われるようなことしたっけ?
―――――
営業所に戻って高橋に言うと、
「それうちのテリトリーだからだろ」
と言われた。
「そっか。本来いない場所にいたから気まずくなったってことか……」
「でも、今のお客さんに影響し始めているから見過ごせないな……」




