見知らぬ女
「成瀬さん、私のことわからないんですか?」
誰この女!?こんな綺麗な人なら覚えておくはずだし……
同級生!? 化粧するとわかんないからな〜。
学生の時のワンナイト!?
そんなんもう名前すら覚えてないわ。
思考回路が大騒ぎしていると、女が身体を寄せてきて小声で囁く。
「これから私と朝まで過ごしませんか?」
「いえ! 大丈夫です!」
思わず即答。
興奮なんかしない。怖いって!
いきなり知らない女とベッドに入れるほど度胸ねえし、このご時世何があるかわからない。
嫁を裏切れない……とかの葛藤にまでいかないレベル。
「私に魅力がないってことですね……」
と、言いながら悲しそうに俯く。
「違うって! 美人だし魅力的だと思います!
でも、知らない人にいきなり言われたら怖いだけだから!」
多少酔っているのもあり、思ったことを全部話してしまう。
でも同窓会とかで飲んでて、素性のわかる女といい雰囲気になったら、酔った勢いあれば行っちゃうかも……って一瞬思ってしまった。
女がクスクスと笑い出す。
「正直に言い過ぎでしょ」
あれ? 笑った顔可愛いな。
パッと顔を上げられて目が合い、ドキッとする。
「本当に私のことわからないんですか?」
「お前酔った勢いでナンパすんなよ〜」
店から出て来た高橋の声。
それに続き阿部も出て来て女の方をチラッとみた。
「あれ〜如月さんじゃ〜ん」
え!? 如月ってあの……真田んとこの!?
全然違うじゃん!!
眼鏡外して髪下ろしてばっちりメイクしてるし私服だし!!
「ほんとだ〜何やってるんですか、こんなところで〜」
高橋も気づいた様子。
「成瀬さんに声掛けたんですが、全然私って気づいてくれなくて」
「え〜すぐわかるじゃん」
「だよな、酔っ払い過ぎなんじゃねえの?」
「いやわかんねえよ! お前らと違って何回かしか会ったことないんだから!」
高橋や阿部は本部会議で何度も会ってるが、俺はまだ数回だ。話したのも一言二言くらい。
「それで何の話してたの? 知らない女の人と」
阿部が俺たちを交互に見ながら聞いてきた。
「ホテルに誘ったんですが断られちゃいました」
え!? 言うのそれ!! 言っちゃうの!?
そしてやっぱりそっちの意味の朝までだった!?
高橋と阿部が一斉に笑い出す。
「アハハ……無理無理、成瀬そんな度胸ないから!」
「そうそう、コイツ落とすなら泥酔させなきゃ〜
それで学生の時に何回失敗したことか…ハハハ」
酔ってるのもあり言いたい放題だな。わざわざ言わんでいいことまで……
「だいたい何で成瀬なの〜? 俺は?」
阿部が面白がっているのがわかる。
「成瀬さんじゃないとダメなんです……」
「え! それって成瀬のこと本気って……」
「違います!!」
即答。
違うんかい! 俺の下心がちょっと傷つく。
「真田所長に言われたんです。
成瀬さんにハニトラ仕掛けて来いって。
独身より既婚者の方が炎上して面白いから。
まあ、本気かどうかわかりませんが。
……あ!でも全然する気はなかったんですが、
あまりにも成瀬さんが私に気づかないので言ってみました」
意地悪そうに笑いながら俺を見上げる。
危なっ!! ほいほい返事しないで良かったわ!
魔性過ぎるだろこれ……
「なんだ〜そうだよね〜。何もなかったら成瀬誘ったりしないよね〜」
阿部の安心した顔がちょっと腹立つ。
「私はこれで……」
離れた所に友達を見つけたらしく、俺たちに軽く会釈しながら離れようとする。
が、すぐに振り返り眉をひそめる。
「所長がまだ狙っているのでお気をつけください」
「どう思う?」
高橋が如月さんの背を見ながら話しかけてきた。
「ハニトラは本気で命令したんじゃないかな。
言いそうじゃん、あいつ」
「再来月には真田よりは役職上になるけど、俺の上に白井がいるからな〜……
何か起こった時にお前たちのこと守れればいいんだけど……」
阿部の言葉に少し不安を覚える。




